第15話 山頂決戦

 頂上に着くと、かなり大きな家が建っていた。一般的な学校くらいの大きさのある平屋の家だった。きっと、昔からこの国の王様に仕えてきた家系だからかと思った。


「兄さん。客人だよ。この国の王様の舞衣様。」


「ふーん。こんなちっこいのがか?」


 私は身長のことに関して言われるといつもぶちギレるが、今回はこっちがお願いする場だし、平静を保った。


「無礼ですよ。兄さん。まあ、注意しても聞かないことは知ってるけど。それで、兄さんに刀を作ってほしいんだって。」


「どうせ、親の七光り野郎だろう。俺は気に入ったやつにしか刀は作らない。今のうちに諦めて帰るというなら、許してやるが、そうじゃないなら、どうなるか分かってるよな?」


「あぁ。お前と戦って勝てばいいんだろ。一応、言っておく。私は親の後を継いでこの国の国王になったわけじゃない。後で後悔するのはお前の方だ。益田広志。」


「口だけは達者だな。まあ、久しぶりの挑戦者だし、受けてたつか。」



 勝負は真剣で行われた。つまり、負けた方は少なくとも大怪我を負うか死ぬかもしれない。だが、私が勝ったとしても、この者を殺してしまっては何の意味もない。だから、勝負はあの技で決める。



 試合開始

 まずは、相手の様子を伺う。相手はかなりの手練れだな。一切隙がない。さっきから、桜華で相手の攻撃を流しつつ、陽梅で連続して相手に攻撃をいれている。普通の人なら、ここらへんで隙が絶対にできるのに、この人は一切隙がない。やばいっ。こいつは強い。


「意外とやるじゃねぇか。でも、俺に刀を作らせるにはこんなんじゃだめだぜ。」


 どうしよう。今のままじゃ、負けてしまう。何か仕掛けないと。私は右手人差し指を前に出して、


「あ、UFOだ。」


 と言った。


 すると、相手は後ろを向いた。今がチャンスだ。というか、こんなのに騙されるやついるのか。もらったぁ。


 あれ。


 なんとなく、この時私はこれは敵の罠だと直感的に思った。だから、相手に飛び込んで行っていたところ、足を止めてすぐに引き返した。


 すると、やはりこれは敵の罠で、もし突っ込んで行ってたら、今頃死んでいた。


「お、よく気づいたな。今のをかわすか。」


 どうしよう。こんなん無理だろ。


 でも、私が知っている昔のどんなにすごい剣豪であっても、負けることはある。最初から強いわけじゃない。


 今、確かに私と相手では互角がいいところだが、この勝負の間に私が相手よりも一歩でも成長すれば、勝てる。


 何より私には、相手が持っていない力がある。それは、わざわざ鍛えた足の速さと、小回りのきく、この小さい身長。まさか、この身長がこんな時に役立つとはな。


 一気に仕掛けよう。まず私は相手の方へ向かって思いっきり走り出した。相討ちを覚悟しているかのように。

 そして、相手のすぐ近くまできた瞬間にスライディングをして、相手の背後へとまわった。

 ここで、さっき猛獣にも実は使っていた技。令幻桃霞、峰打ちver を相手の首目掛けて撃った。


「その技は...」


「そうだ。私の父であり、あなたに刀を作らせた浅霧明正が使っていた技だ。」


 益田広志が倒れた。


 ちなみに、前に私はあまり桃が好きじゃないから桃が入った名前の技がないと言ったが、実は父の使っていた技に名前をつけたが、みんなにみせるのは少し恥ずかしかったから、ついでにこの技名に使っていた桜梅桃李の桃を好きじゃないとてきとうに嘘ついたのだ。




 さすがにこの技をくらったら、死にはしないが、気を失うので、気を失った広志さんを家に運んだ。


「っていうか、はじめさん。さっきご飯食べさせてくれるって言ってたのに、まだ食べさせてもらってないよぉ。」


「ごめんごめん。やっぱり、ここに来たら、兄と戦うことになるのは確かだったから、その後になることは気づいているのだろうと思っていました。」


「確かにそっか。でも、戦った後のご飯は絶対おいしいから、むしろいいかも。」

「なら、よかったです。」



 はじめさんの奥さんがカレーライスを作ってくれた。てか、カレーってこの未来にもまだあるんだ。


「なにこれ!美味しい!」


「喜んでもらえて、よかったです。さあ、もっと食べてください。」


「これなら、無限に食べれる。」


 今までに食べたカレーで一番美味しかったから、もし自分が犬だったら、待て!と言われていても、きっと待たずに食べていただろう。



 夕食が終わって、ようやく広志さんが起きた。


「やっぱ、俺はお前に負けたのか。夢じゃなかったようだな。約束通り刀を作ってやる。それにしてもすんごいいいタイミングで来たな。ちょうどこの間刀を作るのに一番いい材料が届いたばっかりなんだよ。

 この青色の石はな、混沌石っていって、これはめちゃくちゃ貴重で、100年に一回くらいしか見つからないような素材なんだ。俺も言い伝えでしか聞いたことないような代物だ。

 でもその分、何年経っても錆びないと言われてる。他にもすごいことがあるらしいけど、忘れちまったな。」


「そんな貴重なのを私なんかに使っていいんですか?」


「まあ、俺を唸らせたあの人の娘というなら、出し惜しみはしないし、それに俺ももう52歳になる。今回作るので、最後にしようと思うから、過去一の最高傑作にしたい。」


「え?52歳。あんなに動けていたのに?」


「そんなにびっくりすることないだろ。」


「ちなみに、なんで今までに誰かの刀を作ったことが2回しかないんですか?」


「まあ、本当は3回なんだが、いろいろあって、どこかにしまっていたらどっかにいっちゃって、というかそんなことはどうでもいいか。それで、少し重い話になるけど、いいか?俺が20代の頃」


(って、まだ話していいよって言ってないんだけど。まあ、いいか。)


「俺の家は代々有名な鍛冶屋の一族で、だから、俺達の作る刀っていうのは、高価で王族とかくらいしか使えないくらいの代物だった。だから、せっかく作ったのに盗まれることもあったし、狙われることもあったらしい。ちなみに、自分達も狙われるから、剣術も代々受け継がれている。」


「だから、鍛冶屋なのにあんなに強いんだ。」


「そうだ。そういうことだ。それで、俺には親友がいた。彼は町に住んでいる人で、王族ではないが、立派な隼翔の国王軍の一人だった。

 俺が時々町に行くと、だいたい彼と一緒に行動する。いろんな遊びもした。俺は彼へいつものお礼の気持ちとして、刀をプレゼントすることにした。俺は一族の中でも天才と呼ばれていただけあって、ものすごい切れ味の刀を作った。その刀をプレゼントすると、彼はすごく喜んでいて、同時に俺もとても嬉しかった。

 その刀と彼の努力の賜物だが、彼は幾度の戦争で活躍して、一躍有名になった。

 だが、それを妬む者もいた。ある時事件が起きた。彼の命とその刀を狙って、本来仲間であるはずの同じ国王軍の者が彼を襲った。現場には、彼と彼を襲った者、それに物陰からそれを見ていた子供が一人いたが、彼のことを助けることができるはずもなかった。

 ただの戦であれば、彼は何人に囲まれても勝っていたかもしれない。けど、彼も人間であるから、急に味方に襲われたら混乱してかなりの隙が生じてしまう。結果的に彼は暗殺され、それを行った人が誰であるかも分からなかった。

 それ以来俺は刀を作るのをやめた。よく俺の噂を聞きつけてやってくる者がいたが、俺は刀を作るのをやめたので、作らなかった。そうすると、もちろん反発して俺を襲ってくる。だから、戦うことにした。

 ちなみに、俺の元に訪れる者が死ぬという噂は嘘だ。俺も戦いをたくさんやっていると疲れるし、面倒だなと思って、そういう噂を流したのだ。だが、それでも良い刀を求めてやってくる者はまだいた。

