第6話 たつ
皆が戦っているその頃。私達一行は、親戚の和正という者がいる東の方まで向かっていた。そこは、山に囲まれていて、人が住むような場所ではないため、追手もくるはずはなかった。
ちなみに、メンバーの紹介をすると、まず私波流の国の領主の娘である浅霧舞衣、そして私の母であり、領主の妻である京子、あとは、父の家臣5人。
父に剣術を教えていたが、もう歳で引退した、御年57歳の三浦信忠。まだまだ動けるが、戦の場面では体力の方がもたないので、引退したそうだ。
それに、剣術を教えるのがすごく上手いらしく、教える方に徹底してもらいたいと父に頼み込まれたらしい。
ちなみに、三浦信忠のことを私はジイとよんでいる。なんでかっていうと、父が三浦信忠のことをそう呼んでいたから、私も真似して呼んでいる。
そして、まだまだ若い24歳で、国でもトップクラスに強いが、今は腕の療養中で戦えない多田景泰。
景泰は、毎朝早くから修行をしている。私は朝起きるのが得意じゃないから、たまに早く起きれた時に見ると、いつも修行している。
それに、戦の時は陰で支える救護担当、29歳の石井修。私が怪我をした時、まだ2歳のクソガキの私に対して、大人に対応する時と同じように、いつも丁寧に対応してくれる。
地理に詳しく、頼れる33歳の山本匠。山本のおかげで、だいたいの今の日本のそれぞれの国の勢力とかがよく分かった。
ついでに歴史も好きだから、いつか私が転生した人だということを明かすときが来たとしたら、織田信長とかの話をしたい。私の予想というか偏見だが、絶対信長のことを好きになると思う。
最後に、新しい武器を考えて作る24歳の杉崎兼孝。私のためにぬいぐるみとかも作ってくれるし、お菓子作りも得意だ。きっと、21世紀にいたら、家庭科の5段階評定がいつも5だと思う。そんな5人だ。
そして、和正さんのいる家まで着いた。一国の王の親戚ということは、それなりに裕福な暮らしをしているのかなと思い、大きい家を想像していたが、普通の一軒家だった。
やっぱ、質素倹約に努めるのが浅霧家の伝統なのか?
その後、和正さんと挨拶を済ませ、状況を話した。
「まあ、ゆっくりしていってください。ここは何もない場所ですが、逆に誰もこなくて安全な場所です。分からないことがあれば聞いてください。」
ちなみに、和正さんは「私の父」の父の弟さん。つまり、父から見れば叔父さんというわけだ。弓の使い手として長年活躍してきたが、もともと体が弱かったため、5年前、40歳の時にこの山奥に隠居することとした。
けど、正直敵がここにこないということなど、私達にはどうでもよかった。そんなことよりも皆、父が心配だったのだ。
翌日もそのまた翌日も全然眠れなかった。
そして、しびれをきらせて、景泰が町までいって、話を聞きに行った。すると、父の軍勢は負けたらしかった。景泰にはそれが本当かどうかは波流の国まで見に行かなくても分かった。
だって、誰も和正さんの家に迎えにこないのだから。
それに、もしまだ戦いが続いていたとして、自分がその場にいたら、むしろみんなの邪魔になってしまう。景泰は自分には何もできないという無力感に苛まれていた。
そして、景泰が帰ってきた時、顔についた涙の跡で聞かずとも察した。もう父はこの世にいないんだと。あんなに剣術、人格共に優れた人はなかなかいなかったから、皆これから先の暗い未来を想って、泣いた。
私はこの時改めて決意した。皆のために生きていこうと。しかし、私の唯一の家族にして、支えであった母は、よっぽどショックだったのか病気がちになってしまった。
もう最近は布団から出ているところをほとんど見ていない。
そう過ごしている間に季節も冬に移ろい変わり、外を見ると、木は葉っぱを落としていた。今では最後の1枚の葉っぱがなんとか繋ぎ止めているかのように残っているだけだった。
やがて、母は痩せ細り、英雄の戦いから2カ月がたった頃には亡くなっていた。まだ何も母から教わっていないのに、もっと恩返しがしたかったのに。
13年の時が経った。
その13年の間に私はジイからは剣術を、和正さんからは弓を教わった。
13年で剣術はみっちりやったから、ジイにも筋はいい。と褒められたし足手まといにはならなそうだから安心した。
だけど正直、女性だからということもあるのか、みんなと同じように戦ったらあっさり負ける。だから、この女性という特性を生かして戦えるように独自の技も作った。
でも、今まで一度もジイや景泰に勝ったことはなく、惜しかったことすらなかった。どうしても男性のあのパワーには勝てないようだ。でも、いつか絶対に勝ってみせる。
そして、弓のことは聞かないでくれ。
あとは、この13年で体も成長した。ただ、遺伝なのかそこまで筋肉がつかなくて、ほっそりとしているが、女性らしくしなやかな体ではあった。
そんな感じで、センスはあるが強くはない私だが、一緒にいた家臣は誰一人として私のことを戦いにおいて女性だからと言って侮蔑することはなかった。
もしかして、実は私結構強かったりする?こうやってすぐ調子にのってしまうことがきっと私の欠点だ。
まあ、そんなことはどうでもいいが、私にとっての13年は成長の13年間だったが、家臣にとっての13年は歳おいていく13年だったかもしれない。
だが、この山奥という高地で酸素の薄い中鍛えたからには、老いて弱くなるどころか、かなり強くなっていた。ジイなんかはもう70歳だが、まだ全然ピンピンしている。むしろ13年前よりも元気だ。
ちなみに、私は15歳という思春期を迎え、母親ゆずりの美人に成長していた。そして、父の人格も兼ね備え、また知識はもともと前世で50年以上、生きてきただけあって、豊富ではあったが、若い頭脳を手にして、さらに活用されること間違いなしだった。
だが、前世では男であり、しかも今世の成長過程では周りに女性がいなかったせいで、もしかして、やばいのではないかと思われる方もいるかもしれないが、さすがは我が母。
私のために、いろいろと書き残してくれていた。それのおかげで、化粧も覚えたし、一応女性らしい行動もたぶんとれているはず。
でも、大人すぎるわけではなく、若干15歳の可愛らしさを残している。これはモテること間違いなし。でも、周りはおじさんばっかりの現状にがっかりしている。
というか、実際自分はもともと男だったのに、今は転生によって性別が変わったから、未だに自分が男性を好きになるのかそれとも女性を好きになるのか分からない。
そんなことはどうでもよくないかもしれないけど、みんなのことを思えば、どうでもいい。
もう、13年も経ったから、私達のことを探しているような輩もおそらくいないが、風の噂で13年前はまだ平穏であったが、あの日から均衡が崩れ、今では各地で戦乱が起こっているらしい。
しかも、前世の時のように農民が巻き込まれることも少なくないらしい。
だから、とりあえずの私の目標は自分の町を作って、平和にすることだ。
それに、この13年の間、私もほぼ農民と同じような生活をしたわけで、その大変さがよくわかった。しかも、父が言ったように農民は国の命だ。だから、その農民をないがしろにするような今のこの状況にはヘドがでる。
誰も平和を作ろうとはしないが、望んではいる。なら、自分が平和を作っていけば、いいという結論に至ったからだ。家臣の皆も同意見だ。
「じゃあ、いっくぞー!」
「ん?姫様。どこにですか?」
「え、いや。どこだろうね。」
「じゃあ、とりあえず今日の晩飯でも取りにいきますか?」
「いや、そうじゃなくて、なんかこれから平和な町を作るぞ!おー!みたいなそういうノリだったんだけど。」
「あぁ。そうだったんですね。じゃあ、それなら、最近は山賊が蔓延っています。もちろん農民も困っていることでしょう。ですから、それを討伐すれば、姫様の名も上がって、仲間になってくれる農民もでるんじゃないですか?」
「おぉ。それは、いい考えだな。でも、山賊ってどこにいるんだ?」
「まあ、山ってついてるから、山にいるんじゃないですか?」
「それは、分かってるけど、私のことバカにしてる?」
「すいません。私もどこにいるのか分かんなかったので、ついてきとうに。」
「まあ、いいよ。山賊なら、そこらへんの村にでも襲ってくるんじゃないか?」
「そうかもしれませんね。じゃあ、村にいって、潜伏してみますか。」
ということで、私達は和正さんに自分のしたいことなどを告げてから別れ、近くの村へ行くことにした。
山本の話によると、
「たぶん、ここの山を下った近くに小川村っていう村があるはずです。」
「よく知ってるな。さすが、地理に詳しい山本。それで、小川村ってことは、近くに川でも流れてるのか?」
「あー。それは...」
「山本でも知らないのか。」
*****
そして、山本が言うように山を下ると、村があった。全然川らしきものはなかったが、噂をすれば影、ちょうどそこには山賊が村人を襲っていた。
まあ、山賊の人数は10人程度だったから、ちょうどいい準備体操くらいにはなるだろうという感じで、ジイと景泰が飛び出していった。
あっという間に片付いてしまった。まあ、さすがという感じではあった。
しかし、陰から出てきたもう一人が村の小さい男の子を狙って動いているのを見て、私はとっさに刀を抜いて、なんとか男の子を守った。間一髪だった。
そして、一段落して捕虜にした一人にいろいろ吐かせると、
「由比様が黙ってないぞ。あのお方はここらへんの山賊を一人で取りまとめたのだ。しかも、部下思いで、やられたらやり返す人間だ。もうお前ら終わったな。あーハッハッハ。」
という感じで、いかにも悪者風に笑うから、ムカついて殴ってしまったが、もしかしたら、やばいところに手をつけてしまったのかもしれないと思った。
その後、村長と話した。
「今日は、助けて頂いてありがとうございます。何かお礼をしたいのですが。」
「じゃあ、もしよろしければ、ここに滞在させてください。」
「そんなことでよかったら、どうぞご滞在していてください。その方がむしろ私達も盗賊から身を守れて、安心ですわい。」
こうして、私達は老若男女40人くらいが住む小川村に滞在して、山賊を迎え撃つことになった。
村長から借りた家で、これから先の話し合いをすることとした。
「まず、敵は山賊。戦いはあくまで素人だが、なんと言っても人数が多い。私達はたったの6人。
しかも、戦いにおいて今までサポート役だった文官の石井と山本と杉崎がいる。もちろん13年鍛え上げてきたから、強くはあるが、それでももともとの運動神経やセンスでいったら、人並み以下だ。」
「姫様。そんなはっきり言わなくてもいいじゃないですか。」
「ああ、ごめん。えーと、君たちは運動音痴だから、足元をすくわれるかもしれない。」
「もう、結局変わってませんよ。まあ、姫様だから許します。」
「ありがとう。それで、私としては誰も失いたくない。今1人でも失えば、私達は夢の実現が遠くなるし、それにお前達のことが...やっぱ恥ずかしいから言わない。」
「私達のことが何ですか?姫様。」
「教えない。てか分かっててそう言ってるでしょ。話を戻して、結論から言うと、文官の3人には、弓矢で射撃をしてもらい、危ないと思ったらすぐに逃げてほしい。他の3人も弓矢を使うが、もし、敵が村の奥の方まで来そうになったら、正面から剣で向かい討つ。」
「そうしたら、6人だけで戦うということですか?さすがにきついと思います。」
「たしかに6人だけでは心もとない。そこで、村のみんなにも協力してもらって、罠をしかける。とても、単純な罠であるがこの非常事態とあれば、少しでも効果があれば万々歳だ。それに、村には若い者もいるから、一緒に戦ってもらう。
もちろん、強制はしないが、おそらく何人かは来てくれるだろう。じゃあこのことを明日、村の人に伝えることとして、今日はもう遅いから寝よう。おやすみ。」
次の日
村のみんなに話して、協力してもらうこととした。まずは、罠だが、村全体を囲うように落とし穴を作る。
ただ、落とし穴だけだとさすがに簡単に抜けられてしまうから、落とし穴の中には燃えやすいものを大量に入れておいて、敵が来たらそこに火を放つ。
それでも登ってきた者がいれば、弓矢などで倒す。これの肝心なところは、相手がせめてくる前に、早くできるだけ深く落とし穴を作らなきゃいけないことだ。
そして、落とし穴を作っている間、疲れて休憩に入った者に弓矢の使い方を教えた。それに、矢は大量に使うから、その作り方も教えた。村の子供達も一生懸命に作っていたので、なんだかこっちも戦いを張り切ってやらないとなと思った。
そして、翌日。
ついに敵は来た。てっきりずるい奴らだから、夜のうちに襲ってくると思って見張りも何人かつけていたが、正々堂々と昼にやってきた。
相当な自信があるのだろう。まあ、それもそのはず。ここからだと敵の最後尾が見えないくらい後ろまでぞろぞろといる。さすがにこれはめちゃくちゃ盛りに盛ったが、かなりの人数だ。
「こないだは俺の子分がお世話になったようだな。」
「お前が由比か?」
「由比様は大変お忙しく、わざわざお前なんかに構っている暇はない。俺はこの結巾という山賊のグループのナンバー2の慶護だ。まあ、死にゆく者に教えても意味はないか。というか、お前女か?なめてるのか?」
「姫様を侮辱するなよ。賊が。」
「まあ、いい。気にするな景泰。お前らが山賊ならば、倒すまで。」
「いくぞ野郎ども」
「わぁぁー!!(゜ロ゜ノ)ノ」
よしっ。敵が罠にかかったぞ。
「火を放て!」
敵は混乱している。今がチャンスだ。
「みんな矢を放て!」
みるみる敵が倒れていく。こんな原始的な罠に引っ掛かるとは学がないなぁ。と煽ろうとした時、
「一旦引け!おそらく相手の放っている矢は素人が作った飾り物だ。首もとや頭だけ守れば死なない。そして、問題の落とし穴も周りの土をこの穴の中に入れて、平にしろ!」
やばいっ!さすがにとってつけたような矢ではだめなのか?矢につける毒なんてさすがに用意できなかったし、別に私達は山賊を殺したいわけじゃない。でも、このままでは負けてしまう。しかも、相手はまだ大将不在の状況で。
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