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* * *
「それじゃあ、アズちゃんがあの刑事さんたち呼んでくれたんですか?」
「ああ、そうだよ。梓ちゃんの霊が、詩愛ちゃんの所に行って危険を知らせてくれたんだ」
大神の逮捕後、結愛は友野から一体何が起きていたのかを聞かされた。
渚の話で、次に狙われる可能性が高いのが詩愛であることを知った友野は、犯人が捕まるまで詩愛の身の安全のため学校を休むようにと母親に言っていたのだ。
そして、念のため詩愛の身辺警護の為に東と南川が結愛の家の近くで待機していたのである。
数日かかると思っていたが、運良く初日に大神が現れた。
結愛がうさぎ小屋にいたのは予想外だったが、結愛を守るために梓の霊が幽霊の見える詩愛の元へ行き、伝えたのだ。
「アズちゃんも、手話ができるから……————」
「うん、きっと一生懸命、詩愛ちゃんもお姉ちゃんを助けようとしたんだろう……」
「そっか……あ、詩愛!」
結愛を迎えに来た母親と一緒に、学校にきた詩愛が結愛に駆けよる。
詩愛は結愛に抱きついたと思うと、すぐに手話で「ヒトクイウサギは退治できた?」と尋ねた。
「うん、できたよ! まだ蹴り足りないけど、アズちゃんがちゃんと天国にいけたから、大丈夫!」
これで人喰い兎の事件は解決した。
だが、この勇敢で幼い姉妹が笑顔になったその後ろで、もう一人、密かに笑みを浮かべる男がいる。
◇ ◇ ◇
やった。
やっと解放される。
あの化け物が、今度こそいなくなった。
狼女だかなんだか知らないが、あいつの
薬が切れるたびに、うさぎを食いやがって……
他の教師にバレないように似たようなうさぎを探すのは大変だった。
あいつが最初に児童を食ってから、この十五年は、特に生きた心地がしなかった。
あの化け物をどうやって俺の学校から追い出そうかと思っていたが、食い殺されるかもしれない恐怖と俺がやったことをバラすと脅されて何もできなかったんだ。
やっと八年前、児童を殴って、追い出す口実ができて安心していたのに、また戻ってきやがった。
それも、俺はもうすぐ定年するっていうこの年に……
逮捕されたなら、もう戻ってくることはないだろう。
よかった。
本当に良かった。
俺が通報したわけじゃないからな……
裏切ったわけじゃない。
もう、あの化け物に怯えなくていい。
ちょっと、あの問題児の日輪渚が成長して、可愛くなったから協力してやっただけさ。
あとで、協力のお礼として、ちょっとだけ遊んでもらおう。
なに、ちょっとだけでいい。
俺ももうすぐ定年だからな。
◇ ◇ ◇
「……ところで、校長先生。ご協力いただいたお礼に、一つお伝えしたいことが……」
こらえきれずにニヤニヤと笑みをこぼしていた校長を見つけ、友野は校長の前に立った。
「な、なんですかな?」
「……何か後ろめたいことを隠していませんか? 例えば、婦女暴行——……とか、女性関係で」
「は?」
「——……死相が出ています。このままだと、あなた、死にますよ?」
友野が校長も容疑者の一人だとしていたのは、これが見えていたからだ。
多くの若い女性の怨念のようなものが、校長にまとわりついている。
若い頃から、この男は女を無理やり犯すことに性的興奮を覚えているような男だった。
何人もの女性が、この男の被害にあっている。
そして、教頭になる少し前、妻子がいる身でありながら、転任してきたばかりで、大人しそうな大神を脅して関係を持とうとした。
だがその際、逆に脅されて、大神のいいなりになった。
大神が夜の学校で児童やうさぎにしてきたことを、黙認し続けたのだ。
「はは……そんな、まさか————」
校長は滝のように汗をかきながら、顔が引きつっている。
「あら、そうなんですか? 気をつけてくださいね、校長先生! うちの先生の占い、すっごい当たるんです」
渚はいつものあざとく可愛い笑顔で、わざとらしくそう言った。
校長が今まで犯してきた全ての罪を警察に告白したのは、明け方のことだった。
二匹の狼がいなくなり、人喰い兎の怪談話は自然と消え、この小学校に別の怪談話が広がる。
『兎の皮を被った狼』の話だ。
飼育をおろそかにすると、夜の学校に、狼がうさぎを食べにやってきて、食べたうさぎの皮を被ってうさぎのフリをする。
そこで、人間の子供を食べる機会を狙っている。
子供の人間を食べたら、今度はその皮を被り、子供のフリをして……と、いうものだった。
生き物係の児童たちは、うさぎ小屋のうさぎたちが、狼に食べられないようにと、今まで以上に、うさぎたちを大切にするようになったらしい————
— 【人喰い兎】終 —
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