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「————やはりそうでしたか。では明日、学校の方にお伺いしますね……」
友野が三好からの電話を切ると、渚は物珍しそうな表情で水晶の横に置いてあった
何も書かれていない白い紙を、折って作られている。
占いの知識は全くないくせに、タロットカードや水晶などどちらかというと西洋的な占い師のイメージの小道具が揃っているこの占いの館に、こんな日本的なものがあるなんて珍しいことだった。
「先生、なんだか今回はやけに大人しく依頼を受けてませんか? いつもならこんなに積極的に動いたりしませんよね? 何かあるんですか?」
「何かって……何かありそうだから連れてきたくせに……」
友野は渚の手から奴さんを奪い返すと、スラックスのポケットの中に押し込んだ。
「いないんだよ、守護霊が……」
「え?」
「あの三好さん……どういうわけか守護霊が誰もついてない」
通常であれば、友野の目には守護霊……いない場合は背後霊(悪霊とか精霊などなど場合による)が見えるのだが、三好には一切のそういった類のものが憑いていなかった。
だからこそ、いつものように一旦断るけど、結局引き受けるという一連の流れなんてやっている暇がないのだ。
「でも、先生、三好さんが妊娠しているの見抜いていたじゃないですか。守護霊さんに聞いたんじゃないんですか? いつものインチキ占いの手法で……」
「インチキっていうのはやめてくれるかな? 守護霊が見えるって言うより、統計学を基にしてる占いの方がまだ信用されるからそうしてるだけであって——……って、そんなことは今どうでもいい。とにかく、あの状況はかなり危険だと思う」
守護霊はいなかったが、三好の腹のあたりに妊婦特有の光が見えたのだ。
しかし、大抵の場合、妊婦を守るように守護霊がきちんと見守っているもの……新たな命が生まれている状況で、守護霊も背後霊も何もいないというのは余計に珍しい。
「何らかの理由で、守護霊が離れているか……それか消されたかのどっちかだと思う————それに加えて、あのドッペルゲンガーの話だ。何か起きていることは間違いないけど……それを知るためにはそのドッペルゲンガーが現れた場所を見て見ないと……三好さんの体には手がかりが何もない状態だからね」
「なるほど……それで学校へ行くんですね! 何時に行くんですか?」
「十四時に占いの予約が一つ入ってるから、それが終わってからかな……」
「了解しました! じゃあ、私も明日はその時間授業ないので、一緒にいきますね!」
渚はニコニコと楽しそうにそう言った。
危険な状態かもしれないという話は全く聞いていなかったようで、ドッペルゲンガーを見ることができるのではないかと期待しているのだ。
友野について回れば、渚が大好きなオカルトや都市伝説と遭遇することができる。
もうかつてのように見ることはできないけれど、それが楽しみで仕方がないようだ。
そうして、友野と渚は明日、放課後の小学校へ調査の為に向かうことに。
しかし、事件はもう、この時すでに起こっていた。
□ □ □
駅のホームで、電車を待つ人々。
先頭に立っていたスーツの男は、スマートフォンでプロポーズについて調べていた。
指輪は何がいいか、どんな言葉で、どんな場所で、どんなシュチュエーションで渡そうか……
二人の将来について期待に胸を膨らませながらいたところで、不意に後ろから誰かに背中を押される。
「えっ……」
気づいた時には、すでにバランスを崩していて……
電車が間近に迫る中、体が前へ落ちる。
「きゃああああああああああああああああ!!!」
「人が落ちたぞ!!!」
悲鳴が上がった頃には、すでに電車は通過していた。
彼の背中を押した人物は、騒ぎに乗じて姿を消すが、目撃者が数人いた。
そして彼らは口々に言った。
「犯人は、女だった」と————
□ □ □
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