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 刀掛けに残っていた気配を辿り、友野は日本刀のありかを突き止めた。

 その際、ただの占い師だと言い張っていた友野は何やら呪文的なものを唱えていたのを見て、西村は疑いの目を向けるが、おとなしく友野の後について行った。

 気になって二人の後をついて来た数名の刑事たちも、自分たちがこれだけ探しても見つかっていないのに……と疑っていたのだが、実際に友野が示した場所から、埋められたビニール袋に包まれた日本刀が出てくる。


「なんで、こんなところに……?」


 てっきり、旅館の敷地内からは見つからなかったため、近くの川や池に沈めたのではないか……と思って捜索していたのだが、そこは村役場の花壇の中だった。

 鞘には返り血を浴びたような血痕も残っていて、すぐに日本刀は鑑識に回される。

 結果が出るのは、翌日になるだろうとのことだった。


 友野は、調査が終わり次第できるだけ早くその刀を元の場所へ戻すように刑事たちに念を押して、旅館に戻る。

 そして、刀が戻ってくるまでの間、代わりにこれを置いておくように……と、駐在所でコピーしてもらった地図を折って作った紙の剣に封と書いて蛍に渡す。


「仮の刀なので、効果は長くは続かないでしょうけど……これで、首無し男はもう現れません。もし、それでも首無し男を見たと言う人物がまた頻繁に現れるようだったらご連絡を。別の方法を考えます」

「……そうですか」


 首のない男が歩いている……という怪奇現象は、これで解決した。

 後は、本当に犯人が正であるかどうか……の結果待ちだ。

 ここから先は、友野ではなく警察の仕事である。

 これ以上、友野と渚がこの村にいる必要はない。


 蛍は複雑な心境であったが、やはり正が犯人だとは思えなかった。

 正と坂本の関係も不明で、殺害動機もわからない。

 なぜ坂本が屋根裏部屋にいたのかも……

 首を切られたのかも……

 きっと、誰かが日本刀を持ち出して犯行に及んだのだと……

 鑑識の結果がでるのをおとなしく待つことにした。


「お疲れでしょうから、今日は温泉にゆっくりつかって休んでください。明日、母が戻ってきますので、その時にご自宅までお送りします」

「あぁ、そうだった。俺、よく考えたら温泉に入ってませんでしたね」


 この温泉旅館には、あの生首が浮いていた温泉とは別の、貸切用の露天風呂があり、すでに深夜であるが蛍が用意してくれて、友野はここへきてやっとゆっくりと温泉につかることができた……

 そこで、女性の霊を見るまでは————



「マジかよ……」


 少しは休ませてくれよと……

 思いながら、友野はその霊の訴えを仕方がなく聞き入れてやることにした。




 * * *



「先生、寝不足ですか? こんな昼間まで寝て……」

「ナギちゃん、あの騒ぎだったのによく寝れたね」

「騒ぎ? なんのことですか?」

「気づいてないなら、まぁいいや。知らなくていい。うん……」


 友野が何を言っているのかさっぱりわからなくて、渚は首をかしげる。

 実は、一度寝ると渚は中々起きないのだ。

 だから、友野が露天風呂のすぐ近くの林に女性の死体が埋まっていると通報し、実際に骨が二人分見つかった————という事件があったのだが、そのことには一切気がついていなかった。

 調査で多くの刑事がこの旅館に泊まってたため、刑事が朝から旅館の周辺にいても違和感がないというのも、その一因だろう。


「あ、ところで! さっき刑事さんたちが話してるの聞いちゃったんですけど!! あの日本刀の鑑定結果が出たみたいですよ!! 蛍さんのおじいさん以外の指紋がたくさんでて……その特定が大変みたいです」

「指紋がたくさん? どういうこと」

「それがわからないんですよ!! 蛍さんの話じゃ、あの刀の手入れは正さんがしていたので、正さんの指紋だけが出るか、もしくは犯人の指紋がでるか……だったんですけどね」


 渚が聞いた話によると、正の指紋の他にも複数人の指紋が検出されており、ビニールにもたくさんついていた。


「もっと詳しく調べないと、証拠にならないかも知れないみたいです。一体、犯人は誰なんでしょうか?」

「……さぁ、そこまでは————」



 昨夜友野が出会った女性の霊のことを考えれば、友野的には犯人は正の可能性が高かった。

 あの女性の霊は、正に殺された女性たちだった。

 おそらく、愛人だったのだろう。

 二度も殺人を犯した人間なら、また同じことをしかねない。

 二度あることは三度ある。


「————失礼いたします」


 旅行鞄に荷物を詰めながら、そう考えていると、襖の向こうから声がした。

 渚が返事をすると、顔は蛍によく似ているが、少し体格の良い中年の女性が部屋に入るなり頭を下げる。

 蛍の母・令子だ。


「わたくし、当旅館の女将でございます。この度は、娘が大変お世話になったとのことで……」

「いえいえ、そんな! こちらこそ、そこまでお役に立てずに……」


 丁寧に頭を下げられたが、本来の依頼であった祟りのせいだと証明してほしいというのは果たせなかった。

 逆に、これが人間の仕業ということを証明してしまたのだから。

 渚はつられて頭を下げたが、友野は令子の背後にいるものを見て、全てを悟る。

 さすが女将という雰囲気を纏った女性だったが、これはダメだと思った。



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