第11話 実状
さっそく、私と景泰と慶護は別々に隼翔の国の城下町に入った。私が先ほど言ったように国王を暗殺する役で、景泰と慶護が情報収集などをする役だ。
隼翔の国でまず目に入ったのは、やつれた農民達だ。細々とした体で今にも倒れそうな状態で、農作業をしている。話に聞いた通り、そうとう農民のことを虐げているな。はやく助けてあげなくちゃ。
まずは自分の存在がこの国の国王に知られるために、噂をたてて、国王が私に会いたいというようになるのを待った。
ちなみに、国王の好きなタイプはリサーチ済みなので、化粧や服装、仕草でそのようなタイプにして、絶対に一目惚れすること間違いなし。
すると、数日後には国王の家臣を名乗る者が私のもとへ来て、
「王様があなたにお会いしたいとお呼びです。」
と言われたので、すかさず、
「私もお会いしたいです。」
と言って、国王のもとへ向かった。本当は焦らして、私を呼んでも会えなくて、何回か呼んでようやく会えたら、より好かれるだろう。でも、そんなことをしていたらきっと処刑されるか奴隷にでもされるから、さすがにその作戦は諦めた。
そして、今のところすごく順調だ。というか、思ってた以上だ。この国王の女好きというのは。
_____
そして、国王に謁見することになった。国王は農民とは対照的に、だらしない程太っている。第一印象は最悪だ。
「連れてまいりました。」
「よくやったぞ。そして、よくいらした。噂通りの美しい顔じゃ。名前は何というんじゃ?」
「舞衣と申します。」
「舞衣か。かわいらしい名前じゃのう。」
「ありがとうございます。それで、今日はどのようなご用件ですか?」
「急な申し出だが、舞衣よ、私の16番目の嫁にならないか?わしは一目惚れしてしまったようじゃからな。」
「本当ですか?王様がこの私を愛してくださるというのなら、私にとってこの上ない幸せです。ただし、条件があります。」
「条件?」
「まず、私はまだ王様のことを深く知りません。なので、もう少し長い時間をかけてお互いのことを知りたいと思います。
それに、私はまだ15歳と若年であるので、いくらお相手が王様であっても、夫婦の契りを結ぶには、もっと相手のことを知らないと怖いというものです。そのような状態では王様を満足させることもできないでしょう。
ですから、私がもう少し大人になる頃。そうですね。16歳になるまで待ってはいただけませんか?」
「まあ、いいじゃろう。むしろ、将来の楽しみが増えて嬉しいぞ。それに、舞衣のわしへの誠意が伝わったしな。」
「ありがとうございます。それともう1ついいですか。」
「よかろう。」
「私を一番に愛しているという誠意をお見せください。私も女ですから、好きな人には一番に愛されたいものです。ですから、私のことを一番に考えてはいただけませんか。」
「若いというのに、すごく積極的じゃな。気に入ったぞ。それに、顔もどストレートでわしのタイプじゃから、なんでも言うことを聞いてあげようぞ。」
「ありがとうございます。」
それよりこの王様きもいな。吐き気がするわ。顔や体型もそうだが、それ以上に心が汚れている。まあ、そのおかげで、簡単に潜入することもできたし、私の上手い演技に騙されてくれたから、助かったぜ。
でも、夜だけは気を付けないとな。誰に襲われるか分からないし。王だけじゃなくて、その妻15人も実質私の敵のようなもんだし、あんまり目立つとやばいかもな。
そんなことを思いながら、王様のもとから立ち去り、町を歩いていると、何やら騒がしい。見てみると、男が壁に磔(はりつけ)にされている。話に聞いていた公開処刑が行われようとしている。
磔にされた男は、ずっと城の方を睨みながら、悔し涙を浮かべている。
「この男は、税金を払わないだけでなく、国を転覆させるために武器を集めていた。王様からの恩を仇で返すとは、最低なやつだ。今から、こいつを処刑する。でも、まだ聴衆が全然いなくてつまらないから、10分後に始める。はやく人を集めないと、この町の税金をもっと増やすぞ!」
助けてやりたいが、今ここで助けたら絶対に目立つし、自分がやったのがばれる。そうしたら、他の大勢を助けることができなくなる。だから私はその場を立ち去った。
10分後、処刑が始まろうとしていた、その時、
「火事だ。山火事だ。はやく鎮火しないと城まで燃え移るぞ。」
遠くの人まで伝わるように、男がそう叫んだ。
「おいおい、それは本当か?」
「さっきすれ違った女の子に言われて山を見てみたら、本当に火がついていて、結構広がっていたぞ。」
税金が増えるのが怖くて集まった聴衆も自分の家に燃え移ったら大変だから、磔(はりつけ)から離れて、それぞれ自分の家に向かった。
さすがにこうなっては、処刑しても面白くないし、火事が万が一王様のいる城までまわったらやばいので、処刑を執行する役人は火事があったという山まで向かった。
その間に私は人目を盗んで、処刑されるはずだった男を助けだした。
「本当にありがとうございます。」
「とりあえず、今は逃げろ。隠れてどこかに住むか、他の国まで行けばきっと大丈夫だろう。それに困ったら、私の仲間がいるから、そいつらを頼れ。場所はこの紙に書いてある。」
私が紙を渡すと、男はお辞儀をして、そのまま走り出した。その時に男が持っている刀の鞘に印がついているのが見えて、どこかで見た気がすると思ったが、私もここに居続けては怪しまれるので、とりあえず王城に戻った。
王城では、空いている部屋を使っていいと王には許可をもらっていたので、そこに連れていってもらって、一休みすることとした。
でも、火を起こすのは、一苦労だった。なにより、時間がなかったから、上手く周りに火事だー。と言う人を用意しなきゃいけないが、山の近くに住む人がたまたまいて本当によかった。なんとか助け出すことができたが、それにしてもひどい国だ。
***
そして、1カ月くらいが経った。この1カ月の間は上手く王に好かれるために行動してきた。
なにより辛かったのは、王が農民のことを愚弄した時に、自分も「そうですね。」と、それを肯定しないといけないことだ。しかも、笑顔を保って。
その他には、いろんな可愛い服を着て、それを王に見せて、王の目の保養にすること。それに、「将来、夫婦になるならば、わしの体を流すことくらいはできるじゃろう。」と言われて、汚い裸を見させられて、汚い体を洗わなきゃいけないことだった。
あとは、王城を歩いていると急に後ろから抱きついてきた時なんかは、気持ち悪いし、面倒だし、堪忍袋の緒がきれそうになったが、自分の感情を抑え、王を上手く諫めていた。
けれど、努力が実を結んだのか、ついに今度二人きりで出かけようと言うと、行く行く。とすごく乗り気だったので、もうこれは勝ちを確信した。
もう、この王であれば殺すことになっても全然抵抗を感じないだろう。この1ヶ月で何人もの善なる農民が処刑された。さすがの私も何度も外に行くと疑われるので、全員を助け出すことはできなかった。
あともう1つ分かったことがあった。それは...。
だが、今日のこの作戦で、これも全て終わる。
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