4—4
* * *
「————まったく、あんたって子は、なんですぐに電話してこなかったんだか……」
「ごめんなさい……」
白蛇に飲み込まれたあと、友野が目を覚ますと翌日の昼間になっていた。
東北からすっ飛んで来た晴子の話によると、先に拝殿の奥で目を覚ました東が、救急車を呼んでくれたらしい。
そして、医者によると体には特に異常はないとのこと。
少女の方は持っていたランドセルから連絡先がわかり保護者に連絡が行き、念のため今は小児科病棟にいるらしい。
「掛け直すと言っておきながら、まてど暮らせど連絡は来ないし、やっと連絡が来たと思ったら救急車で運ばれた————だなんて、まったく、情けないったらありゃしないよ」
すっかり晴子に連絡するのを忘れていた自分が悪い。
友野は自分とそっくりな顔で眉間に深いシワを寄せている祖母に何度も謝った。
晴子は、神憑きの子供の方は塩水を口に含ませてから同じく拝殿の前に置くように……と、言うつもりだったのにそれができなかった。
「それに、その子供一人で行くべきだったのさ。あの刑事さんのが終わった後にね。関係のないあんたがついて行ったせいで、こういうことになったんだよ。人の話はちゃんと聞かないと——……」
晴子はちらりと友野の背後を見て、はぁ……とため溜め息を吐く。
そして、ボソリと呟いた。
「余計な繋がりができてしまったじゃないか……」
「え? 何が?」
「……いや、別になんでもないさ」
白蛇に一緒に飲み込まれたせいで、友野の守護霊にある特殊なものが憑いてしまっているのだが、別に死ぬわけではないし、まぁいいかと、晴子は何も言わなかった。
「あの子供が目を覚ましたら、もう二度とこういう変なことには首を突っ込まないように注意しておくんだよ?」
「うん……わかった」
「それと、お前の友達————ヒロタクとか言ったかい? あいつにもね」
「……はい」
「あんまりこういう類のことに見えない人間が興味を持ってしまうと、そのうち祟られるか呪われてしまいかねないからね」
この数ヶ月後、本当にヒロタクは修学旅行先で変なものに取り憑かれておかしくなるのだが、それはまた別の話である。
「まぁ一応、黒蛇はもう悪さをしないだろうから、そこだけは褒めてやろう。あんたたちが逃げた白蛇様の憑代を捕まえていなかったら、この件は解決さえしていなかったし……」
「あ、そういえば、あの賞金百万円は!?」
蛇を捕まえたのだから、賞金が貰えるはずだ。
四人で捕まえたから割ったら二十五万円貰えるはず。
友野も一応そこは期待していたのだが、高校生には大金だとそれぞれの両親に貯金に回されてしまう。
お年玉と同じ扱いをされて、本当に銀行に貯金されているのかも怪しいが……すぐに手にすることはできなかった。
友野はこの次の日に退院することになり、その前に小児科にいる少女の様子を見にいこうとした。
しかし、よく考えたら、友野はあの子の名前を知らない。
探しようもなく、そもそも個人情報なんで……と、看護師に怒られてしまい、結局少女とは会うことができなかった。
「先生って呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしかったな……」
小児科から自分の病室に戻る帰り道、友野はそう独り言を言った。
きっと怖い思いをしたのだから、もう二度とあの子も変なことに首を突っ込んだりはしないだろうと、思いながら————
□ □ □
「むぅ……つまらないでござる!!」
特に体に異常はない。
むしろ、憑き物が取れたように以前にも増して元気が有り余っている少女は、病室で頬を膨らませていた。
読んでいた呪いの本は親に取り上げられてしまったし、これでも読んでなさいと代わりに渡された子供向けの本が退屈で仕方がない。
周りにいる同じ歳くらいの子供たちとは話が合わないし、設置されていたテレビも子供向けのアニメしか流れていない……
「時代劇かホラーが見たいのに……!!」
時代劇はいいとして、ホラーを病院で見ようとする子供なんてお前だけだと東に呆れられていた。
少女は黒蛇様という神様に願っただけで、なんの罪にも問われない。
しかし、誰が黒蛇の被害にあったのか確認するために、東と北山が事情聴取に病室を訪れていた。
「あのなぁ、君はもう少し、自分のせいで人が死んだかもしれないという自覚を持たないと……」
「それとこれとは話が別でござるよ。好きなものは好きなのだから、しょうがないでござる!! それに、悪い人を見つけたら警察に言えばいいのでござろう!? 退院したら、ヒロユキにも言っておくでござるよ」
「…………今、なんて言った?」
少女の話から、突然知らない人物の名前が出て来て、東と北山は驚いた。
ヒロユキといえば、北山が小学生のころに黒蛇神社で同級生三人を呪い殺した————
「うちの近所に住んでる弁護士さんでござる。ヒロユキが悪い人をいっぱい知っているのでござるよ。拙者の友人でござる」
事情聴取をしながら少女がなぜ、そんなにも多くの犯罪現場に遭遇したり、前科者のことを知っているのか疑問だった。
それはその博之の仕業であったのだ。
大人になった彼は、妖怪や霊を見ることはできない。
それでも、偶然、黒蛇神社に少女が通っていることを知った彼は自分が罰を与えることができなかった人物に天罰を下すように仕向けたのだ。
何も知らない少女を利用して。
「————あの……そろそろよろしいですか?」
面会時間終了の時間が来て、強面の刑事たちに看護師が声をかける。
刑事たちは、また明日詳しいことを聞きに来るからと、病室を後にする。
「じゃぁね、
「おう、また明日でござる!!」
— 【蛇に乗る】終 —
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます