第16話 天の羽衣
どたばた葬儀事件から数日後。国では少し空気が緊張していた。
私が解巾の戦いで山賊を倒し、さらに復古革命後、この国を治めたという噂が他国まで広まってしまったからである。そのため、新興勢力で勢いのある私達を潰しにくる国もいることだろう。それで、空気が緊張しているのだ。
今の自分達の戦力はざっと2000人くらいだ。他の国はだいたい5000人くらいはいるだろう。それに大国であれば10000人は余裕でいる。
もし、相手が私達を潰すために3000人くらい兵をよこすだけでかなり危ない。
そこで、同盟を結べばいいと思うかもしれないが、同盟というのは、何か共通の目的があるなどのお互いに利益があるからすることである。今私達と同盟を結んだところで、すぐに他の国が攻めにくるかもしれないようでは、同盟を結ぶ国にとっては不利益になる。つまり、同盟を結ぶというのがそもそも無理なのだ。
それに、まだ私が国王になってから日が浅い。だから、軍の統制がうまくとれるかも心配だ。また、戦の時はやはり迅速な対応が必要だ。
そこで、まずは烽(のろし)を使った信号伝達の部隊を新設することにした。これは、2~5kmにつき、1つ高台を用意し、国境まで8方向に張り巡らせる。そして、敵が来たら、烽を上げ、それを見た隣の高台の者も烽を上げ、それを繰り返し王城まで、敵が来るということを伝達する部隊だ。
また、悪天候の場合は烽を上げることができないので、その場合は伝令を使うことになる。なので、戦うのが得意ではないが、足の速い者を選出し、とにかく迅速に敵が来ることを知らせ、王城で敵を迎え撃つ準備をする時間を稼ぐという役割だ。
また、これは単純であり知ってる人も多いかもしれないが、経済を発展させることで国を豊かにして兵力を強める。いわゆる富国強兵だ。明治時代の日本も行っていた政策である。だが、これは長期的には意味があるが、短期的にはあまり成果がでないのが難点だ。
あとは単純に訓練だ。兵士には自分の得意な役割をやってもらうことにし、それぞれ弓や刀など、一番強い人が直々に部隊のみんなに教えることで、一気に戦力を強めるつもりだ。
それに、毎日走り込みを絶対にすることとした。戦いの場では、長く戦い続けることは、単純な強さの次におそらく大切だ。だから、毎日、走り込みをすることで、体力をつけることができる。
さらに、部隊を5個に分けて、それぞれ隊長を設けることで、私の命令を速くみんなに伝えるということも行うことにした。ちなみに、隊長は景泰、慶護、藤井、小城、杉崎の5人だ。
最初の三人は主力部隊だ。相手と正面から戦っても破れない屈強な部隊だ。ちなみに、初めて聞く人も多いと思うが、藤井というのは、隼翔の国で樹さんにずっと仕えてきた、元将軍の藤井柊だ。もちろん、めちゃくちゃ強い。それに、みんなからの信頼も厚い。そんな人だ。
そして、小城類。この人も隼翔の国の元兵隊だ。ただ、小城の部隊はさっきの3人の部隊とは違い、ゲリラ部隊というものだ。相手に奇襲をかけて、混乱しているところを討つ。そんな感じだ。
最後に杉崎の部隊だが、これは、サポート役だ。道具の製作や医療など、戦うのに必要なものを揃えるといったところだ。この5つ部隊の上に私と樹さんの司令塔がいて、みんなに連絡や命令をするという感じだ。
そして最後に農民の避難訓練だ。敵が来たことを烽で知ったらすぐに農民が避難できるようにしたい。だが、実際に敵がきたら絶対に混乱する。
そこで現代人には馴染み深い、避難訓練を行うことで混乱を最小限にし、速く農民を避難させて、軍隊は戦の準備をすぐに始められるという仕組みだ。ちなみに、どこに避難するの?って思うかもしれないが、王城の地下に大きなシェルターを作り、そこに避難してもらう。
ここまでのことをまとめると、①烽の施設②富国強兵③訓練④隊長を作る⑤農民の避難訓練。この5つだ。
ちなみに、この案を元私の父の家臣の5人に言ってみると、
「これ誰が考えたんですか?」
「私だよ。」
「え、舞衣様なんですか?意外!」
「本当に舞衣様が作られたんですか?」
「えー心外だなぁ。私だってそんなバカじゃないですぅ。」
「まあ、13年の間で幾度となくおバカな姿を見させられてきましたからね。」
「例えば?」
「例えば、この間やったスイカ割りで、みんなが右!って言ってるのに、左に行ってるとか。」
「...」
「こないだも何もないところで滑って、その後、柱に激突して1日中、目を覚まさなかったとか。」
「...」
「それにてんてこ舞衣ってさ、よく冗談を真に受けるよね。前に小川村にいた時に俺がお前の机の上に『あなたの好きな人は誰ですか?今日中に書かないと呪われます。』って書いた紙を置いといたら、『え?呪われちゃう。早くしないと。』って言って書いてたし。しかも、俺達や村の者まで全員の名前を一人ひとり丁寧に。」
