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 ◾️ ◾️ ◾️



「ドッペルゲンガー! これって、ドッペルゲンガーですよね!?」


 日輪ひのわなぎさは、瞳をキラキラと輝かせながらそう言って、話の腰を折った。

 また勝手に依頼人を占いの館に招き入れて、依頼内容は直接話した方がいいと言っておきながら、途中で耐えきれなくなったのだ。


「あのねぇ、ナギちゃん……まだこちらの方が話してる途中でしょ? えーと、何さんでしたっけ?」

「み……三好です」

「そうそう、三好さんね。それで、児童がそう言った後は?」


 この占いの館の主人、友野ともの晴太せいたは、大好きなオカルト系の話に荒ぶっている渚の口を手で塞いで黙らせ、三好に話の続きをどうぞと促した。


「え、えーと、それで、振り返ったら児童たちが私の右隣を指差していたので、指されていたところを私も見たんです。でも、私にはその姿がさっぱり見えなくて……児童は、私が振り返ったらすぐにスッと消えてしまったと言うんです——」

「なるほど……それじゃぁ、自分で自分の姿を直接見たわけではないと……」

「そうなりますね。でも、多くの児童が同時に見ていますし、私もそのドッペルゲンガーなんじゃないかと、渚さんに相談したんです。これまで目撃されていた私に似ている人も、実はそのドッペルゲンガーなんじゃないかと——」


 友野は眉間にしわを寄せて、うーんと唸りながら三好の後方を見つめる。

 普段なら、渚が勝手に受けて来た依頼を嫌だと言ってゴネるところなのだが、今回の友野は珍しく積極的だ。

 ここまで渚に文句も言わずにいるのは珍しい。


「…………それで、ご依頼は本当にドッペルゲンガーかどうか調べるということですか?」

「ええ、もし本当にドッペルゲンガーだとうなら、もう現れないようにして欲しいんです。私の知らないところで、私の分身がおかしな行動をとっているなんて……怖いじゃないですか」


 友野は訝しげな表情で、一度、大きくため息をついた。


「わかりました。では、その前に一度、病院へ行ってください」

「え……病院、ですか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 先生!」


 友野のまさかの発言に、抵抗せず大人しく口を塞がれていた渚が反論する。


「ドッペルゲンガーは確かに医学的には腫瘍などによる脳機能の障害と言われています! でも、それは自分自身にしか見えない場合です!! この三好さんの場合は、第三者……それも、自分自身は見えないんですよ!? だからこそ、先生の出番だと思ってここへ連れてきたのに!!」


 三好は渚の早口でまくし立てるような口調に驚いて、目を丸くして固まった。

 渚にオカルトや都市伝説にここまでの熱量を持っている……いわゆるオタク気質な部分があるなんて、普段のあざとかわいい見た目からは想像できなかったのだろう。


「ナギちゃん、そんなことは俺も知ってるよ。俺が勧めているのは産婦人科の方。三好さん、あなた妊娠してますよ……多分」

「えっ!?」



 この後、友野に言われた通り三好が病院へ行くと妊娠四週目だということが発覚した。

 友野がこのことに気がつかなければ、もう一週間後に受診していたかもしれない。

 もちろん、結婚を前提に付き合っている恋人との間に出来た子供である。


 こうなると、ますます三好は今自分の身に起きている不可解な現象を早くどうにかしなければと焦り始めた。

 妊娠もしたことだし、今のままなら結婚は確実だろう。

 しかし、もし、本当にドッペルゲンガーが存在し、三好の知らないところでまたホストクラブやら他の全然知らない男といるところを目撃されたら……

 浮気を疑われたりするかもしれない。

 ネガティブな想像ばかりが膨らんで不安が募り、待合室で会計を待っている間、三好は椅子の上で震えていた。


「あら、あなた——」

「……え?」


 突然声をかけられ、顔を上げれば全く見覚えのない中年女性。


「————先週もここにいたわよね? 私のこと覚えてる?」



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