第三章 尋ね人
3—1
私がこの村に来たのは、会社の後輩の
二ヶ月ほど前、有休を使って一週間休むと連絡がありました。
でも、その一週間を過ぎても、彼が出社してくることはありませんでした。
彼が真面目な人間だということは、みんな知っていましたから、突然なんの連絡もなしにいなくなることはないだろうと、私、心配になって彼のマンションを訪ねたんです。
でも、管理人さんやお隣の方の話だと、しばらく帰って来ていないみたいで……
「一緒に同棲しているの彼女の姿もしばらく見ていない」って、そう言っていました。
彼女さんと一緒に住んでいるなんて初めて聞きましたけど、そうなると二人とも帰って来てないってことになるじゃないですか。
もしかして、何か事件にでも巻き込まれたんじゃないかって、気にしていたんです。
お父さんは子供の頃に亡くなっていて、お母さんの方も最近亡くなったと聞いていましたので、ご家族もいないようでしたから、会社の方で捜索願を警察には提出しているんですけどね……見つからなくて。
どうしようかと思っていた時、私、彼のお父さんが首無村の出身だったって話を聞いたことがあるのを思い出しまして……
「一度、有休を取って父の
それで、この村へ。
昨日、温泉で女性の首を見たときは本当に驚いて、怖くてちゃんと聞けなかったんですが……
須之部さんって方に、見つかった死体について聞いてみたら、身元不明だって言うじゃないですか……
もしかしたら、それが坂本くんなんじゃないかって……
顔は……その、首がないのでわからないですけど、坂本くんの左腕には、火傷みたいな痣があるんです。
「父からの遺伝だから、手術で消したりとかはしなかったんだ」って、言っていたので————
もし、もしも、その死体の腕に坂本くんと同じように痣があるのなら、坂本くんが……
坂本くんが殺されたって、ことですよね?
どうなんですか?
その見つかった首のない死体の腕には、痣はありませんでしたか?
◇ ◇ ◇
鈴森が話している内容を聞いて、友野たちは驚いた。
確かに、死体の腕には火傷のような痣がある。
しかし、それは蛍の行方不明になっている兄にも言えることだ。
死体の腕の痣の写真と、蛍の腕にある痣は同じ形でよく似ている。
鈴森も写真を見てその痣は坂本の痣と似ていると言い出した。
「鈴森さん、その、坂本さんって人はおいくつの方なんでしょうか? 顔写真とかあります?」
「え?」
「もしかして、蛍さんのお兄さんと坂本さんは同一人物なのかもしれないじゃないですか。どちらの主張も正しいのだから」
友野には、鈴森も蛍も嘘をついていないことは、守護霊を見ればわかる。
二人とも、純粋な心を持った人物で嘘がつけない性格だ。
この二人からは悪意は感じられなかった。
「えーと、写真はその、写りたがらない人だったので、はっきり写っているのはありませんけど……歳は二十七歳ですね。写真じゃわかりづらいかもですが、顎のあたりに
鈴森は自分のスマホから坂本が写っている写真を探し、蛍に見せながらそう言ったが、どうも坂本は写真に写ることが嫌なようで、あまりはっきり顔がわかるようなものではない。
「あぁ、それなら、兄ではないです。私の兄は三十歳になるので……この写真も……顔がよくわからないですね、眼鏡をかけているし……兄とは違う人だと思います。顎に黒子もないですし」
蛍の兄は、二十三歳の時に突然何も言わずに失踪したらしい。
当時、まだ高校生だった蛍は、母である令子が心配して夜な夜な泣いていたことを知っている。
今でもあの屋根裏部屋が綺麗なのは、いつ息子が帰っても大丈夫なように定期的に掃除をしているからだ。
それこそ、ほとんど誰も泊まらない客室よりも念入りに。
「七年前のものですが……これが兄です」
蛍も、失踪前の兄の写真をスマホから見つけて、鈴森に見せたが坂本とは顔が違うと首を横に振る。
「偶然、同じ位置に同じような痣のある人間が二人いるってことですね……不思議です。……あれ? でも……————」
「でも……?」
「うーん……この坂本さんの顔、眼鏡をしてるので目元ははっきりわからないですけど」
渚は坂本と蛍の兄の両方の写真を見た後、自分のスマホをポケットから取り出すと、昨夜須之部から送ってもらった生首の写真と坂本の写真を見比べる。
「————この顎の黒子、同じ位置にないですか?」
そう言って、スマホの画面を鈴森と蛍の方に向けた。
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