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十五年前、行方不明になっていたのは当時小学五年生だった
美咲もまた、行方不明になったのは梓と同じく金曜日のことだった。
授業が終わり、同級生数名と共に帰宅途中に忘れ物に気づき、一人学校へ引き返し、それ以来、彼女の姿を見た人はいない。
美咲の両親は当時共働き。
その日は母親が九州に出張中で、父親は職場でトラブルがあり夜遅くに帰宅したため、美咲がいないことに気がついたのは翌朝になってのことだった。
父親は美咲は当然、自分の部屋で寝ているだろうと思っていたのだが、どこにも美咲の姿はなく————
行方不明になって十五年、同じマンションに住み、娘の帰りを待ち続けていた両親にとって、娘との再会は辛く悲しいものであった。
「美咲は生き物係で、よくあのうさぎ小屋にいたそうです。うちのマンションでは動物が飼えないので————」
美咲の供養が終わった後、彼女の父親が占いの館を訪ねて来た。
校長に友野のおかげで遺体が見つかったことを聞いたらしく、その礼に来たのだ。
母親の方は、体調を崩して入院中とのこと。
「木下さん、こんなことを言って、信じていただけるかわかりませんが……娘さんは、まだ成仏できていません」
「え……?」
友野は、正直に見えているものすべてを話した。
遺体は見つかったが、美咲の霊は今、この占いの館にいるのだと……犯人を見つけて欲しいと、友野に訴えていることを。
梓ともう一人の少女の霊と一緒に。
自分たちを見ることができる友野を頼って、憑いてきているのだ。
「おそらく、犯人は同一人物だと思います。先日あのうさぎ小屋で発見された桃原梓ちゃんと……もう一人、二人と同じくらいの年齢の女の子を殺した犯人と同じかと————」
友野は、木下に協力を求めた。
「美咲ちゃんの部屋を、見せてもらえませんか?」
* * *
一方、友野が美咲の父親と話している間、渚は結愛と詩愛の家に来ていた。
「それじゃぁ、その美咲ちゃんもアズちゃんと同じで、ヒトクイウサギに殺されたんだね……許せない!」
渚から美咲の話を聞いた結愛は、ぎゅっと強く拳を握りしめて、怒りに震える。
結愛はヒトクイウサギがどうしても許せない。
親友の命を奪った妖怪を、絶対に見つけて敵討ちをするのだと息巻いていた。
妹の詩愛も、結愛を真似て怒っているようで手話で「私も戦う!」と言っている。
「そうね、私も許せないよ……三人も小さな子を手に掛けるなんて————いくら妖怪でも許せない。もし犯人が人間だったら、この手で殺してやりたいくらいだわ」
普段の渚なら、妖怪に会えるかもしれないと大喜びするような事件なのだが、さすがに渚も人喰い兎には怒っている。
「アズちゃんも美咲ちゃんも……それからもう一人の子の分も、絶対私が退治するんだから!」
結愛は綺麗なフォームで部屋の天井から吊るされているサウンドバックに蹴りを入れた。
格闘技を習っているらしく、その威力は普通の小学生レベルではない。
人間なら大人でもその衝撃に立っていられないだろう。
「……でも、妖怪って蹴れるのかしら?」
お茶の用意をしながら子供達の会話を聞いていた結愛の母親が、ポロリとそう言った。
「ママ!! 信じてないくせに、余計なこと言わないで!!」
「はいはい、ごめんごめん……」
この母親は、人喰い兎の話なんて信じてはいなくて、詩愛の描いた絵も想像だろうと思っている。
それでも、ずっと暗い顔で落ち込んでいた結愛が元気になったのは、妖怪退治に燃えているからだと、頭ごなしに怒ったりはしていない。
それに、近所でもいい子だと評判の綺麗なお姉さんの渚が面倒を見てくれているし、気が紛れていいだろうと見守ることにしていた。
「ごめんね、渚ちゃん。勉強の方は大丈夫なの? この子達に付き合って、単位落としたなんてことになったら、申し訳ないわ……」
「大丈夫ですよ。問題ないです。私も気になることがあるから、一緒にいるだけなので……」
結愛の母親は、せめてものお礼にと渚に現金が入っている封筒を渡そうとしたが渚は断った。
「本当に大丈夫です。お気遣いなく。それより……梓ちゃんて、親戚でもあるんですよね?」
「ええ、私の従兄弟の子供だから……」
「梓ちゃんの部屋を、見せてもらうことは可能ですか?」
「え……? どうして?」
「ちょっと、気になることがあって——……」
渚は、部屋に飾られていた結愛と詩愛、そして梓の三人が仲良く写っている写真を見ながら、そう言った。
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