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□ □ □
————カランカラン……
ボロボロの鳥居をくぐると、柱が腐りかけている拝殿と賽銭箱があった。
鈴を鳴らす縄もひどく汚れていて、とても綺麗な神社とはいえない。
それでも、少女は小さな手で何度も縄を揺らして、夕陽を背に手を合わせる。
石段に座って話を聞くと、この少女は現在小学一年生で、ほとんど毎日この神社に通っているらしい。
しかし、頑なに名前だけは教えてはくれない。
この神社が、黒蛇神社という白蛇神社とは兄弟のような神社だということや、時代劇にハマっていてこんな喋り方をしていることは教えてくれたのだけど……
「なんで教えてくれないの?」
「簡単に他人に名前を教えてはいけないと、この本に書いてあったでござる。それゆえ、拙者もお主の名は聞かぬから、安心せい」
「……そ、そう」
少女は得意げに『呪いの本』を友野に渡してそう言った。
小学生女児の愛読書とは思えないような全体的に黒い表紙に、赤い明朝体の見出し。
どうやらオカルトや都市伝説を特集しているムック本のようだ。
「まぁ、確かに、名前なんて知られたら簡単に呪われるしね……」
パラパラと中身を見ながら、友野はそう呟いた。
こういう類の本は、オカルト研究部にも何冊か置かれているが、呪いやら妖怪の話が怪しげなイラストと写真付きで解説されているものの、どう考えても小学生が読むようなものではない。
普通の小学生なら、こんなおどろおどろしい本より、デフォルメされたイラスト付きの妖怪辞典とかの方が楽しいんじゃないのかと思った。
「お! お主、呪いについて詳しいでござるか!?」
少女は、大きな瞳をキラキラと輝かせながら友野を見る。
その表情は、今朝見たヒロタクのものと似ていて友野は呆れる。
「いや、そりゃまぁ……普通の人よりは詳しいけど————」
「じゃぁ、あのジンメンヘビが見えたりするでござるか!?」
「……ジンメンヘビ?」
少女にそう聞かれて、友野は思い出した。
あの黒い蛇を追いかけてここまで来たことを————
「もしかして、君もあの蛇を見てここへ来たの?」
「おお! 見えるでござるな!!」
霊や妖怪の類は、幼い子供の方が見る確率が高い。
それはモスキート音が大人になるにつれて聞こえなくなってしまうのと同じような原理で、見えなくなるものではあるが……
友野のように遺伝的にそれが大人になっても残っている人間もいる。
この少女にも、あの蛇の頭が人間に見えたのなら……
「もしかして、君も俺と同じで見える家の子?」
「……見える家の子? なんのことでござるか?」
「今、いくつだっけ?」
「ピッチピチの小学一年生でござる」
「ピッチピチ……て、そうじゃなくて……——いや、いい」
もしかして、自分と同じ成長しても見続ける能力を持った人間なのではないかと期待したが、まだ小学一年生だ。
今後見えなくなっている可能性は十分ある。
侍口調と、妙に大人びている趣味のせいで一瞬混乱した友野。
「————ところで、そのジンメンヘビってやつが見えたらなんなの?」
「ジンメンヘビの話を、母上と父上にしたのだが、信じてはもらえなくて……」
少女は目を伏せる。
友野には、その気持ちはよくわかった。
たいていの大人は見えるといっても、信じてはくれないのだ。
小学生の頃、なんども担任の先生にトイレに妖怪がいると主張したが、信じてはくれず、結局何人もの児童が行方不明になる事件にまで発展してしまったことを思い出した。
「お主は見えるなら、信じてくれるだろう?」
「あぁ、そうだな……」
「じゃぁ、聞いてはくれぬか? 誰かに話したくてうずうずしておったでござる! ジンメンヘビの素晴らしさを!」
「お……おう」
少女があまりに聞いてほしいと興奮気味だった為、友野は話を聞いてやることにした。
ずいぶん変わっている趣味の少女だが、聞いてくれるとわかった途端、またパッと表情が明るくなる。
「ジンメンヘビは、黒蛇様の
キラキラと瞳を輝かせながら、無邪気にそう言った。
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