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修行中の若い僧が、行方不明になった。
正確には、逃げ出したのだ。
親に言われて仕方がなく仏門に入った彼は、ときたま修行をサボっていた。
どうやって、この退屈な日常から逃げ出そうか……と、そんなことばかり考えていた時、この寺で怨霊が取り憑いているという曰く付きの絵の封印の儀式があると知る。
それは面白そうだと、興味本位で儀式を見ていたのだが————彼は、その絵のあまりの美しさに惹かれてしまう。
こんなにも美しい絵に、怨霊なんて取り憑いているはずがないと。
その日から毎晩、彼は密かに部屋を抜け出して倉庫に忍び込み、絵を見つめていた。
そして、ふと気づくのだ。
この寺の倉庫には、売れば金になるものが多くあることに。
彼はあの美しい絵と、売れそうなものをいくつか持って、寺から逃げ出した。
「かわいそうに……こんな札なんて貼られてしまって————俺が綺麗に剥がしてやるからな」
それから数日後、彼は友人宅のマンションに居候していたが、運悪く強盗に入られ命を落としてしまう。
金品とともに、あの絵も盗まれていた。
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「それじゃぁ、あの絵は今どこにあるのか、誰もわからないということですか?」
友野が住職に尋ねると、悔しそうに頷いた。
「はい、恥ずかしながら…………せっかく、あの絵の封印にご協力していただいたのに、申し訳ない」
そうなると、渚の友人が目撃した女が、花太夫でないとは言い切れない。
東に聞いてみたが、今のところ、変死体も銀一匁の藩札も見つかっていないそうだ。
「どこにあるかわからない……となると、また、誰かが札を剥がしてしまったら————出て来てしまいますね」
それが何ヶ月先か、何年先のことかわからない。
だが、確実にまた虎一匁事件は起こるだろう。
花太夫は確かに美しい。
男を魅了する、美しい遊女の絵だ。
まるで、作者の理想を描いたような————美しい
酔いが回り、暴れている虎を狙って、買いに来る。
行方が分からないのであれば、これ以上どうしようもないと友野は寺を後にする。
その帰り道、渚から届いたメッセージに、友野は呆れて、深いため息を吐いた。
「ナギちゃん言葉遊びは、ほどほどにね」
————
あの
あの
そうしましょう
————
— 【虎一匁】終 —
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