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時は少し遡り、向井の初七日の法要が終わった頃、三好の自宅に向井の両親が訪ねた来た。
「息子の子供を妊娠していると聞いたわ……」
病室の前で、三好のことを「人殺し」と罵っていた時とは打って変わって、義母はお上品に白いハンカチで涙を拭きながら、謝罪をする。
あの時は、大事な息子が傷つけられて、とても動揺していたのだと……申し訳なかったと。
三好に手を上げようとしていた義父もそうだ。
頭を下げて、必死に言うのだ。
「孫を……我が家の跡取りに————今後の君の生活も、すべて保証する」と。
向井は一人息子で、代々国会議員である由緒正しい名家の跡取りだったらしい。
曽祖父は大臣を務めた経験もあるそうで、この義父も、近々出馬するそうだ。
向井は亡くなってしまったが、向井と同じ環境で孫を育てたいと……
「あの子の子供だもの、一緒に、大切に育てましょう? 育児に最高の環境を用意するわ」
「頼む……どうか、向井家に入って欲しい」
亜希子は反対していたが、三好は頷いた。
愛する人が育ってきた家で、我が子を育てることができるなんて————と、涙を浮かべながら……
「ありがとうございます。私、この子を一人で育てるのは……不安だったんです。でも、ノブくん————信明さんが育ったお家で育てることができるなら、いつも信明さんをそばに感じることができて、心強いです」
こうして、三好は向井の家で暮らすことになった。
向井の家は、名家なだけあってとても大きくて、広くて、豪華な家で……手厚い歓迎を受け、名医として有名な産婦人科医と看護師もいて、何一つ不自由なく……
三好はまるでお姫様になったような気分だった。
そして、どこでその話を聞きつけたのか、三好の前に現れた人物が一人。
デパートでベビー用品を見ていた時、突然声をかけられる。
「うわ……マジで私そっくりじゃん」
古島優羽だ。
「あなた……まさか、古島さん?」
「あ、私のこと知ってるの? って、そうよね、警察から聞いてるか」
同じ顔の二人が、初めて出会った瞬間だった。
古島は驚きながらも、嬉しそうに三好に近づき、ハグをする。
「ごめんね……知らなかったとはいえ、あんたの大事な人に……私————」
「…………」
自分と全く同じ顔をした三好に、古島はシンパシーを感じ、初めて会ったとは思えないと、謝りたいのか、喜びたいのかよくわからない感情が渦巻いているようだ。
「一度会ってみたかったんだ。こんなに似てるなんて……」
「……そう……ですね。すごく似てます。実際に見ると……怖いくらい」
驚いて固まっていた三好も、笑った。
もし、自分に双子の姉妹がいたら、こんな感じだったのだろうかと思いながら……
「こうして会えたのも、何かの縁————っていうか、偶然がすぎるけど……どこかで話さない?」
古島の誘いに、三好は乗った。
* * *
表通りのカフェで、よく似た二人は向かい合っていた。
片方がよく喋り、もう片方が相槌を打っている。
気づいた客は仲のいい双子かなと思いながら、各々、会話を楽しんだり、仕事をしたり。
「まさか私も警察に捕まるようなヤバいことやらされてるなんて、知らなくてさぁ……すっかり騙されちゃったのよ」
古島がしたことが罪になるかどうかは、裁判の結果によるらしくまだはっきりしていない。
田村は留置所に入れられているが、古島は逃亡のおそれはないとして、退院と同時に釈放されたそうだ。
「————それでさぁ、結局振り込まれてなかったわけ。前金で半分もらってたんだけど、残りがね……こっちはちゃんと仕事したのにさぁ。警察が来たのがバイト先でね……仕事中に捕まっちゃったから、店長にもバレてクビになっちゃったし……マジで困ってるんだよね」
「そうなんですか……それは大変ですね」
「そうなの。それで、あんたさ、あの向井議員の家にいるんでしょ?」
古島は三好と同じ顔で楽しそうに笑っていたが、向井議員の家と言った瞬間、それはとても卑しいものに変わる。
「私たち、ここまで同じなのはもう、双子の姉妹みたいなもんでしょ? ——っていうか、分身? みたいな?」
ノンカフェインの紅茶が入ったのティーカップに口をつけた三好は、ちらりと目を動かして、卑しく笑う自分と同じ顔の古島も見つめる。
「それでね、ほら、ちょっといいからさ……————」
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