1—3
* * *
「ようこそ、いらっしゃいました……」
老舗酒屋・丘山酒造の本社前で友野たちを出迎えたのは、社長秘書の
社屋は去年古くなった建物から移転し、木を多く使った和風な造りになっていた。
一階部分は直営の店舗で、吹き抜けの高い天井にはシーリングファンが吊るされ、くるくると回転している。
明るく雰囲気のある店内に入った途端、広嶋は片手にビデオカメラを持って撮影を始める。
「ちょっと、何撮ってるんですか先輩……!!」
「仕方ないだろう!? 上層部の奴らが、呪われてるせいで放送できないっていうなら、その証拠の映像を撮ってこいってうるさいんだよ……」
今は占い師として活動している友野は、これでは占い師ではなく霊媒師として有名になってしまうじゃないかと慌てる。
霊媒師なんて胡散臭くてモテないのが嫌だと、たいして知識もなく占い師をしているのに……
これじゃぁ、今までの努力が……————
「あのねぇ、先輩。前にも言いましたが、呪いなんてカメラに映るもんじゃないんですよ」
まだ実物を見ていないが、リモートでカメラを通してでは箱の中身が空にしか見えなかったという体験をしているというのに、広嶋は諦めきれない。
この状況をなんとか番組で使おうと必死なのだ。
自分の命ももちろん大事だが、このままあの箱に関してなんの収穫もなければ、せっかく任された番組が打ち切りになってしまう。
視聴者を裏切ることにもなる……代替案が必要なのだ。
「いいんだ。たとえ映らなくても、あの箱に関する歴史だとか……そういうエピソード的なものでもあれば、視聴者もいくらか納得してくれるかもしれないだろ? それに……————これが上手くいったら、レギュラーで占いコーナーを設けてやってもいいんだぞ?」
「……なんですかそれ。やります!」
昨今若者のテレビ離れが進んでいるとは言われているが、まだまだテレビの影響力は大きい。
それも、広嶋が担当しているのはゴールデンの番組だ。
友野にとっては美味しい話だった。
「あの……その話は奥に行ってからにしてもらえませんか? 他のお客様もいらっしゃいますので……あまり、呪いというのは……」
逢坂にそう言われて、周りを見てみれば呪いのことは何も知らない客たちから好奇の視線を向けられていた。
この酒造の蔵から見つかった宝の地図のその後について、いろいろ言われている最中だ。
呪いという物騒な言葉が耳に入り、関心を持たれてしまった。
「そうですね……失礼しました。で、えーと、その、社長さんは今どこに?」
「ご案内いたします。こちらへどうぞ」
逢坂の後について、友野、渚、広嶋の順で奥へ進み、階段を登ると社長室のドア。
「社長、お連れいたしました」
中から返事がして、逢坂がドアを開けると右腕に包帯を巻いた丘山がいた。
半年前の足の骨折は完治したのだが、今度は右腕を骨折したらしい。
それに宝の地図が見つかったあの番組では、若々しく活力にあふれているように見えたのだが、実際に会ってみると、なんだかげっそりとやつれているような印象を受ける。
顔色も悪いし、どこか具合が悪いようだ。
「いやぁ、よくお越しくださいました。こんな格好で申し訳ない……」
「いえいえ、こちらこそ突然お伺いしまして——……」
友野は、早速、その例の呪いの箱を見せてもらおうとした。
だが場所を聞くまでもなく、まだ新築の匂いがする社長室の隅に置かれていたそれに気がつく。
箱の上に白い布がかけられて隠されてはいるが、明らかにその箱の周りの空気が淀んでいるのだ。
眉間にしわを寄せ、とても嫌そうな顔になる友野。
初対面の人間に見せるような表情ではないほど、顔をしかめる。
「先生? どうしました?」
しかし、その空気を感じているのは友野だけで、渚はそこに例の箱があることには気づいていない。
何も言わずに友野は箱に近づき、かけられていた布に手を伸ばす。
「お、おい、友野? どうした?」
「…………」
————バサッ
布を外すと黒い箱が姿を現し、まるで箱に巻きついているかのように、描かれている金色の龍と目が合った。
そして、何度も何かを数えて確認した後、くるりと広嶋の方に向き直して言い放つ。
「すみませんが、この依頼、お断りします。というか……多分、俺じゃ無理です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます