第8話 想い

 なんで、俺がこの女なんかに負けなきゃいけないんだ。おかしい。こんなはずはない。


 俺は今はたしかに山賊となって悪いことをしているかもしれないが、もちろん産まれた時から悪だったわけではない。悪はいつでも必ず負けるのか。悪はボロボロになった後に立ち上がっちゃだめなのか?


 俺だって、悪いことしないで生きれるなら、そうしたいよ。お母さん。俺はだめな人間なのかな?俺は急に過去を夢見た。



*****


 俺はこの戦乱の続く時代に産まれた。お母さんはとても優しくしてくれた。お父さんは俺が5歳の時に戦で亡くなってしまった。そして俺には、かわいい弟と妹がいた。


 俺らだけではないのだろうが、それでも自分を悲劇のヒロインと思ってしまうくらい毎日が辛かった。せっかく作った食べ物も年貢として領主に大量に持っていかれ、残った少しの食べ物を食べて、明日を目指して懸命に生きる。


 ある時弟が、体が溶けてしまいそうな程の熱を出して、息苦しそうだった。その時に数多の医者に会ったが、お金がないことを知ると誰も助けようとは、してくれなかった。まあ、そりゃそうかとも思いながら、弟の体が、炎が消えてしまったかのように、冷たくなっていくのを感じて、この世界に絶望を感じた。


 だが、まだお母さんと妹がいる。この愛しい家族のためならば、俺はいつでも空元気になってでも頑張れる。




 そんな生活を続けていたある日。町で食べ物やお金を配ってくれる義賊がいた。この人が、現在の結巾のリーダー由比大介だ。お金持ちから盗んで恵まれない人達に分けてくれているのだった。


 俺は自然とこの人に憧れた。俺もこの人の役に立って、俺や俺の家族のような人達を助けるんだ。そう思って、結巾に加入することにした。


 最初のうちは、目的通りにお金持ちから盗むこととしていた。しかし、この義賊の存在が知れ渡るようになると、だんだんお金持ちの家の警備も強くなって、盗みをするのが難しくなった。


 さらに、追い討ちをかけるように起こる飢饉により、そもそもの自分達の生活が危なくなっていた。


 だが、結巾はどんどん大きくなるばかりで、由比の出した命令によって、ついになんでもない村などを襲う、ただの悪党になってしまったのだ。


 俺は由比に歯向かうことができなかった。恵まれない人を救うことを理念としていた、この結巾という義賊の組織に知らぬ間に俺は依存していたからだ。


 ある日、久しぶりに自分の村に帰ると村が荒らされていた。何人も倒れている人がいた。どの家の玄関も壊されて、開いていた。


 俺は真っ先に自分の家族のもとへ向かったが、2人とも死んでいた。おそらく、結巾のせいだ。


 そして、目的も心も失った俺は、ただ人生のハリを求めるようになり、面白いことだけを求めて生きる廃人と化していた。


 そして、今はこの女に負けてしまった。鷹をくくって、調子に乗ったから負けたわけではない。この女が本当に強かったから負けた。まあ、どうせこの女も俺のことをこの後殺すか、拷問でもして由比のことを吐かせるんだろうな。


 そうなる前に最後くらいちゃんともう一度勝負がしたいな。何度殴られたって、立ち上がり続ければ、負けではない。そんな、主人公みたいなことを俺はやってみたい。


*****



 みんなもう俺のことなんて見ていなかったが、俺はこの女に再び宣戦布告した。


「おい、待てよ。まだ試合は終わってねぇぞ。」


「あれ、まだ起きれるのか。なら、やるか。意外としぶといな。私そういうの好きだぞ。主人公みたいで。」


「え?なんか、照れるな。やめろっ!!お前の嘘で、流れを奪われるところだったわ。」


「え?別に嘘じゃないけどなぁ。」


(なんだこの女?本当なのか?まあ、そんなことはいい。勝つことだけを考えよう。)

「おい。お前、なめてるのか?木刀じゃねぇか。」


「いやだって、このまま真剣でやると、君が可哀想でしょ。」


「それをなめてるっていうんだよ。それなら、俺にも木刀よこせ。」


「あ、じゃあ、はい。」


「おい。なんか、俺の木刀やけに短くないか?」


「ん?(笑)そんなことないよ。それなら、交換してもいいよ。」


「じゃあ、交換ね。」




試合開始

「まずは、お互いに様子見でしょうか。木刀の先を合わせてるだけで、大きな動きはありません。おおっと、ここで慶護が突きをしてきたが、かわす。姫様なんか楽しそうですね。」


「さっきまではわりと怒っていましたけどね。(まあ、チビって言われたのもあるか。)」


「ここで、すかさず陽梅(ひめ)を使う。なんか、この技名、姫様っぽくていいけど、分かりづらいですね。」


「そんなこと言ったら、姫様泣きますよ。あの技名考えるのに1カ月くらいずっと悩んでいましまからね。」


「じゃあ、このままでいいです。慶護が陽梅の連撃を上手くかわしていますね。おっと、ここで姫様体勢を崩します。

 それを見て、慶護が思いっ切り木刀を振り下ろしますが、姫様が地面をごろごろして避けます。今の木刀を木刀で受け止めなかったのはなぜですか、三浦さん?」


「たぶん、力の差があるから、木刀で受け止めた後に分が悪いと踏んでのことでしょう。」


「なるほど。両者疲れてきているが、いい表情をしている。もしかしてこれは、昨日の敵は今日の友になってしまうのか。さあ、最終局面。

 姫様は桜華を使って、上手く受け流しながら、隙あらば陽梅をうち、相手の体勢が悪くなったところに瞬神李飛を打ちたいといったところでしょうか?」


「そうですねぇ。今思いついたんですけど、姫様って呼ぶのをやめて、舞衣様と呼べば、陽梅と姫様の違いが分かりやすいんじゃないっすか?」


「あ、たしかに。ここで試合に大きな展開です。舞衣様の木刀が慶護の木刀とぶつかった時に吹っ飛ばされてしまいました。

 どうするんでしょうか。まさかの慶護も木刀を捨てた。なんて、いいやつなんでしょう。ここにいる皆が彼のことを好きになりそうです。明らかに、さっき戦っていた時とは別人ですね。何があったんでしょうか。」


