第17話 絶望

 それにしても、広志さんからもらった刀の天の羽衣は普通のと比べて軽いな。これなら、私みたいな華奢な人でも使いやすいし、より連撃の陽梅を使いやすい。


 けど、本当にこんな軽くて切れるのか?試しに木の枝でも切ってみるか。と思って、少し太い枝を切ってみると、スパっと切れた。


「えぇー!すごーい。」


「舞衣様。何してるんですか?早く行きますよ。」


「えー。この刀のすごさに浸っていたのにぃ。」


 まあ、すごさが分かったから、いいや。と思って、すぐに出発した。


 とは言っても、今回の戦いはほとんど私達の活躍はないと思う。


 なぜなら、絶対に相手は油断しているからだ。相手にとって私達は、新しい国王になったばかり。そうなれば、誰であっても油断するだろう。だから、普段は気を引き締めるようなところでうっかり。なんてことがおそらく起こるだろう。


 それに、今は夜だ。もし、私達の城まで攻めに来る途中で敵に不意打ちを喰らわせれば、混乱して、敵は敵同士で斬り合うことになるだろう。特に私達がこの1ヶ月で強化したゲリラ部隊が相手では。


 ちなみに、大きくて平坦な道は普段は安全だし、一気にたくさんの人が通れて便利だが、戦においては、伏兵の可能性があり、一気にやられる危険性がある。


 もちろん、獣道も同じことが言えるが、道が険しいため、伏兵もたくさん置くことができない。その分、安全である可能性もある。


 だが、敵は油断している。普通なら伏兵を置くだけの時間はないが、烽や訓練などにより、短時間で敵を迎え撃つ準備ができている。敵は夜の奇襲みたいな形だから、伏兵がいるとは思っていないことだろう。



「うわぁー!?」


 ゲリラ部隊の作戦が始まったようだ。


 ちなみに、道には様々な罠を用意していて、ゲリラ部隊はこの戦場に合わせて、訓練されているため、完全に彼らの方が優勢である。




 数分ほどして、連絡が来た。


「報告します。敵兵、最初は5千人だったのが、今は3千人ほどに減少しました。」


「おぉー!そんなにか。」


「それと、そろそろこちらにも敵が向かってくるようです。」


「分かった。それじゃあ、正面組も突撃開始。」




 ちなみに、今回の作戦はイメージとしては四面楚歌だ。ただでさえ、敵はゲリラ部隊によって混乱している中で、気づいたら周りに自分達よりも多くの敵に囲まれていたら、もう諦めてしまう者もいるだろう。そういう作戦だ。


 ただ、自分達は兵士の人数が圧倒的に少ないのに、どうするの?って思うかもしれないが、戦国時代の人口のうち9割が農民などの非戦闘員だと言われている。だから、協力してくれる若い農民達を部隊の後ろの方に置いておくだけで、人数が数倍に膨れ上がる。


 そして、相手にプレッシャーをかけ、敵兵がこんなにいたのかと錯覚させることができ、最終的には諦めた敵を仲間にすることができる。


 みんなはそんな簡単にいかない。って言ってたけど、絶対うまくいくでしょ。今のところ私が考えた作戦全部上手くいってるわけだし。




 そして、敵3千人の周りを農民を含め、私達2万人(兵1700。農民約1万8000。)が囲んだ。囲んでみると、思ったより3千人というのは多くて驚いたが、こちらはその敵以上のかなりの人数がいる。


 ちなみに、戦においては、散らばっているよりもまとまっている方が強い。つまり、相手は今まとまっているため強いが、多勢に無勢。私達の方が見た目での人数は圧倒的に多い。いくら形勢的には相手の方が有利でも精神的なダメージは相手の方が大きい。


 そのため、どんどん敵を倒していくことができた。


 しかし、相手は長年生き残り続けている渇辣の国。そんな簡単にはいかなかった。私は戦国時代というのを少し舐めていたのかもしれない。



 実際のところ、多勢に無勢を喰らっているのは、自分達だった。


 ゲリラ部隊を除いて、自分達は1700人とかそれくらいだ。だが、相手は3000人くらいいる。それに私達の2万人の幻覚にひるんだ敵も多かったが、その反面ひるまない敵も多かった。だいたい半分ずつくらいだ。


 ひるんでいる敵を蹴散らしてからは、もうお互い総力戦となった。


 ただひたすらに目の前の敵を倒して、どちらが勝つかの大勝負。もちろんこんな戦いをしてお互いに何も利益はないことは分かっている。


 しかし、ここで逃げれば無駄死にする者が多く出る。というか、そのまま城まで攻められて全滅してしまうかもしれない。そうなったら、もう誰も守ることはできないのだ。みんなそれを分かっていたから、とにかく戦った。




 おそらく今の隼翔の国で一番強い景泰は、渇辣で一番強い、将軍の諏訪健と戦っていた。景泰は、元々ジイや私の父、明正に剣術を教えてもらいつつ、景泰の父の光泰からも多田家に伝わる剣術を受け継いできた。それに、父親譲りの体格の良さにより、すごいパワーを発揮できる。だからこそ、隼翔最強といえる人物だ。


