1—4
装飾全てが金色で、神々しい光を放っているその祭壇に向かって、男は頭を下げると、そこからワイングラスのような形の金色の
「あの、ヒロコママ、この方は……?」
ミクが尋ねると、ヒロコママはもう安心だと微笑みながら、杯に酒らしきものを注いでいるこの男について教える。
「
「れ……霊媒師?」
「さっきのカードを見ただろう? ミクちゃんには悪いものが取り憑いているんだ。大丈夫、この神代さんに任せれば、全て大丈夫さ」
これにはミクも戸惑った。
しかし、ヒロコママのいう通りあのタロットの結果は、素人でも酷いとわかるようなものだ。
それに、ここ数日の間に自分に起きた不幸のことを思えば、何かに取り憑かれていたりするのかもしれないと、そう思った。
「霊媒師って……なんかやばくない? 未来、やめた方が————」
「いいのよ、珠莉亜! ヒロコママ、これで私、もとに戻れるのよね?」
「ええ。神代さんの力は絶対だから……大丈夫よ。悪いことは、全部なくなるわ」
「ちょっと、未来……!!」
ジュリは止めようとしたが、ミクはそれを聞き入れなかった。
そして、ジュリと一緒についてきたボディーガードの男二人も儀式を行うからと一旦部屋を追い出されてしまう。
「こちらでお待ちください」
老人ホームのスタッフが、追い出されたジュリたちを大広間に案内する。
談笑する老人たちを横目に、椅子に座ってミクが戻ってくるのを待つしかなかった。
それから約三十分後、戻ってきたミクの表情は、事件が起こる前の、明るい笑顔に戻っている。
本当に、まるで憑き物が落ちたかのような、明るい笑顔だった。
ミクは、あっという間に回復していく。
あまりに元気すぎて、逆に心配になるくらいだったが、ジュリも他のメンバーたちもミクが元気になったならそれでよかったと思った。
しかし、頻繁にミクが神代に会いにあの老人ホームへ通うようになったことだけが、ジュリには気がかりだった。
他のメンバーにも、新しく入ったマネージャーの辻にも、神代がいかに素晴らしいかとことある毎に話すようになったのだ。
「神代さんって、本当にすごいのよ!」
今度の全国ツアーでのミクの復帰に向けて、打ち合わせが行われた時も、彼女の口から出たのは、神代の話だった。
「ねぇ、みんな今度、ほほえみでお祭りがあるらしいの。一緒に行かない?」
「……お祭り?」
「うん、ほほえみに入ってる人の家族や、近所の人をよんでするお祭りでね、友達を誘ってきてくれたら嬉しいって、神代さんが……」
ミクは熱心に一緒に行こうと誘ってきたが、結局スケジュール的にも行けるのはジュリだけで、辻と一緒に三人で祭りに参加することになった。
* * *
「————この祭りの後から、未来の様子がおかしくなったの。ダンススタジオで急に叫びだしたり、何度もカミソリで自分の顔や腕を剃ろうとしたり……エステに行ったばかりで、毛なんて一切生えてないのに……」
ジュリは、その時のミクの異常行動を思い出して、顔を歪める。
「そうなんです。未来さん、何度止めてもハサミやカッター……包丁でも、なんでもとにかく刃物を見つけると自分の皮膚を削ぎ落とそうとしているようになって……綺麗だった肌も傷ついて……」
事務所のスタッフがカメラを回していた、ダンスレッスン中の動画にも、その様子が映っている。
辻は、スマホでその動画を再生して、友野と渚に見えるようにテーブルの上に置いた。
『いやだ! 放して!! いやああああっ!! 私の顔が……羊に…………羊が——……私の顔が……っ!!』
『未来さん!! 落ち着いてください!!』
『いやだ!! いや!! いやあああああ!!!』
『誰か!! 抑えろ!!』
「ミクが落ち着いてから、聞いたのよ。そしたら————……鏡に映った自分の姿が、羊だったって……顔も、体も、人間じゃなくなっていく……自分が羊に見えるってこのままじゃ、羊になるって————そう言ったの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます