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「ネットで噂されてるようなヤラセなんかじゃないんだ。宝の地図が見つかって、本当は一ヶ月後の特番の時期に合わせて、放送する予定だった————」
広嶋が友野に語ったのは、今から半年前の出来事である。
それはまだまだ暑い夏のこと。
見つかった宝の地図を手に、番組スタッフ数名と調査隊員役のお笑い芸人と専門家の十人以上で、印のある場所へ向かった。
そこは老舗酒屋の所有している山で、十六代目の若社長・
広嶋も社長室から指示を出して、撮影は順調に進んでいく。
険しい傾斜を登ったり、途中で川に落ちそうになったりと、撮れ高は十分。
生い茂った草木の色も、夏の太陽が明るく照らして生き生きとしていて、映像的も綺麗だった。
あとは、地図に示されている洞窟へ入ればいい。
画面越しに見ていた広嶋も丘山もまだかまだかと、期待に胸をふくらませる。
しかし、洞窟の周辺でガラリと雰囲気が一変してしまう。
快晴だった空が急にどんよりと暗くなり、洞窟の周りは草木が枯れていたり、しおれていたりするのだ。
洞窟の入り口には、
そして、芸人の話だとなんだかとても嫌な臭い匂いが洞窟の中からしているという。
それでも、ここまで来て引き返すわけにはいかない。
地図で示されている通り、その洞窟の中へ足を踏み入れる。
するとそこに、土埃をかぶって入るが金色の豪華な龍の装飾が施された黒い大きな箱が置かれていた。
一般的な三段のカラーボックスを横置きにして、その上に蓋をかぶせたような大きさである。
これが地図にあった宝箱であると確信し、芸人がカウントダウンをはじめ、蓋を開ける。
カメラがその箱の中を映し出した。
「————中には、何も入っていなかったんだ」
「……何も?」
広嶋は震えながらコクリと頷く。
「正確には、何か入っていたのかもしれない。でも、俺はその場にいなかったから中身は空だったようにしか見えなかった。画面越しには何も見えなくて……俺と社長——丘山さんはがっかりしたんだ。でも、現場にいた奴らは、大喜びしてた——……」
広嶋と丘山は、芸人たちの反応に驚いた。
映像では、その箱には何ひとつ入っていないのに、喜んでいるのだ。
まるで、本当にその中に金銀財宝が入っていたかのように。
「すごい! すごい!」と芸人と専門家は箱の中に手を入れて、中にある何かを取り出したような動きをしているのだが、映像には全く何も映っていない。
パントマイムをしているようだった。
「なんの冗談かと思ったんだが、現場にいるスタッフもみんな同じように興奮して喜んでいて……感想を聞かれた丘山さんも困ってしまって——……」
何も見えないし、何もないのにどうかと聞かれても、答えようがない。
現場はお祭りムードだが、社長室には変な空気が流れていた。
とりあえずもう直ぐ日が沈むということで、その箱は翌日の朝、洞窟から社長室へ運ぶことにした。
日が暮れる前に社長室へ戻って来た撮影スタッフ達に、改めて、何が入っていたのか、あれは一体どういうつもりか確認するが、皆が言うのだ。
あの箱の中に、「宝石と金貨が山のように入っていた」と。
「まるで、海賊映画に出てくるような宝の山だった」と。
「本当に、訳がわからなかった。そのあと、録画した映像を見ても、やっぱり俺にはあの箱の中身は空にしか見えなかったんだ。そして、その日の夜、収録の打ち上げをしていた店の屋上から、カメラマンが一人飛び降りた」
その後も、あの箱の中身を見たスタッフの自殺が相次いだ。
一人は、カメラマンの死から四日後、局内のトイレで手首を切り……
それから二週間後には、同行した専門家が娘の結婚式の最中に首を切り……
さらにその数日後、調査隊員役の芸人は自宅マンションで首を吊り、別のスタッフは崖から飛び降りて……
この半年の間に場所や死に方は様々だが、合計六人が自ら命を絶っているのだ。
「こんな状況で、放送なんてできるわけないだろう? あの箱は、宝の箱なんかじゃなくて、呪いの箱だったんだよ! 助けてくれよ!! このままじゃ、番組も打ち切りだし、俺の命だって危ないかもしれない……!!」
涙ながらにそう訴える広嶋を見て、友野は少し考えた後、広嶋の依頼を受けることにした。
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