3—5

 ▽ ▽ ▽


 トラブルはあったものの、その日の収録はなんとか終わった。

 だが、収録後に連絡が入り、救急車で運ばれて行った男性タレントは、残念なことに未だ昏睡状態だという。

 だれが警察に通報したのか、直前まで話していたのは渚であったため、収録後に控え室で事情聴取をされることになった。

 しかし、起きたことを説明しても、話を聞きにきた刑事がなかなか引き下がらない。

 怪奇現象が起きたと言って、信じてもらえるわけがない。

 友野が東に連絡し、渚はしつこい刑事からやっと解放された。


「もう! これだから警察は嫌いなんですよ!!」

「まぁまぁ……ナギちゃん。確かにあの刑事はしつこかったけど、あれも立派な仕事だからね。怪奇現象に理解がある東刑事たちの方が珍しいんだから」


 頬を膨らませながらプンプン怒っている渚をなだめ、テレビ局から出ると黒いセダンが目の前を通り過ぎた。

 今日来ていた芸能人の車だろうかと、友野は思わず目で追う。


「……ひどいな」


 運転している人物は見えなかったが、その車は異彩を放っている。


「どうしました? 先生? タクシー来てますよ?」


 急に立ち止まって、通り過ぎて行った方をじっと見つめる友野に渚は声をかけるが、友野は眉間にシワを寄せ、呟いた。


「あの車……ひき逃げでもしたのか?」

「えっ?」


 黒い車に、霊が取り憑いている。

 ニヤリと笑っている子供の霊が、友野には見えたのだ。


 その後、タクシーに乗った友野たちが黒い車が通ったのと同じ道を通ると……

 大きな衝突音とクラクションが響き渡り、あの黒い車は縁石に乗り上げ横転していた。

 おそらく対向車線のトラックにぶつかりそうになったのを避けたが、スピードを出しすぎたのだろう。


「うわぁ……すごい事故ですね」


 渚が目の前で起きた事故に驚いていると、友野は眉間にしわを寄せる。


「あの子供を轢いた報いだよ……」


 大笑いしながら、車に憑いていた子供の霊はどこかへ消えてしまった。

 パトカーと救急車が到着する前に通り過ぎた友野は、事故を起こした運転手がどうなったのか知らない。


 しかし、後日ニュースで報道される。

 あの運転手が、事故の二週間前に幼い子供を轢いて、逃げていた犯人であったことが————



 * * *



「龍雲斎?」

「ええ、霊能力者です。一瞬だったので、判断できなかったので、本当に霊能力があるのかはわかりませんが……あの人に、あの子の霊が憑いています」


 翌日、占いの館に怪奇事件の進捗を聞きに来た東と南川に友野はホワイトボードの写真を指差してそう告げた。


「おい、これ……どうしてこの写真!!」

「す、すみません……その、渚ちゃんに頼まれて」


 捜査情報の流出に気がついて、東は南川を睨みつけ、眉間にしわを寄せる。


「まぁ、とにかく……! この怪奇事件と龍雲斎が関わっているかどうかは不明ですが、身元不明で進まないそちらの殺人事件にはこれで何か進展があるでしょう? 龍雲斎を調べてみてください。それと……あれは持って来てもらえました?」

「あ、あぁ……南川」

「は、はい!」


 友野は南川から一台スマホを預かった。

 一夜明けて、四人目の目撃者となった男性タレントは、やはり鼠を見た話をしてひどく怯えていたらしいので、マネージャーに調査のためと言って、友野はこの二人の刑事に借りて来させたのだ。


 これで、目撃者は四人。

 この四人に共通する動画があれば、そこから何かヒントが得られるだろう。


 もしも動画が原因だとしたら、雨の日の怪奇事件はきっと他にも起きる。

 その前に、原因を突き止めなければ……————


 それが昨夜の事故のように、霊によるものなのであれば早いうちに突き止めなければならない。

 そのうちあの子供の霊のように、人間に危害を加えることになるだろう。


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