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 9月3日 雨


 今朝、シロマルの口に血がついていた。

 でもケガをしたのはシロマルじゃなくて、ハイジらしい。

 大神先生が言ってた。

 ハイジの血がついちゃったんだねって……

 ハイジはわたしが1年生の時からここにるから、もうおばあちゃんなんだ。

 大神先生が病院に入院させてるって言ってた。

 早く元気になってほしいな……



 9月10日 くもり


 校内キャンプのきもだめしの材料を買いに、大神先生と他のおばけ係のみんなで買い物にいった。

 翼くんと春花ちゃんもいっしょだった。

 大神先生の車に初めてのったけど、とても大きな車で前のところにうさぎのぬいぐるみがいたのが可愛かった。

 先生のおうちにも、わたしの部屋と同じでいっぱいうさぎのぬいぐるみがあるんだって言ってた。

 そのあと、翼くんとお店でお話していたら、大神先生がコワい顔をしていたような気がした。

 いっしゅんだったけど……気のせいかな?



 9月19日 晴れ


 今日は校内キャンプの日。

 学校にとまるから、シロマルにも大きなウサギさんにもすぐに会えるって、そう思ってたんだけど、先生たちが見はりをしているから、あまり夜おそくには出歩けないみたい。

 夜の学校はコワいって、みんな言うけどわたしは平気。

 大きなウサギさんが守ってくれるから。

 きもだめしの時にちょっとだけうさぎ小屋によろうと思う。

 おばけ役はちょっとの間、翼くんにまかせよう。



 9月20日 くもりのち晴れ


 昨日の夜、うさぎ小屋に行こうと思っていたのに行けなかった。

 翼くんがあんなこと言うから……

 春花ちゃんの言うとおり、翼くんはわたしのことが好きなんだってさ。

 どうしたらいいんだろう?

 わたしも翼くんのことは好きだけど……

 明日は金曜日だから、大きなウサギさんに相談してみようかな?

 ウサギさんも、恋とかするのかな?


 ▲ ▲ ▲



 木下美咲の日記は、ここで終わっている。

 美咲がいなくなったのは、この日記を書いた翌日だ。

 当日の朝は普通に学校へ行き、放課後、忘れ物をしたと一緒に下校していた同級生にそう告げて学校へ戻って行った。


「もしかして、美咲さん……早く大きなウサギに相談したくて、私たちみたいに学校で夜が来るのを待っていたのかも……」


 夜が来るのを待ちながら、美咲の日記を読んでいた渚がふとそんなことを言い出した。


「そうかもしれないね……この、長谷川彩乃ちゃんの漫画でも、『悩み事は大きなウサギさんに話せばなんでも解決』っていうのが書いてあるし……」


 友野も、彩乃の漫画を読みながら、日が沈むのを待つ。


「それにしても、もっと他にいい場所なかったの?」


 友野と渚が隠れているのは、あの大きな鏡の裏側にあるわずかなスペースだった。

 大人二人が入るのには少し狭い。


「仕方がないじゃないですか。今残ってる他の先生や校長先生にバレないようにしないと行けないんですから……!」


 渚がいつものあざとい顔で夕方出勤してきた警備員をコロっと手なずけた為、簡単に潜入できた。

 だが、まだ数人の教師が学校に残っているため、この学校の卒業生である渚が知っているとっておきの場所に身を潜めているのだ。


「マジックミラーになってるので、内側からだと透明で、外側からだと鏡なんです。このことを知ってるのは私くらいなんですよ? だからよく、校内でかくれんぼをしたときは私が優勝していました」

「そんな……小学生の頃の自慢されても————……」


 どうして小学校にマジックミラーがあるのかは謎だが、渚があまりに誇らしげな顔をしていたので、これ以上ツッコミを入れるのをやめた。

 ここからなら、うさぎ小屋も見えるし、校長室からも遠い。


 日が沈むまで、あと少し——————



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