「あれ、慶護の仕業だったのか。やられたぁ。」
「あと絵が下手なのに上手いと思ってるところとか?」
「え?私の絵って下手なの?」
「はい。」
「お母さんが上手いって言ってくれたから、自信持って書いてたのにぃ。」
「やっぱ、舞衣様は天然ですよね。」
「私は天然じゃないです。」
なんか、恥ずかしくなってきたので、
「ちょっと、お手洗い行ってきます。」
そう言って、部屋を出て右に曲がると、なぜかみんなが笑っている。
「舞衣様。お手洗いなら左ですよ。」
「え!?えぇ。もぉやだぁ。」
もう恥ずかしすぎてその場でうずくまってしまった。
「でも、そんな舞衣様だからこそみんなついてくるんじゃないですか?」
「舞衣様は人間味があって好きです。」
「それに、真面目な時は真面目だし。」
「農民を大事にする姿勢も素敵です。」
「どんな時でも舞衣様についていきます。」
「みんな!みんなぁ。ありがとう。」
自然と涙が溢れてきて、嬉しくて嬉しくてこんなにみんなに想ってもらってたんだと思えて、さっきまでの恥ずかしい気持ちはどこか遠くに飛んでいった。
その後すぐに作業に取りかかった。とにかく急ぐことが自分達の身を守ることだと、皆が気づいていたから、みんな一生懸命にやっていた。たった3日で烽台は完成し、農民の避難訓練も最初はかなり時間がかかったが、何回かやるうちに時間が半減までして、着々と準備が整っていた。
訓練も隊長や私のような者を中心として、教えにかかった。初めて弓を使うような者でも意外と才能がある人や逆にいつも弓を使っていたが刀の方が実は向いているという者もいた。
なかなかいつもは上手い人に直接話を聞く機会がない分、一気にみんなが上達していった。コツが分かった時に嬉しそうにするみんなの顔が私の心まで嬉しくさせた。
いつもは厳しそうな顔をしていた者がみんなに気さくに声をかけて教えているところを見て、こんな顔をするんだと思ってびっくりした。みんなが昨日の自分とは違うんだと確信してたくましくなっていくのがかっこよかった。
*****
その頃、隼翔の隣国の、関東地方にある渇辣の国。将軍の諏訪健が王の大倉連にある話をしていた。
「王様。隼翔の国では今まで治めていた安斉がやられて、今度は女が国王になったらしいですよ。攻めるなら今なんじゃないですか?」
「そうだな。女が国王をやってるということは、普通に考えて周りもそいつについていこうとは思わないし、それにもともと隼翔の国は片岡樹が治めていたから強かったものの、安斉が下剋上してからは、貝取真が裏にいなければすぐに陥落していたような国だ。だから、簡単に倒すことができよう。そうだろう。諏訪。」
「はい。俺の家に代々伝わる大和雲浄流を使えば、あんな弱小国、簡単に捻り潰せますね。今すぐにでも攻めに行きましょう。」
「そうやってやる気があるのは嫌いじゃないが、最近、戦ばかりだったから、皆を少し休ませてから戦いに望もう。だから、攻め入るのは、1ヶ月後にしよう。」
「そうですね。それではみんなに伝えてきます。」
*****
そして、1ヶ月後。烽が東からどんどん上がっているのを見て、
「烽が上がっています。おそらく敵は渇辣の国です。」
「そうか。では、私達も迎え撃つとしよう。」
農民は訓練通り、すぐにシェルターへ行き、兵士は練習通りに自分の持ち場へ向かい、私は敵と正面から戦うために騎乗した。
「舞衣様。益田広志様がお見えになりました。」
「お、伝令ありがとう。いいタイミングだ。私達の門出にふさわしい。」
「久しぶりだな舞衣。俺がここに来たということは、これがついにできたということだ。受け取ってくれ。」
「ありがとう。この刀の名前は何て言うんだ?」
「それはな、お前がつけろ。」
「うーん。そうだなぁ。」
そんな急に言われてもでてこないな。刀が青いので、なんとなく空を見ていると、月がきれいに光っていた。
「はやくしないと、やばいんじゃねーの?」
広志さんが急かすから、ふと頭の中にでてきた
「天の羽衣なんてどうだ?」
「いい名前じゃねぇか。これから、出発だろうから、俺はこの辺でお暇しとくよ。」
「本当にありがとうな。元気でな広志さん。」
広志さんはこっちを向かないで、私に「お前もな。」と言うように、歩きながら手を上げてバイバイした。
そして、準備が諸々できたところで、みんなの士気を高めるために、
「それじゃあ、行くぞ!」
「おー!」
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