 いつもは、あっさり俺が勝ってしまってつまらなかったし、何よりそんな弱いやつに俺の刀をあげたら、俺の親友のように襲われた時に簡単に奪われてしまうだろう。

 そんなある時、俺に戦いを挑み勝った者がいる。それが、お前の父親だ。実はやつが俺を倒す時に使ったのが、お前が俺を倒した時に使ったのと同じ技だ。やつはお前と違って変な技名はつけてなかったけどな。」


 我ながら恥ずかしくなった。


「いいじゃん。名前があった方がかっこよくて。」


「別に悪いとは言ってないが、まさか人生のうちで、二度と負けることはないと思っていたが、まさかその娘に同じ技で負けるとはね。ちなみに、お前の父親は、惚れた女を守るために強くならなくちゃいけない。とか言ってたぞ。お前は何かそういう理由があるのか?」


「私はただ、私の仲間を国民を守りたいだけで、父のようなキザなセリフは言えないよ。」


「それじゃあ、刀はできたら王城まで持っていくから、もう帰っていいよ。」


「えー。泊めてくれないの?もう、夜だよ。こんな、か弱い子を夜中に放り出すの?」


「俺に勝ったんだから、か弱くないだろ。まあ、一晩だけな。明日になったら、追い出すから。」


_____


 トン!トン!カン!カン!


「んーいい朝だー。」


「おはようございます。舞衣様。」


「おはよう。はじめさん。それで、この音は何だ?」


「兄さんが刀を作る音です。昨日、舞衣様が寝られてからずっと、やっています。それにしても、こんなに楽しそうに作っているのは久しぶりに見ます。いつもは、誰かのために作っていたわけではなく、私達一族のこの伝統を消さないためにみんなに教えるために作っていました。ですが、今回は舞衣様のために作ることとなって、とても張り切ってます。」


「ずっと、やってるのか。大変だな。でもなんか、いいことした気分だな。」



 広志さんの元に行き、帰りの挨拶をすることにした。


「広志さん、おはよう。」


「まだいたのかよ。今作ってるから邪魔するなよ。」


「まあ、それもそうだな。刀作ってくれてありがとな。じゃあ帰るから、バイバイ。」




 私が山頂決戦が終わって、山から帰ってくると、国ではなぜか皆黒い服を着ていてまるで誰かの葬儀でもやるようだった。そこで、気になって、町の人に聞いてみた。


「これって、誰かの葬儀ですか?」


「え、あんた知らないの?国王様が亡くなられたそうよ。」


「え、そうなんですか?」


 私はもしかして樹さんが私がいない2日の間に急に亡くなってしまったのかと思って、王城へ向かった。すると、葬儀のところには私の似顔絵が描かれたものが飾ってあって、まるで私が死んだかのように振る舞われていた。


「え?私、死んじゃったの?」


 数秒してから、(ってそんなことあるかー!)と心の中で一人ツッコミしつつ、


「みんな。これは、どういうこと?」


「あれ?舞衣様。生きておられたのですか?」


「そりゃ生きてるよ。逆になんで死んだことになってるのさ。」


「噂ではあの山に入ったその日に帰ってこなかったら死んだって言われているので、てっきり亡くなられたのかと。それと、神朴山のルールで、その日中に帰ってこなかった者の葬式はすぐに済ませないといけないというのもあって。

 まあ、以前から舞衣様と同行していた人たちはみんな山に入ろうとしていましたが、神朴山のルールは絶対に守らないといけないと樹様に止められていましたけど。」


「そんなぁ。あの山に関する噂は全部あの鍛冶屋がついた嘘だよ。」


「なんだぁ。心配して損しました。けど、今ここにいるっていうことは、刀を作ってもらうことになったということですか?」


「うん。あいつとの戦いで勝ってな。」


「本当によかったです。おめでとうございます。」


「あぁ。みんなも心配してくれてありがとな。」


 前世ではあまり味あわなかった、たくさんの仲間がいるということが私にとってとてもかけがえのないものなのだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る