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ドッペルゲンガーの調査を保留にしている間、友野は数年ぶりに勘当された実家を訪れていた。
「なんだい、お前、この家の敷居を二度とまたぐなと言っただろうに……!!」
「いや、その……ちょっとどうしても、ばあちゃんに聞きたいことがあって」
「あたしにはこんな親不孝な孫はいないよ!」
友野の祖母は、絶対に家に入れないと言って、玄関から先へは通してくれそうもない。
自分のやってきたことを思えば、当然のことだと思いながら、それでも友野は食い下がらなかった。
「守護霊がいない妊婦を見たんだ」
友野がそういうと、祖母は目を見開いて言った。
「背後霊は……?」
「背後霊も何も憑いていない……とりあえず式神をつけておいたけど、このままだと危ないだろう?」
祖母は状況を察したようで、今度は目を細めて眉間にしわを寄せる。
「……そう。で、何が聞きたい?」
「守護霊が離れる理由————可能性としては何がある?」
「妊婦なのに、守護霊がいないなら、答えは二つ」
「……二つ?」
「守護霊の役目を終えて、その胎児に転生することになったか……守護霊に守る価値がないと見限られたかだ」
————この話を聞いていたからこそ、友野は三好に憑いている二人の霊を見て察しがついた。
守護霊がいなかったせいで、三好がどんな性格で何を考えているのかよくわかっていなかったが……
人を殺して、平気な顔をしているような女だ。
おそらく、あの口ぶりからして全て向井の両親が色々ともみ消したのだろう。
警察に圧力をかけるような人間だ。
どういう方法をとったかまでは知らないし、知りたくもないと思った。
三好から渡されたこの報酬には、口止め料も含まれているのだ。
「そういえば、三好さん、黒牛夢の話はもう聞いたんだろうか?」
「さぁ……聞いたんじゃないですか? 亜希子さん————三好さんのお母様は、安定期に入ってから話すって言ってましたし」
「そう……」
いなくなった守護霊の代わりに守らせていた式神が消えて、三好に殺された女たちの霊がどう影響するか……友野は想像するのをやめた。
◾️ ◾️ ◾️
私は今、すごく幸せです。
もうなんの心配もなくなりましたから。
あの人が死んでしまった時は、本当に、どうしようかと思いました。
今までの努力が水の泡じゃないかって……
これじゃぁ、なんのために教職なんてお堅い職業に就いたのか……
なんのために、本命の彼女がいることを隠していたあの人を私のものにしたのか……
まぁ、その彼女が同僚の田村先生だったのは予想外でしたけど……
でも、もう大丈夫です。
田村先生も、私と同じ顔をした古島優羽もいなくなって、私を不安にさせるすべての元凶が消えたんですから。
あの人の両親のおかげで、なんの心配もせずに暮らすことができます。
兄が海外へ行ってしまったせいで、私に執着していた母の監視下からも離れられましたし……こんなにも優雅な暮らしができるんですから。
え、どうして私に恨みのない古島優羽もかって?
だって、あの女、ただ顔が似ているだけで馴れ馴れしいんですよ。
しまいにはたまに入れ替わってみないかなんて、言ってきたんです。
まぁ、それはさすがに冗談でしたけどね。
私の今の生活を羨ましがって……
私と同じ顔で、とても下品に笑ったんです。
それに、怖くないですか?
もう一人、自分と同じ顔をした人間がいるなんて。
しかも、生年月日も血液型も同じだなんて……
気味が悪いじゃないですか。
思い出しただけで、胎教に悪いですよ。
何度か悪夢でうなされたこともあったんです。
高いところから落ちたり、車に轢かれたり、首を絞められれたりもしました……
彼女たちの存在は私にとってかなりのストレスだったんでしょうね。
最近は別の夢を見るようになりました。
きっと、吉夢ってやつですよ。
黒い牛が出てくる、とても穏やかな夢です。
— 【黒牛夢】終 —
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