4—2


 神社側の準備が整い、足が痛くて歩けない東は北山に背負われて拝殿の前まで来た。

 友野とヒロタクも手伝って東をなんとか賽銭箱の奥に寝かせて、しばらく待ってみる。

 だが、何も起こらない。


「おい、本当にこれだけで何かが起こるのか?」

「そのはずなんですが……おかしいですね」


 晴子の話では、白蛇様に見えるように寝かせてやるだけで、特に祝詞や呪文は唱えなくていいということだった。

 実際、小学生の頃に体験している北山も、ただ寝かされただけで、他に何かされたような記憶はない。


「うーん……おかしいでござるね。足の蛇も消えてないでござるよ?」

「何がいけないんだろうか……?」


 少女が賽銭箱から身を乗り出して東の足を見たが蛇は絡みついたまま。

 友野も少女と一緒に覗き込んだ。


「なんだよ、どうなってるんだ? 俺にも見せてみろよ!」


 見たって見えるはずがないのに、ヒロタクが友野を押すように後ろから寄りかかった。


「おい、やめろよ、危ないだ————……わっ!」


 バランスを崩した友野は賽銭箱の上に乗ってしまう。

 その時、暗い拝殿の奥から、何か光るものが見えた。

 そして——……


「えっ!? うぉあっ!?」


 十匹ほどの白い蛇が、スルスルと奥から現れてあっという間に東の体の下に入り込む。

 そして蛇に乗って、東は拝殿の奥へ運ばれていく。


「おおお!! すごい!! すごいでござる!!!」


 少女は感動して、運ばれていく東の後を追いかけた。


「あ、ちょっと、待って!!」


 友野も少女を止めようと追いかける。


「なんだ!? 何か見えるのか!?」


 ヒロタクや部長に、その白い蛇の姿は見えていない。

 突然走り出した友野を追って、ヒロタクと部長も賽銭箱を飛び越えて中へ入ったのだが、先に進んだ三人の姿はとっくに闇の中に消えていて、見えなくなった。


「なんだよ、どういうことだよ!?」

「人が消えたぞ!? なにこれ、やっべええ!!」


 怪現象に喜ぶ高校生二人の首根っこを掴んで止め、北山は落ち着くように言った。

 きっとこれは神聖なものだから、騒いだりちゃかしたりしてはいけないと————



 * * *




 東の体を運ぶ白い蛇は、おそらく白蛇様の使いだろうと友野は思った。

 先ほど確保した大きな蛇の三分の一くらいの大きさの蛇ではあるが、大人一人を背負って運ぶなんて、普通の蛇にできるわけがない。

 それに運ばれている東には、何かの上に乗っている感覚はあるのだが、見えてはいなかった。


「なんだこれ……なんで勝手に体が……!! 浮いてる!? いや、なんなんだこれは!!?」


 不思議な体験に驚き、東の顔はこわばってさらに人相が悪くなる。

 一方で、少女の方はきゃっきゃと楽しそうに……


「もしかして白蛇様の使いというやつでござるか!? おおおお!!」


 などと、瞳をキラキラと輝かせながら運ばれていく東の姿を追いかけていた。

 しかし、いくらなんでも拝殿の中が、こんなに広いはずがない。

 薄暗い闇の中を通った先に、まばゆいほどの光が見えて来た。

 どこか異空間にでも飛ばされたのだろうか……

 わけがわからないが、その光の前まで来たとき、蛇がピタリと止まり、大きな蛇————先ほど確保した大きな白い蛇がとぐろを巻いて鎮座しているところへ東の放り投げられた。


「うわぁっ!!」


 ころころと転がり、衝撃で東は意識を失う。


「け、刑事さん!? 大丈夫でござるか!?」


 少女は駆け寄ろうとしたが、友野はあることに気がついて少女の手を引き、止めた。


「待って……! 近づかないほうがいい」


 大きな白い蛇が口を縦に大きく開け、東の足に絡みついていた黒い蛇に噛みついたのだ。

 すると、黒い蛇はすっかり姿を消してしまった。


「す、すごい……! 白蛇様が取ってくれたのでござるな!」


 東の方は、きっとこれで一安心だろう。

 だが、それ以前に気になるのはその大きな白い蛇の背後にいるものだ。


 大きな白い蛇————白蛇様の化身とされる全長二メートル以上もある大蛇の後ろに、さらに大きな……全長十メートルはありそうな大きな大きな白い蛇が現れたのだ。


「白蛇様……?」


 大きな蛇は、赤い瞳で友野と少女を睨みつける。

 友野も少女も、まるで蛇に睨まれた蛙のように圧倒されて、身動きが取れない————



「まだ懲りていないのね、黒蛇————」


 しかし、白蛇様が睨みつけているのは、少女の守護霊に絡みついている顔が女で体が黒い蛇————黒蛇様だ。


「子供に執着するのはやめなさいと、何度言ったらわかるの?」






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