本編スタート
第5話 開戦
ある日、平和な日常に緊張が走っていた。なぜなら、父の浅霧明正が朝から腹を下しているからだ。
じゃなくて、私たちの国と友好関係というか協力関係にある遼源の王様が危篤状態にあるからだ。もしかしたら、どこかの国が動き出すかもしれない。
特に気を付けたいのは、赤旗の灼炎の国だ。
なんといっても、将軍の加藤重秀がやばい。そいつは私の父と同じように、「剣神」という称号を持っているくらい強い。
どのように強いかと言うと、私の父は剣術のテクニックで強いが、やつはすべてパワーで圧倒する。噂では、やつが軽く剣を振ると、竜巻が起こるらしい。
さすがにそれは、誰かが作った嘘だろうけど、そのくらいパワーがあるということだ。やつの前ではテクニックなど通用しない。やつの攻撃に対して、いつも通り防御をしていては、たちまち殺されるだろう。
通用するのは、数の暴力くらいだ。いろんな方向から矢でも飛んでくれば、少しくらいのダメージは与えることができるだろう。
だが、将軍が強いというだけだったなら、灼炎の国はここまで発展してこなかった。もう一つの要因は、影の将軍と言っても過言ではない、王様の茨紅洋である。
カリスマ性で人々を魅了し、続々と強い仲間を増やし、かつ炎のように熱くたぎるようなスパルタで兵士を強くしてきた。
この2人がいる灼炎は最強だ。
しかし、遼源も負けてはいない。その圧倒的な国力によって得た人民と兵馬の数が凄まじい。
その上、遼源までの道のりは険しく攻めづらい。
また、外交も盛んに行っていて、他国からの信頼も厚い。そのため、簡単には遼源に攻め入ることはできないのだ。
だが、先ほども言ったように、遼源の王様の清寧徳光は今危篤だ。そのため、まとめる者がいないとさすがの遼源でも灼炎に負けてしまうかもしれない。
そうすると、弱小の我が国はすぐに滅びてしまうかもしれない。だから、緊張が走っているのだ。
しかも、他にも大勢国はいる。遼源が仮に灼炎に勝ったとしても、そこで弱った遼源を打ってくる国もいるかもしれない。だから、油断ならないのだ。
ちなみに今、父の家臣が急遽、遼源に使いに行って、話をしに行っているそうだ。
すると、急にあわてて警備の者が伝えに来た。
「敵です。赤旗の灼炎です。今進軍中で、あと30分もしないうちにこちらに攻めてくるそうです。」
「なんだって!」
「やばいな」
「まさか、こっちに攻めてくるとはな」
がやがやしだすと同時に不穏な空気が流れた。連絡を聞いて、城中から兵士のみんなが広場に集まって、その中でも特に偉い人達は城の中で行われる会議に集まって、全員揃ったのを見て、父が話し始めた。
「私は今から敵を迎え撃つ。厳しい戦いになるだろう。なんでも、敵は灼炎だ。今回は来たい者だけ来い。」
「明正様。さすがに今回はまずいと思います。お逃げになってください。」
「私が戦わずして逃げたら、国はどうなる。農民はどうなる。」
「農民よりもあなたのお命の方が大事です。じゃないと...」
「農民の命も私の命もそれぞれ等しい。これは、誰も覆せない事実だ。それにもし、農民がいなかったらどうなる。
今こうして、みんなが元気に暮らしていられるのは、全部農民達のおかげだ。彼らが頑張って育てた食べ物を私達に届けてくれているからこそ、私達は生きることができている。
今までの恩を返すのは、今日なんじゃないか。それに、私達も今まで鍛え上げてきた。そんな、やわじゃない。それは、皆が一番よくわかっているはずだ。
もう一度言う。私は今から敵を迎え撃つ。きっと、たくさん死人もでるだろう。だから、ついて来たい者だけついて来い。以上だ。」
「...」
誰ももう返す言葉もなかった。泣いている者もいたし、決意に燃えている者もいた。
だけど、ここにいる者は皆戦うことを決めた。逃げ出したくなるだろう。まだ、家族と別れも言えていないだろう。