「やっぱり、恋ですかね。」


「(何言ってるんだ。このじじい)あ、そうかもしんないですね。

 でも、慶護は木刀を捨てたのが運のつきですね。舞衣様は剣術もさることながら、武道に関しては父親以上の神童ですからね。

 なんか、前に昔空手やってたとか言ってました。けど、私達といる間空手やってるところなんてみたことない気がするし、昔っていつのことだ?4歳5歳?えぇっと、実況忘れてました。舞衣様が慶護の頭に蹴りを入れて、慶護は起きない。勝者舞衣様。」


_____


「やばい。あの慶護様がまた負けてしまった。俺達じゃ、あいつらには到底勝てないよ。このままじゃ殺される。」


「あの、私達はお前達を殺さない。まあもちろん、かかってくるっていうなら、場合によっちゃってこともあるだろうが、とりあえず慶護が起きるまで待て。」


_____


 とりあえず、景泰が倒れている慶護を抱き抱えて、私の部屋まで運んだ。慶護は死んだように寝ているので、普段私が使っているふかふかの布団に入れてあげた。


「おい、慶護は大丈夫か?全然起きないな。」


「まあ、あれだけの蹴りを入れたんですからね。失神してるでしょうね。」


「ちょっと、思いっきりやりすぎたかな?まあ、さすがに脈はあるようだし起きるまで私が看病しておくよ。ところで、みんなに話したいことがあるんだけど、こいつらがいいって言ったらさ、私達の仲間にしないか?」


「まあ、舞衣様が入れたいというなら、私達は舞衣様に従います。」


「たぶん、こいつ根はいいやつなんだけど、どこかで間違えたんだよ。戦ってて分かった。だからといって、みんなにしてきたことはちゃんと償ってもらうが、一度間違っても正しい道に戻してあげれる人間に私はなりたい。」


「舞衣様。あなたは女神ですか。もう、成長されすぎて私は嬉しくて嬉しくて涙が出てきます。これなら、亡き明正さんも京子さんも安心することでしょう。」




 2日後

 私が看病に疲れて、布団のすぐ隣の机で寝ていた。それを見かねて、景泰が椅子に座って慶護のことを看ていた時に、慶護は目を覚ました。


「あれ?ここはどこだ?今まで寝ていたのか。あれ、なんでこの女がここにいるんだ。」


「やっと起きられたか。ちなみに、ここだけの話だが、舞衣様はずっとお前の看病をされていたのだぞ。起きたら、礼をな。それと、ご飯。お前は2日も寝てて食べてないから食べないとな。」


「なんで、ここまでしてくれるんだ?」


「舞衣様がそう決められたからだ。」


「俺はお前達を殺そうとしたんだぞ?」


「とりあえず、食え」


 慶護は静かに温かいご飯を食べながら、みんなの温かさに触れて、熱い涙を流していた。



 数時間後

 私は慶護が起きたことに気がついて、


「お、やっと起きたのか。」


「それは、俺のセリフだよ。」


「あ、ごめんごめん。私、そんなに寝てたか。」


「なんか、俺の看病ずっとしていてくれたみたいだな。ありがと。」


「あれ、照れてる?なんか、顔が赤いよ。」


「そんなことないわ。」


「それか、熱でもあるの?」


 そう言って、慶護おでこにおでこをくっつけたけど、熱はなさそうだ。単純に今までの人生で、礼とかしたことなかったのか?


「おい。普通手でやるだろ!」


「あぁ、そうか。癖でな。まあ、いいだろ?それより、話が変わるがお前に大事な話がある。お前の処分をこれから言い渡す。私達の仲間にならないか?」


「はあ?あ、間違えた。え?そんなことでいいのか?」


「うん。まあ、私達の目標は平和な国の実現だから、それには戦いが付き物だ。だから、場合によっては戦いの中で死ぬこともあるかもしれない。だから、嫌なら...」


「仲間になります。俺なんかでよろしければ。えーと名前なんだっけ?」


「舞衣。浅霧舞衣。」


「よろしくお願いします。舞衣様。ちなみに、何歳ですか?」


「15歳だよ。」


「あれ、俺17だから、お前の方が年下だから、これからお前、俺には敬語な。」


「はぁ?私は慶護なんかに敬語は使いませんー( ・ε・)。」


「むかつく顔だな。本当にお前、あの強そうなやつらのリーダーなのか?チビだし。」


「今、チビって言ったな。チビって、言ったらチビって言った方がチビなんだしー。」


「やっぱ、お前がリーダーなの、信じられないわ。まあ、いいや。とりあえず、よろしく。てんてこ舞衣。」


「よろしくな。(今私のこと、てんてこ舞いとか言った?まあ、いいか。)お前の仲間も私の仲間になりたい者がいたら、大歓迎だと伝えておいてくれ。じゃあ、私は眠いから寝るわ。」


「え?また?やっぱ、君主らしくないなー。まあ、これがいいのか。」



 そして、慶護率いる山賊、総勢50名が新しく仲間になることとなった。


 ちなみに、この小川村での戦いは、結巾のナンバー2を破って勝利したことから、「解巾の戦い」と呼ばれる。

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