 それに対して、相手の諏訪健も代々、諏訪家で受け継がれている大和雲浄流という二刀流の剣術によって、渇辣の国の将軍まで上り詰めた。


 そんな二人の戦いは凄まじく、私なんかが割り込んで入ったら、たちまち殺されるだろう。そんな感じだ。


 景泰が果敢に攻めると、諏訪は上手く一本の刀で防ぎながら、もう一本の刀で、景泰の胴を攻撃した。


 幸い、傷は浅かったからよかったが、これからの戦いに支障がでるのは明らかだ。しかも、景泰が諏訪に負けると、他に諏訪に対抗できる人もおそらくいないだろう。


 でも、景泰にはまだ秘策があった。多田家に伝わる二刀流の夕霧宵星流(ゆうぎりしょうせい)だ。景泰の父、光泰は短命で景泰が11歳のころには亡くなっていた。そのため、夕霧宵星流は本当はしっかりとは受け継がれていなかった。それで、景泰は普段から慣れている一刀流で諏訪に挑んだが、結果として傷を負ったのは景泰だ。


 だから、二刀流には二刀流で挑んだ方がいい。そう思って、一応、万が一の時のために夕霧宵星流を自分なりに磨いていた景泰は、夕霧宵星流を使うのだった。


 最初、景泰が二刀流にした瞬間は相手も初見殺しのような感じで、さっき景泰が受けた攻撃をそのままお返しして、五分五分にした。そこからは、お互い一歩も譲らず、最高峰の二刀流の戦いをしていた。




 その頃、同じく隼翔の隊長である慶護と最強のお爺さん三浦は、敵の葎壮と葎正という葎(むぐら)兄弟の2人と戦っていた。


 正直、慶護は私と同じくらいの強さだから、場合によっては隼翔の中に慶護よりも強いやつはいるかもしれないが、それでも私が慶護を隊長に任命したのは、人の良さからである。

 よく私のことをからかうし、ミスだってよくするけど、面倒見がいいから、自分の部隊を強くするという面においては誰にも負けないし、なにより我流で磨いた剣術は相手にとってもやりづらい。


 そして、ジイは言わずもがな強いので、この二人のコンビはなんだかんだ厄介だ。


 けど、相手は全然その二人についていけていた。なんでも、20年以上付き合いのある、兄弟のコンビネーションは本来の強さを最大限に発揮する。


 それに対して、慶護とジイの二人が出会ったのは小川村で戦った、たった数ヶ月前。いくら一人ひとりが強くても、二人で強くないといけないこの戦いは、意外と大変そうだ。それに、ジイは強いが歳はもう70までいっている。だから、体力的な問題もある。


 相手のスタイルは、兄の壮が攻撃に専念し、弟の正が守りに専念することで、お互いの得意分野を最大限生かすという形だった。


 慶護とジイは最初のうちは個人技のような形で勝負していた。


 だが、相手の弟の正が防御しかせず、一切攻撃してこないことに気付き、さっきまでは片方が兄の壮の攻撃を防御して、その間、弟の正に攻撃していた。


 それをあえて、一回二人で兄の壮の攻撃を防御し、いつもより余裕の出た分、防御の後二人で兄を一気に攻撃した。すると、兄の壮は防御することができず、倒れた。


 あとは、消耗戦に持ち込めば、2対1なら、必ず勝てる。つまり、兄の壮を倒した時点で決着はついた。




 そんな中、私はというと、あまり活躍はしていなかった。


 別に私は弱いわけでもないが、強いわけでもない。やはり決め手に欠けるのだ。


 パワーで男性諸君に勝つことは、元々筋肉があまりつきにくい体質もあるせいで、絶対に無理だ。


 それに、こういう乱戦のような、一対一じゃない大きな戦いは初めてだから、全方向に注意を向けながら戦わなきゃいけないのは、難しい。


 それに、さっきも言ったように私は決め手に欠けるのだ。広い場所で一対一であったら使える技も今は使えない。


 自分が活躍してないだけなら、まだよかっただろうが、私の作戦が思ったよりも上手くいかずに、このような乱戦になってしまった。


 そして、たくさんの仲間が死ぬのを隣で戦いながら見てきた。


 私は無力感に苛まれながら、目の前の戦いと自分を責めてしまう私の心の中の戦いの2つをしていた。




 総力戦となってから、かなり時間がたったのだろうか。だんだんと勝敗はついてきた。景泰と諏訪の戦いも、慶護とジイの二人対葎兄弟の戦いも、隼翔側が勝利した。他の戦いでも互角の戦いが多くあったが隼翔側が勝利した戦いが多かった。


 それは、これほど長い時間戦い続けると体力の消耗も激しい。だが、この一ヶ月間毎日走り続けて体力をつけた分、後に「慄辛の戦い」と呼ばれる、この戦いは私達に分があったようだ。


 相手の最後の一人を倒すと、


「勝ったぞー!」


 みんなが歓声を上げていた。


 この戦いでは多くの仲間を失う結果となったが、そこから得る物もあった。とりあえずこの戦いに勝って、安心した。はやく、ご飯を食べて寝たいなとも思った。そう思った時、


 西から烽が上がるのが見えた。


「えっ!?」


「そんなぁー。」


「...」


 みんなが落胆した。泣いていた。


 ここでまさかの新たな敵の進軍だった。

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