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「————まったく、一体何人埋まってんだよ」

「11……いや12人ですね」


 友野から連絡を受けて、東と南川は頭を抱えた。

 まさか、こんな場所にこんなに死体が埋まっているなんて……

 遺跡採掘でもしているのではないかというくらい、じゃが芋畑だった土地から次々と、白骨遺体が発見される。

 12体の内、一番最近埋められたであろう創一郎の遺体以外は、すでに骨になっているため司法解剖して見ないと身元や詳しい死因はわからない。

 創一郎の頭には落下による外傷が見受けられ、犯行の瞬間を目撃したという孫の進次郎の証言と一致する。


「犯人は、嫁だって話だが……本人は?」

「それが、犯行を否認しています。その共犯と思われる精神科の医師の方は、霊能商法をしている詐欺グループのメンバーで……七年待てば遺産が手に入るとして、被害者たちを殺害後、遺体をここに埋めていたようです。こっちは、友野先生のおかげですんなり自白してくれたんですけど」

「……友野のおかげ?」

「はい。詳しくはわかりませんが、霊が見えるお札?みたいなのを渡されて……————それを医師に渡したら、何か恐ろしい化け物でも見たようで、発狂して…………洗いざらい、吐いたそうです」

「……そ、そうか。なるほど」


 12体の遺体が埋まっていたとして、猪刻村のニュースは朝から日本中を震撼させる。

 のちに全ての遺体の身元が判明するのだが、その遺体の中には、純太郎のものもあった。


 この事件がきっかけで、一気に全国にその名を轟かせることとなったこの小さな村に、オカルトや心霊、都市伝説好きが集まる聖地となるとは、誰が予想できただろうか……


 一方、今度こそ空席となってしまった猪刻村の村長には、庄司が当選。

 後日、改めて礼を言いに占いの館に訪れた進次郎は現在、庄司の秘書として働いているらしい。



「それで、庄司さんから聞いたんです。庄司さんは、母の大学の後輩だったそうで……母は、確かにあの崖の上から落ちたけれど、実は一命は取り止めて、記憶を失ってしまったそうで……」


 友野は、自分の予想が外れて驚きながら、永津の話を聞いた。


「実家に戻されたそうです。父には死んだことにして、二度と会わないようにされていたようで————大変なリハビリの後、夢だったミュージカルの舞台で、ダンサーとして活躍していたらしいです」


 進次郎は、母が舞台で踊っている映像を嬉しそうに見せてくれた。


「俺のことも、父のことも、何も覚えていない。父と出会う前の記憶は、何もないそうで————庄司さんとだけは、今でも交流があったらしいです」


 映像の中で楽しそうに踊っている進次郎の母は、今はフランス人の夫と幸せな家庭を気づいているそうだ。

 いい嫁を演じ、遺産目当てで永津家の人間を殺し、刑務所にいる明美とは、全く違う、幸せなところにいる。



 * * *



「先生、もう亡くなってるって言い切ってましたよね?」


 進次郎が帰った後、渚はニヤニヤといたずらに笑いながらそう言った。


「あのねぇ、ナギちゃん。世の中ってのは、全部自分の思い通りってことはないんだよ。予想外のことなんて、いくらでも起きる。俺は見えるだけで、神様じゃないんだから。間違うことだってあるよ」

「ほぅ、さすが先生。自分の非をちゃんと認める! 立派ですね!」

「……ナギちゃん? 何それ、褒めてる?」

「褒めてますよ! 先生はすごいです!! 神様です!! どんな怪事件も、先生のその目があれば一件落着!!」


 とても大げさにヨイショされている気がして、友野は渚を睨みつける。

 こういう時は、嫌な予感しかしない。

 何かある。

 絶対に。


「そんな先生に、とっておきの怪事件があるんですけどぉ、聞いてくれますぅ?」


 普通の男ならイチコロでやられてしまう、あざとい猫なで声で、渚は友野の前に書類を置く。

 だが、友野は騙されない。

 この自称・助手は、こういう女だ。


「とある島で、変死体が見つかりましてね。なんでも、それがこの島に古くから生えている神様のキノコと呼ばれている金色の毒キノコで……————」

「やめろ! 聞きたくない!!」

「いやいや、聞いてくださいよ!! そのキノコがですね」

「あー知らない。俺は何も知らない。さーて、来月の占い原稿の続き書かないとー」

「聞いてくださいよ、先生ぇ!!」


 この二人の攻防は、結局最後に友野が折れるまで続くのだが、それはまた、別の話。




 — 【猪は踊る】終 —

 — 十 二 死 〜エセ占い師と十二の怪事件〜 完 —

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