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 一方、未だに容疑者である御子柴が現れる様子のない、向かいのマンション。

 御子柴の女である芳川よしかわ夏実なつみは、昼は訪問介護のヘルパーをしている。

 と言っても、短時間のアルバイトのようで、いつも少し仕事で出かけては戻って来てほとんど家にこもりっきりだ。

 警察が張り込みをしている部屋から見えるのは、リビングだけで、その引きこもっている部屋は別にある。

 南川の話では、Yonaヨナという名前で、ライブ配信をしているらしい。


「登録者は十万人ちょっとですけど、これからどんどん増えていくんじゃないかって……話です」

「……へぇ……それって、どこで聞いたんですか?」

「い、いいじゃないですか! どこからでも! そ、それより、調べてたらきになる動画を見つけまして……」

「気になる動画……?」


 南川がタブレットの画面を友野に見せると、それは過去に配信された動画の切り抜きだった。


『なんかぁ……ママに聞いたら遺伝で白髪が生えやすいんだってぇ……染めちゃえばわかんないけどぉ…………ちょっとショック。今こーんなに可愛いのに』


 胸元を大きく開いたキャミソールの上にモコモコのパーカーを軽く羽織り、少し舌ったらずで甘えた声を出し、Yonaは悩ましげな表情をしている。


『時間よ止まれーって感じ。年取りたくないし、誰かYonaの時間止めてくれないかなぁ?』


 男性視聴者に媚びを売りまくりのYonaの表情や態度に、友野は嫌な予感しかしない。

 顔は全く似ていないが、渚が欲しいものを得ようとするときに見せるあざとさと同じものを感じていた。


『Yonaのお願い叶えてくれたらぁ……好きになっちゃうかも♡』


 わざと谷間が映り込むように動き、笑っている。

 そして、画面下に表示されている視聴者からのコメント欄に、一つのコメントが表示されている。


《@shivaKEN348:YonaちゃんDM送ったから、確認して。いいものがあるんだ》

《@shivaKEN348:俺がYonaちゃんを不老不死にしてあげるよ》

《@shivaKEN348:いつまでもそのままでいられるよ》


「これって、御子柴っぽくないですか?」


 南川が友野に同意を求める。


「……確かに。不老不死って書いてるし…………ってことは、この女を不老不死にするために、千羽の鶏と人骨を盗んだってことですか?」

「この動画、去年配信されたものなんですよ。御子柴が叔母さんの家に引っ越してきたって時期と近いんじゃないかなって……」


 調べによると、Yonaと御子柴が付き合い始めたのはそれより少し後の時期のようだ。

 御子柴はYonaのために、不老不死の薬の作り方や、呪術のようなものが書かれていたあの本を使った可能性が高い。


 そして、友野は南川のタブレットに資料として入っていたYonaと御子柴が友人同士で撮った一枚の写真を見て、手を止めた。

 誰かの家で撮った誕生日会の写真のようだが、肩を寄せ合う二人の隣に、白い犬が写り込んでいる。

 可愛らしいピンクのリボンをつけた、マルチーズ。


「これって……————」




 ◇ ◇ ◇



 あぁ、本当にどうしようもない。

 どうしようもない。


 せっかく全て揃えたのに。

 千の鶏の骨と人間の骨少々。

 それから、私の血。


 早くしなくちゃいけないの。

 早くしなくちゃ……あの人に飲ませくちゃ。

 飲ませなくちゃ。

 飲ませなくちゃ。

 飲ませなさい。


 それなのに、邪魔をしないで。

 もう少しだったのに、邪魔をしないで。


 いつまでいるのよ。

 いつまでそこにいるのよ。


 早く出ていけ。

 早く出ていけ。


 余計なことをしないで、さっさと出ていけ。


 早く出ていけ。

 早く出ていけ。


 あの部屋に、あの部屋にあるのに。

 お前が邪魔で入れない。

 邪魔だ。

 邪魔だ。


 黙って出ていけばいいの。

 ただそれだけなのに、役立たず。


 早くあの女を追い出して。

 早くあの女を追い出して。


 お前の願いはとっくに叶えてやったじゃないか。

 早くしろ。

 早くしろ。


 早くあいつを追い出して、あの部屋からあれを運び出して。

 早くしろ。

 早くしろ。


 追い出せ。

 追い出せ。



 早く。

 早く。

 早く。


 手遅れになる前に————


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