第4話 事件
ある日私は父の家臣5人と散歩することになった。季節は秋。紅葉がきれいで、栗が実り、ついつい焼き芋などの美味しいものを食べてしまいたくなる季節。山や川などの自然がきれいで、ふと子供の頃を思い出す。って言っても、今も子供だわ。
そして、夕暮れ時になり、夜道は危ないからと、おんぶしてもらって帰ることにした。すると、急に疲れていたのか眠くなったので、すやすやと寝た。
***
なんか、ぐらぐらするな。と思って、目が覚めた。すると、まだ私はおんぶされている。そういえば、散歩から帰っていたということを思い出した。そして、話を盗み聞きしていると、
「誘拐するのは案外簡単だったな。」
「そうだな。これで報酬もたくさんもらえるし、自分の故郷での地位も約束されてるし、願ったり叶ったりだな。」
「やったな。」
という感じで、明らかに私は誘拐されてしまった。私は怖いという思いもあったが、それ以上にこの人達が可哀想だなと直感的に思った。
それは、私の父は激おこだろうということと、そうなった時の父は誰にも止められないということ。そうなれば、もうこの人達は跡形もなく消されてしまうだろうということに同情した。
が、よくよく考えれば、さすがの父でも見つけるのは至難なんじゃないかと思って少し心配しだした。
すると、犯人達のアジトらしきところについたのか、ぐらぐらは止まった。横目でアジトを見たところ、森の中にある、ただの一軒家だ。見た目は別に怪しくなく、いたってこれといった特徴のない木造の家だ。
それに、家の建っているのが、森の奥まで入っていかないと見つからないような場所だった。
木々が突然吹いた秋風で、ざわざわと揺れていた。
アジトに着くと、犯人グループの5人は最終確認なのか、話を始めた。
「まず、分かってると思うが一刻も早くこの国から出ないと、明日にはきっと関所での確認も厳しくなるから、こいつを連れて逃げるなんてことは難しくなる。これは、関所を通らなくても、他の抜け道とかにも警備が増員されて、きっと捕まる。だから、今夜にはこの国を出る。
あとは、俺達の故郷の寅牙(いんが)の国に入ったら、国王の沼田様との約束で莫大な報酬と昇進が決定してるから、気合入れていくぞ。」
やばい。てっきり、誘拐だから、父に身代金を求めるとかそういうのかと思ってたけど、他国に渡されたら、きっともう帰ってくることはできないかもしれない。
大好きな父と母に会えなくなると思うと、本当は50歳を過ぎた大人なのに、それなのに情けないくらい大量の涙が自然と出てしまった。
「おい、こいつ泣いてるぞ。たぶん今の話聞かれたぞ。」
「別にこいつに聞かれても、何もできないだろう。まだ2歳だし。とにかく、急ぐぞ。」
すると、外がなにやら騒がしい。
「やべぇ。見つかった。なんでだ?」
「どうする。戦っても勝ち目はないぞ。なんたって、あいつは剣の天才だぞ。」
「とりあえず、逃げよう。」
私は胸が熱くなった。父が私を助けに来てくれたんだと確信した。
その後、数人のうめき声がして、事が終わったことが分かった。
そして、父が来て抱き締めてくれると、安心したからなのか久しぶりに声を出して泣いてしまった。
そして、なぜこの場所にいることが分かったのかと言うことが話題になった。
父は前からあの5人に嫌われているかと思っていた。人に嫌われることに慣れていない父はどうすればいいか分からなくなり、時々バレないように後をつけて好かれるための情報を探っていたらしい。
すると、この5人が寅牙の国のスパイだということと、私を誘拐する計画をしゃべっているのを父は聞いてしまった。
そこで、今度は好かれるための情報ではなく、私を守るための情報収集を始め、ついにこのアジトを突き止めた。
そして私がいなくなったという知らせを受けて、父は電光石火のごとくこのアジトへ駆けつけた。だから未然に、この陰謀を防ぐことができた。
この時、私は父のようなかっこいい男性と結婚したいという、小学生が考えそうなことをついつい口にすると、父はいつも以上にデレデレして、その後は面倒くさかったので、やっぱり、やめようと思った。
でも、そのかわり自分自身が拐われても、そこから抜け出せるくらい強くあろうと決意した。
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