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 授業は通常通り行われた。

 ドッペルゲンガーが現れた時は、パニックを起こしていた児童達も、数日立ってだいぶ落ち着いたようだ。

 いまだに、教壇の上に立つ三好を見て、もう一度二人いるのを見てやろうと目を凝らしている児童もいるだろうが……あれは気のせいであったということにとりあえずはなっている。

 だがそれは、たった一度しか起こっていない現象だからこそ。

 もう一度同じことが起きたら、今度こそごまかしきれないだろう……

 それに、昨日病院の待合室で声をかけてきた中年女性のこともある。


 先週、娘の診療が終わるのを待っていた際に待合室で三好そっくりの女性と会話したというのだ。

 今まで、似ている人を見たという話は聞いたことがあったが、実際に会話した人物と出会ったのは初めてだった。


 別人であることを伝えると、やはりよく似ていると言われてしまい、声も、話し方も似ていると……——

 一体どんな会話を交わしたのか……そこまでは怖くて聞くことはできなかった三好は、病院を出てからすぐに友野に連絡し、早急に対処して欲しいと泣きながら伝えたのだ。


 一体自分の身に何が起きているのか……

 本当にドッペルゲンガーだとしたら、どうすればいいのか……


 三好は不安を抱えたまま、友野たちが調査に来るのを待つしかない。

 そうして、昼休憩が終わり、午後の授業が終わったその直後だった。


「あの、三好先生……」

「教頭先生? どうかしました?」


 職員室へ戻ろうと、教室を出て廊下を歩いていた三好は教頭に引き止められる。

 薄くなった頭皮から滝のように流れる汗を何度もハンカチで拭き、不安そうな顔で周りを気にしながら……


「三好先生、あなたにお客さんが来てるんですが……」

「お客さん? あぁ、友野さんですか?」


 来ると言っていた時間よりは少し早かったが、早いに越したことはない。

 三好は一刻も早く、教室を見てもらいたかった。

 友野が来ることは、事前に伝えてある。

 ドッペルゲンガーについて調べる……なんて言っても許可は下りないので、地方紙の取材ということになってはいるが……


「いや、その……友野さんって方じゃなくて————」

「え? じゃぁ、一体、誰が?」

「とにかく、一旦、一緒に校長室へ来てくれるかな? これが一体どういうことか……こちらが聞きたいくらいなんだ」

「え?」


 教頭に言われた通り三好が校長室へ行くと、そこにはスーツの男が二人いた。

 一人は、人を何人か殺したんじゃないかと疑いたくなるような強面で、もう一人は若くて気弱そうな男だ。

 三好には全くこの二人に見覚えがない上、普段は温厚で優しい校長が怒っているようで、三好を睨んでいる。

 一体何が起こっているのか、三好はこの状況がやはり理解できない。


「えーと、どちら様ですか?」


 スーツの男は二人とも、懐から手帳を取り出して顔写真が見えるように開く。


「こういうものです。三好さん、突然で申し訳ないのですが、署までご同行願えますか?」


 男たちが見せたのは、刑事ドラマでしか実際には見たことがない警察手帳だった。


「え、えーと……いったい、どういうことですか? どうして、私が……?」


 三好は任意同行を求められたのだ。

 殺人未遂の容疑者として——————

 もちろん、三好には全く見に覚えのないことだ。


「あなたが、駅のホームで男性を突き落としたという目撃証言が取れているんです。詳しくは署の方で伺いますので……」


 そこで初めて、三好は理解する。


「ち……違う。違う違う違う違う!! 私じゃない……私じゃないんです!!!」


 自分のドッペルゲンガーが、人を殺そうとしたのだと————


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