六爪龍

第一章 宝の地図と呪いの箱

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 とあるテレビ番組で、開け方がわからずにずっと放置されていた古い金庫の解錠が行われた。

 こういう番組では、そもそも金庫の中身は空か、何か入っていても大抵の場合期待させておいて大したものではない。

 だが、ごく稀に、本当にとても貴重なものが出てきたりするのだ。

 今回の金庫は創業が江戸時代の頃という歴史ある老舗の酒屋の蔵にあった為、きっと歴史あるお宝が入っているに違いないと、出演者たちは期待に胸を躍らせる。


 解錠の依頼をした十六代目の若社長が、数十年ぶりに開けられた金庫の中身を確認する。

 金庫の中は、木製で上二段は棚になっていて、下段には小さな引き出しが二つ並び、その下に大きな引き出しという作り。

 残念ながら上段の棚には何も入っていなかったのだが、小さな引き出しには昔の紙幣や、葉書などが入っていた。


 問題は一番下の引き出しである。

 そこには、一枚の紙が折りたたまれて入っていたのだが、それはなんと————宝の地図だったのだ。


 宝の地図が開かずの金庫から出てきたのは、番組史上初のこと。

 番組ではこの地図に示されている宝を探しにいく様子を後日撮影し、近日公開するとしている。

 その日の放送は、これで終わった。


 しかし、その放送からもう半年以上も経っているのだが、宝の地図のその後の様子は全く放送される気配がない。


 ネット上でも、一体いつ放送されるのか——……そもそも、本当に宝の地図はあったのか、あれは番組のヤラセだったのではないか——……など、様々な憶測が飛び交う。

 中には、番組内で映った地図を切り取り、自ら探しに行こうとした人もいたが、その宝の地図が示しているのは、私有地の山の中だ。

 許可なく立ち入り、逮捕されたとニュースになり——……

 とにかく、その番組に対する批判の声が大きくなってきた。


 実は、放送したくても、できない理由があるのだ。

 この問題を解決しない限り、テレビで放送することは難しい。


 このままでは番組が打ち切りになってしまうと焦った番組プロデューサーの広嶋ひろしま和也かずやは、弟の高校時代の同級生に、霊媒師の息子がいることを思い出す。

 調べてみると、彼は今、占い師として活動していることがわかった。


 それが、友野ともの晴太せいたという男である。

 彼が経営する占いの館に足を運んだ広嶋は、開口一番に言った。



「頼む、呪いを解いてくれ!」


 放送できない理由。

 それは、その宝が決して探してはいけない、見つけてはいけない、だったからだ————




 □ □ □




「は……?」


 それは突然のことだった。

 珍しく高校時代の同級生・ヒロタクこと、広嶋拓也たくやから連絡があり、どうしても兄に会って欲しいと友野に連絡が来たのは……


 ヒロタクの兄といえば、同じ高校の二つ上の先輩で、生徒会長だった。

 友野も何度か面識がある。

 きっと、最近ちょっとメディアへの露出が増えてきている友野を見て、自分も占って欲しいとか、そんな風に思われたのだろうと、今日の夕方に占いの館で会うことになったのだが————


「なんですか、って、俺、占い師ですよ? 先輩」


 まさか、現れた途端にそんなことを言われるとは思ってもいなかった。


「知ってるよ! でも、ほら、お前の家って確か霊媒師だったろ!? そういう霊感とか、お祓いとかで————とにかく、助けて欲しいんだ!」


 その霊媒師の家からは勘当されて、今は占い師をやってるんだけどなぁ……と思いながら、広嶋の後頭部を見つめる友野。

 広嶋が呪われているようには全く見えなかったが、入り口で土下座する勢いで頭を下げられているのはどうもバツが悪い。

 友野は広嶋に中に入るように促した。


「……とりあえず、中に入ってください。本当はこういうの……今は受け付けてないんですけどね————……」

「すまない……ありがとう」


 あくまで、今の友野の職業は占い師なのだ。

 もう昔のように金がないからと、霊力を使って無駄に疲れることはあまりしたくないのである。

 話を聞いてみてから判断しようとした。


「え、なんですか!? って!! 誰か死んじゃったりしたんですか!?」


 そこへタイミング悪く、自称助手のオカルト大好き女子大生・日輪ひのわなぎさが、瞳をキラキラと輝かせながら現れたせいで、ややこしくなる。


「ちょっと、ナギちゃん、そんな簡単に人を殺さないでって言ってるでしょ?」

「へへ……すみません。でも、気になるじゃないですか! 呪いですよ?」


 友野は呆れていたが、広嶋は真っ青な表情で渚を見て言った。


「ど、どうして、人が死んでるってわかったんだ!? もしかして、このも霊媒師的なあれなのか!?」


 そう、人が死んでいるのだ。

 それも、自ら命を絶っている。

 あの呪いの箱に触れた人物が、半年の間で六人も————



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