隼翔の国編
第10話 隼翔の国の国王
慶護率いる山賊50名が新たに仲間に加わった私達一行は、自分達の拠点が必要ということもあって、これから先のことを話していた。
「さすがに、この村に居座り続けるのは、この大人数だから、迷惑じゃないか?食事とかも大変だし。」
「確かにそうですね。舞衣様。でも、行く宛もありませんがどこに行くこととしましょう?」
「うーん。そうだなぁ。村長達も交えて、改めて話し合うこととするか。」
村長を呼んで話してみると、
「舞衣様一行は若い方が多いし、とても元気で、よく働いてくれるおかげで、助かっています。ですから、もし舞衣様達がここに滞在したいというのなら、私達としては、あなた達を拒むということはありません。ただ、家の数が足りないと思うので、今日から、家を建てたほうがいいと思います。」
ということで、とりあえず小川村に滞在することになり、まずは家を建てることにした。杉崎はなんでも作るということは得意なので、杉崎をリーダーとして、建設作業が始まった。
そんなに現代風な家じゃないから、一ヶ月程で全部完成した。ちなみに、建設は昼と夜で交代して行い、暇な時は寝るか、食料調達か、修行をすることにした。
そして、家が完成してからは、できるだけ修行に打ち込むことにした。解巾の戦いが終わってから6ヶ月が経った頃には、元結巾メンバーもかなり上達していた。
慶護なんかは、私と同じくらいの強さまで追い上げてきた。おいおい、上達するの早くない?私が13年かけてきたのを半年で、って。
ある日、いつも通り修行をしていると、小川村に知らない男が、誰かから逃げているかのように走ってきていた。
「たすけてぇ。たすけてください。誰かいませんか。」
そう大声で叫んでいたので、なんだろうと思って、家を出て、
「ここにいまーす。」
と言って、手を振って呼んでみた。すると、50代くらいのこの男はやってきて、事情を説明し出した。
_____
男によると、男は隣国の隼翔の国から逃げ出してきた人であった。
この男がなぜ逃げてきたのかを年代順にして整理すると、隼翔の国は今まで片岡家の者が治めていた。その時代の時は、重税を課すこともなく、むしろ飢饉とかのように農民が苦しい時は農民に自分達の蓄えてきた食料を分け与えるようなすごく農民想いの国王であった。
しかしある日、国で反乱が起きた。戦国時代にはありきたりな下克上であった。国王の家臣の中でも農民にここまでする必要ないという意見をもったグループが反乱を起こし、国を乗っ取ったのだ。
この際に前の国王は死んだという噂が流れているが、逆にまだどこかで生きているという噂もあって、実際はどうなのか分からない。それに、片岡家に忠誠を誓っている元国王軍の行方も分からない。
そして、今の国王、安斉敦之助が支配した政治は完全に農民のことを無視し、奴隷のように扱っている。具体的には、農民に重税を課し、その税金を払えないとなれば、即刻公開処刑が行われる。
また、現国王は女好きで知られていて、毎日のように遊んでいるし、極めつけには、かわいい子がいれば、拉致してでも自分のもとに連れてくるというとんでもないことをしている。
そして、この男はこの国王の振る舞いに耐えかねて、逃げてきたが、国境付近で警備隊に見つかって、追われてきたらしい。そして、走って逃げて着いた場所がこの村だったそうだ。
______
「なるほどなぁ。大変だったな。それで、あなたはさっき自分のことしか考えずに仲間を置いて逃げてきたって言ってたけど、本当は仲間を助けるためにあの国と戦うためにこうやって助けを求めに来たんだろ?」
男は少し涙を浮かべながら、
「はい、まさかそこまで見抜かれるとは。噂以上のお方ですね。」
「噂?」
「噂というのは、ある人から別の人へと伝えられる、真実であるかどうかわからない情報や物語のことです。」
「天然なのかな?そうじゃなくてどんな噂が流れているんだ?」
