2—5
* * *
友野たちが病院へ到着した頃には、三好は病院から追い出された後だった。
病室の中に入っていない三好が、絞殺などできるはずがない。
アリバイは証明されているのだが、大事な息子を亡くした両親たちが受け入れなかった。
病院の前で泣き崩れていた三好に付き添い、渚はとりあえず一緒に自宅へ向かうためタクシーへ乗り込み、友野はまだその場に残っているであろう向井の霊と話をするために南川と一緒に病室へ向かう。
「ん……?」
エレベーターを待っている間、友野は妙な気配を感じて天井を見上げると、最近亡くなった高齢の老人患者の霊が天井に張り付いて、何かブツブツ言っている。
目が合ってしまうと話しかけられるのが面倒なため、すぐに視線を逸らした。
「……どうしました? 友野先生」
「いや、なんでもないです。あれは関係ない……」
エレベーターが到着し、降りて来た小柄の女性とすれ違う。
そして、エレベーターに乗った瞬間、先ほどのあの霊とは違うなにか、嫌な空気を感じ取った。
「え……?」
友野が振り返った時には、もうエレベーターのドアは閉じていき、女性の後ろ姿しか見えなかった。
後ろで一本に束ねた長い髪が、揺れているのだけが見えた。
* * *
「え……向井くんが?」
リビングで渚から事件のことを聞いた三好の母・
慌てて、テーブルの上をふきんで拭きながら、渚に話の続きを尋ねる。
「おかしいと思っていたの。いつもならとっくに帰ってくる時間なのに、あの子が帰ってこないから……電話も通じなかったし……警察署にいたのね」
流石に、ドッペルゲンガーのことは言わなかった。
普通の人間には信じられる話ではないことくらい、渚はわかっている。
「そうなんです。犯人が女性だったってことで、疑われはしましたが、完璧なアリバイがあるので容疑は晴れたんですけど……————やっぱり、恋人がこんな形で亡くなってしまうなんて——……ショック、ですよね?」
亜希子も向井はいい人だと思っていたようで、このまま二人がうまく行けばいいなと願っていた。
まさか、そんな人が殺されてしまうなんて……それも、駅のホームから突き落とされて、奇跡的に助かった命だったというのに。
向井は誰かから相当恨まれていたのだろう——……
帰って来た娘の姿を見てとても驚いたし、話を聞いてショックではある。
だが、亜希子は大切な人を失って、傷ついた娘を支えなければと、自分が泣いてはいられないと気丈に振る舞う。
「ええ、そうね……二人の結婚は秒読みだと思っていたから——……」
夫を病気で亡くしている亜希子は、愛する人を失う悲しさを誰よりも理解していた。
隣の部屋で横になっている娘の悲しそうな後ろ姿を思い出して、胸が締め付けられ、喉元が熱くなる。
切なくて苦しくて、涙が出そうだった。
「お腹に赤ちゃんもいるのに、大変ですよね……」
しかし、渚のその一言で一気に血の気が引いて、テーブルを拭いていた手が止まる。
「……赤ちゃん? 妊娠しているの?」
「え? ええ、昨日、病院で確認済みです。妊娠四週目? くらいだったはずですよ、聞いてませんか?」
当然、亜希子にこのことを話しているだろうと思っていた渚は、小首をかしげる。
もし自分が妊娠しているとわかったら、真っ先に家族に言うのにどうして話していないのか————と。
「……めは——……?」
「え?」
亜希子はぐっと、ふきんを握りしめる。
そして、真っ青な顔で渚に尋ねた。
「夢は……夢は見たと言っていなかった?」
「ゆ、夢?」
突然のことに戸惑う渚。
しかし、亜希子は渚の肩を揺すって早く答えろと急かす。
「夢を見たとは言っていないでしょう!? ねぇ、あの夢を、見てはいないんでしょう!?」
「お、落ち着いてください! 夢って、なんのことです? どんな夢ですか?」
亜希子は恐怖に震えながら言った。
「
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