第二章 黒蛇様
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あれは、一ヶ月くらい前のこと。
拙者には仲良しのお隣に住んでいる姉上がいたでござる。
姉上は、拙者と一緒に学校へ一緒に行ってくれていたのだが、突然学校へはもう行かぬと姉上の母上に言われたのでござる。
理由は答えてはくれず、姉上とは一緒に学校に行けなくなってしまって、拙者は寂しかった。
しかし、学校へ行くと先生や六年生の他の姉上たちが話しているのを偶然耳にして、その理由がわかったでござる。
姉上は担任の男の先生にいたずらをされているところを見つかったらしい。
それはとても悪いことだったのに、他の先生たちはそのことを隠した。
でも、これはピッチピチの小学一年生の拙者の力だけではどうにもすることができない……
そこで拙者は神様にお願いしたでござる。
姉上に悪いことをした先生を、成敗してほしいと。
だが残念なことに、白蛇神社が家から一番近い神社ゆえ、何度か来たがそれは叶わぬ願いだったでござる。
別の方法を考えようと、思ったその時でござる!
もう一度白蛇神社の前を通った時、拙者がジンメンヘビと出会ったのは!
ジンメンヘビは、黒蛇様の使いだと言った。
不思議な顔のヘビであったが、拙者はジンメンヘビの後を追ってこの黒蛇神社にたどり着いたのでござる!
今度は、この黒蛇神社でお願いしてみた。
すると、次の日、あの先生は蛇に噛まれ、毒にやられて入院したのでござる!
姉上は別の街へ引っ越して行ってしまったが、きっとその知らせを聞いて、さぞかし喜んでいるだろう。
拙者は嬉しくて、お礼に黒蛇様にみたらし団子をお供えした。
その帰り道、拙者はお主と同じ制服の男がコンビニで盗みを働いているのを目撃したでござる。
だれも気づいていないみたいだったから、拙者は次の日にまた黒蛇様にお願いした。
罰を与えてくださいと。
すると、その日の帰り道、その男は道路を歩いていた蛇に驚いてハンドルを切った車とぶつかったのを、拙者は目の前で見たでござる。
それで、やっぱり黒蛇様の力は本物だと思ったでござる。
黒蛇様の力はすごいのでござる。
だから、黒蛇様は悪い人に罰を与えてくれる神様なのでござる。
それからは、悪い人を見つけると黒蛇様に報告することにしたでござる!
子供を車に置いたまま帰ってこないおばさんや自転車を盗んだおじさんに、タクシーの運転手さんを殴ったおじさん、そして、昨日の近所に住んでるいつも怒鳴っている悪い詐欺師のおじさんも————……
みんなみんな、黒蛇様がジンメンヘビに命令して、天罰を与えるのでござる!
これはとってもすごいことなのでござる!!
この本に書いてあるどの呪文よりも、どんな呪いよりも、簡単に黒蛇様が倒してくれる。
悪い人を倒してくれる。
これはとってもとってもすごいことでござる!
▲ ▲ ▲
「————お主もそうは思わぬか!?」
意気揚々と黒蛇様について一通り語った少女は、友野に同意を求めてきた。
全く悪意のかけらもない、淀みないキラキラとした目で……
「え、えーと……」
ただでさえおかしな少女だと思っていたが、ここまでおかしいとは思ってもいなかった友野は、戸惑うしかない。
少女の問いかけに、何と答えたらいいのか……
確かに、悪いことをしたら天罰が下るという教えは古くからあるが、それにしても罰が重すぎる。
この話を聞かされているのが普通の人間だったら、子供の作り話として本気にはしないだろう。
しかし、友野はそういう類のものが見える人間であり、何より、コンビニで盗みを働いた男の話に、心当たりがあった。
つい先日、隣のクラスの男子が交通事故にあって大怪我をしたという話をヒロタクから聞いていたのだ。
噂によると、彼は補導歴があったほど、素行の悪い生徒だった。
「えーと、なんでござるか?」
「いや、その……黒蛇様っていうのはこの神社の神様ってことだよね?」
「だから、そう言ってるでござる! 白蛇神社よりもずーっと、願いを叶えてくれるのだから、黒蛇様はすばらしいとは思わぬか?」
「そ、そう……だね」
少女はやはり、自分がしていることは当然のことだと思っている。
罪の重さなんて、裁判官でも弁護士でもない友野にはわからないが、万引きをしたら車に轢かれ、人を騙したら殺されるなんて、さすがにおかしいことくらいはわかる。
それに、この少女はそんなに多くの犯罪の現場を目撃しているというのも不思議だった。
あまりに同意を求めてくるので、とりあえず頷いたが、友野は密かに少女の後ろ……守護霊を見る。
霊媒師の息子である友野には、この少女に何が起こっているのか、どういう性格の子なのか、守護霊に聞けば大抵のことはわかるのだ。
「え……」
「ん? どうしたでござるか?」
この少女の守護霊である大人の女性————顔が似ている感じがするため、おそらく先祖である美しい女性の霊体に黒い大きな蛇が巻き付いていた。
それは初めて見る光景ではあったが、友野は霊媒師である祖母から聞いた話を思い出す。
「……
それは、守護霊の他に、神に守られている証し。
だが、それが良い神であるようには友野には思えなかった。
その神の体は蛇だが、頭は……顔は人間の顔のように見えて————
何かを企んでいるように目があうと、ニィィといやらしく
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