それでも、自分の尊敬する人にあんなことを言われて、自分だけ逃げようと思うほど弱い家臣ではなかったのだ。
そして、作戦会議だ。
「作戦会議っていっても、この国には軍師のように作戦を考えるような人は今はいませんよ。」
「あいつさえいればなぁ。」
「あいつのことを口に出すな。」
あいつって誰のことだろう。私がふと疑問に思っていると、すぐに誰かが話し出した。
「あの、私に考えがあります。」
「話してみろ。」
「まずは、敵を迎え撃つ組と、農民達の避難を助ける組に分けます。迎え撃つ方も正面から戦っていては、勝てっこないです。
だから、戦う組を3つに分けます。敵の正面から戦う組と、敵の左右から戦う組に分けます。
そして、敵と戦う場所はできるだけ狭い道にして、戦う時はとにかく敵を自分達の背後に回らせないようにします。
そうすれば、みんなが目の前の敵に集中できますし、なにより、敵の中でも先頭にいる人しか戦えないという構造を作ることができます。
正直、これが全然得策でないことは分かっています。欠陥だってたくさんあります。でも、農民を避難させるだけの時間が稼げれば、あとはこっちの勝ちです。農民の避難が終わったら合図をするので、そうしたら、上手く逃げてください。」
「ちょっと、上手く逃げてください。は雑すぎないか?」
「明正様、お言葉ですが、時間もないですし、何よりそれ以外思いつきません。」
「まあ、よい。頑張るわ。」
「話を戻して、京子様(母)と姫様(私)は頼れる者5人を連れて、東の方にいる親戚の和正様の家までお逃げください。あそこならば、そう簡単には敵にも見つからないでしょう。
では皆さんそれぞれの持ち場についてください。絶対勝ってもう一度ここに集まるぞ。」
「おー!!」
みんなが団結しているのがよく分かった。同調圧力によって嫌々やっているという人は誰1人としていなかった。
父は少し悲しそうに、そして私を不安にさせないように優しい顔で私と母のおでこにキスをして、
「いってきます。」
父はその偉大な背中を向けて、行ってしまった。
それから後のことは、のちのち聞いたことだが、相手の軍勢1万に対して、こちらは500で戦い、奮闘した。
最初の戦況はよかった。何よりあの猛獣とも言われる、赤旗の兵士をなぎ倒していったからだ。
それでも、だんだんと数で押されてきた。疲れがたまってきたのだ。
しかも、灼炎がよく使う戦術だが、火のついた矢を飛ばして、まわりを燃やすことで、敵のいる方の温度を上げて、熱中症にしたり、汗で手を滑らせやすくしたりする戦法を使ってきた。
そろそろやばいかと思った時、後方で合図が鳴った。農民の避難が完了したのだ。そうと知れば、皆一目散に逃げる。でも、逃げる時は強い者を後ろに置くのが常套手段なので、まだ戦い続ける者もいた。
この時すでに敵の軍勢残り8000に対して、こちらの軍勢は100を下回っていた。だが、まだ王の明正は健在であるから、皆の活気も下がっていなかったし、合図を受けて、皆は生気を取り戻したようだった。
そして、誰もが波流の国の作戦的勝利に見えたその時、知らないうちに大量の敵が後ろに回っていた。敵の援軍だ。農民の避難の誘導をしていたグループの者がいるところにも敵が回っていた。
どこに行こうとしても、四方八方囲まれているので、もう逃げ場はなかった。もうみんなだめかと思った。
けど、一人諦めていない者がいた。明正だ。
「みんな。私に続け!」
結果は明々白々だったが、それでも最後まで諦めずに戦い続け、農民を守りきった明正を敵であっても尊敬する者は多い。また、最初から不利ではあったものの、途中まで善戦をしていた。波流の国の臣下達を讃える声も大きい。
このことから、この戦いは「英雄の戦い」と呼ばれる。
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