「あぁ、そっちでしたか。噂というのは、山賊を倒すだけじゃなく、改心させて、仲間に入れたことです。」
「それ、噂になってるのか。」
「とはいっても、そのリーダーが女性であるっていうこともあって、信じている者も少ないですが。」
「あぁ、そうなのか。なら、よかった。あんまり有名になっても狙われちゃうと困るからね。それで、話を戻すけど、私は平和な国をつくると決めた以上、このように他国で農民を虐げるような行為をしている国王を見過ごせない。だから、戦おうと思う。みんなはどう思う?」
「舞衣様、お言葉ですが、この前山賊を倒したのとは違って、人数も兵力も桁違いですよ。そうなっては、ただ犬死にするだけです。」
「そうですよ。これは、私達がやるべきことではありません。他の者にあたってもらった方がいいと思います。」
「みんな、話をよく聞いてないなぁ。相手の国王は女好きだ。だから、それを利用すれば、いけるだろ?」
「それは、舞衣様が安斉の女になるということですか?」
「あぁ、そうだよ。」
「さすがに危険すぎます。」
「そうですよ。なにより、私達は舞衣様を汚したくありません。」
「みんなの気持ちはよく分かったが、それでも私は戦いたい。誰かが困っていたら、助けるのが私達の役目だろう。それに、亡き父も私の立場にあればきっと戦うだろう。」
「舞衣様がそこまで言うなら、仕方ありませんね。でも、具体的にはどうするのですか?いくらなんでも国王を暗殺した後に国から脱出するのは、厳しいと思いますよ。」
「みんなまだまだだな。男はさ、もし好きな女と二人でどっかに行けるとしたら、いくら大事な用事があったとしても、そこに行こうとするだろう。つまり、安斉と二人でデートというていで、どこかに連れ出すんだ。そうすれば、厄介な安斉を油断しているうちに簡単に倒せる。
それに、今の安斉の政治に納得していない者は絶対いる。例えば元国王軍だ。必ず国のどこかに隠れて生きているはずだ。だから、安斉はどうにかして私がおびき出して倒す。その間元国王軍や安斉に不満のある農民達とあとここにいるみんなで反乱を起こして現国王軍を倒す。」
「なるほど。それなら、いけますね。でも舞衣様、それはいくらなんでも自意識過剰なんじゃないですか?」
「え、そうか?そんなにこの作戦は破綻しているか?」
「そうですよ。まず、相手の国王が本当に舞衣様を好きになるかなんて、分からないじゃないですか。」
「えぇ?そう?私が男だったら、こんだけの美少女が自分に寄ってきたら、絶対惚れるけどなぁ。」
「...」
「みんな、なんだよ。沈黙しないでよ。私だって、女だから、かわいい仕草とか上品な言葉使いとかできます。」
「...」
「もぉ。なんか言ってよ。」
急にみんなが笑い出した。
「どうして、急に笑い出すんだ?」
「だって、舞衣様があまりにも亡き京子さんに似ていらっしゃるからです。」
あまりにも意外な答えだったし、母のことを聞けるとなると、私もさっきまでの機嫌を直して、笑顔で聞いた。
「どんなところが似ているんだ?」
「そうですね。その一言一言があまりにも京子さんの子供の頃と変わらないからです。」
「あの真面目そうな母がこんな感じだったのか?てっきり父がこういう人だから、それが遺伝したのかと思っていたけど。」
「京子さんも明正さんも幼なじみで、似た者同士だったのです。だから、惹かれあったのだと思います。」
「そうだったのか。母の意外な面を知れてよかったわ。そういえば悪いな。こちらの話で盛り上がってしまって。えーと。名前聞いてなかったな。あなたの名前はなんて言うんだ?」
「樹です。私達のために戦うことを決めてくださり本当にありがとうございます。舞衣様。よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくな。樹さん。」
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