人喰い兎
第一章 学校の怪談
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隣の席に、菊の花が置いてありました。
「今日はみんなに、悲しいお知らせがあります」
担任の先生がひどく疲れた表情でそう言うと、私以外のみんなはそれが何の話か知っていたみたいで、グスグスと泣き始めている子が何人もいます。
目を真っ赤にして泣いている子もいて、私はまるでうさぎ小屋のシロマルみたいだと思いました。
どうして泣いているのか、私だけが全然わからなくて不思議に思っていました。
「……
私以外、みんな泣いているんです。
でも、私はそれがどうしてなのかわかりませんでした。
先生が、一体何を言っているのかわかりませんでした。
だって、長谷川さんは……私の隣のその席に、きちんと座っているんですから。
いつものように、綺麗な形の三つ編のおさげで、丸い眼鏡をかけて、白いブラウスに青いスカート姿で、私の隣に座っているんです。
だから、私は手をあげました。
「◾️◾️さん……どうしましたか?」
先生は涙をいっぱいに浮かべた顔で、手をあげた私の方を見ました。
他のクラスメイトも、泣きながら私の方を見ました。
私は立ち上がって、先生に聞きました。
「長谷川さんならここにいるのに、どうしてそんなことを言うんですか? どうして、みんな泣いているんですか? 長谷川さんは、ここにいますよ? 死んでなんていません」
私が長谷川さんを指差して、そうはっきり言うと、一瞬、教室の中がシンとしました。
すすり泣いていた声も、まるで時間が止まったみたいにピタリと止まりました。
「……何言ってるの? 長谷川さんはここにはいません。あなたの隣の席には、誰もいませんよ?」
先生は、私が質問しているのに質問してきました。
今質問しているのは私なのに……私はちゃんと答えて欲しくて、もっと質問しました。
「先生の方が、何を言っているのかわかりません。長谷川さんはここにいます。ここに座っています。見えないんですか? それとも、見えないふりをしているだけですか? どうしてですか? 長谷川さんは何か悪いことをしたんですか? 先生に嫌われるようなことをしたんですか?」
そうしたら、急に先生が怖い顔になりました。
私は、分からないから聞いただけなのに……
「◾️◾️さん、何言ってるの? そこには誰もいないと言っているでしょう!?」
怒った先生は、私の顔を叩きました。
私にはわかりません。
どうして、先生に叩かれなきゃいけないのか、わかりません。
本当のことを言っているだけなのに、どうして、なんで私が叩かれなければならなかったのか、わかりません。
そして、先生が何か言いました。
でも、叩かれたその痛みと急に耳がよく聞こえなくなって、なんて言っていたのかわかりませんでした。
その後、本当に何が起きたのかよくわかりませんでした。
多分、教頭先生が教室に入って来て、私を叩いた先生をどこかへ連れて行ったと思います。
私は別の先生が来て保健室に連れて行かれたけど、痛いし、変な音がずっと聞こえていて気持ちが悪くて、すぐに病院に行きました。
その次の日、私は赤い服が着たかったのに、黒い服を着せられて、学校へ行ったら、私を叩いた先生も隣の席の長谷川さんも学校にはいませんでした。
花がたくさん飾ってある白と黒の大きな部屋に連れて行かれて、一人一本ずつ白いお花を持って、クラスみんなで長谷川さんの写真が飾ってある四角い箱の前に並びました。
その時、箱の中で、眠っている長谷川さんを見て、初めて私は知りました。
本当に長谷川さんは、死んでいたんです。
あの日、私を叩いたあの先生が言った通り、長谷川さんは死んでいたんです。
そして、大人たちがコソコソと話していたのを私は聞こえる方の耳で確かに聞いたのです。
長谷川さんが死んでいたのは、学校のうさぎ小屋の中だったと。
長谷川さんは、うさぎに殺されたのだと——————
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