エピソード6:一軒家

 朝日が昇り、三人は移動の準備を整える。

「どんなお家なのか気になる~」

 優良が早く行きたそうにしていた。

「まだ全部掃除していない所、後で手伝って欲しいかも」

 火の後始末をしながら沙夜がそう言って優良が喜んで了承した。

『もう、寒いから移動しようぜ』

 セツが先に進み始めると、それに続くようにして二人も歩み始めた。

 森の中をしばらく進むと目の前には一人分の洞窟のような抜け道があった。

「ここを通るの?」

 優良が心配そうに沙夜に聞いた。

「そんなに長くないから大丈夫だよ」

 慣れたような感覚で沙夜が先に入って行く。

 それに続いてセツも追いかけるように跳んでいった。

 頭を少し下げて屈みながら入った。

 目の先には向こう側の光が差し込んでいた。

 三分程度歩くと、狭い洞窟を抜けることができた。

 目の前には木が数本生えていて、その後ろには海が見えていた。

 そして、左側には木造の建築物が建っていた。

 優良は家をずっと眺めていた。

 瞳の奥には喜びと嬉しさがあった。

「どこから入るの?」

 早く入りたくてしょうがないようであった。

「ここの反対側が入口だよ」

 沙夜は先走る姉を落ち着かせながら歩く。

 木のエリアを出るときれいな浜辺が広がっていた。

「浜辺の近くに家があるからすぐに魚とか採りにいけるよ」

 沙夜がこの家のいい所を自慢げに言った。

「これで海風に凍えることなく、海を眺められるのね……」

 優良の皮肉っぽい言い方は初日の苦労を想像させる。

 家の角を曲がると屋根付きの玄関が見えてきた。

「ここが入口ね!」

 優良がドアの前まで駆けていった。

 二人が後を追いかける。

「開けるね?」

 キラキラした眼差しで優良は扉に手をかける。

 沙夜の返事を待たずに扉を開けた。

 優良は内装を見た瞬間、少し驚いた。

 玄関は広めに広がっており、木材を敷き詰めた空間になっていた。

 装飾はほとんどなく、シンプルなデザインであった。

「この家建ててから数回しか住んでいないみたいね」

 優良は清潔な玄関をみて驚いた。

「私も最初はびっくりしたんだよね、てっきり誰かいるかと思って玄関から呼んだんだけど誰もいないみたいだった」

 優良が関心そうに周りを眺めている隣で沙夜がボソッと言った。

 セツがそんな二人を差し押さえて家に入っていく。

「ちょっと、なに先に行っているのよ!」

 セツが優良の方を見て耳をハテナマークにする。

『なにって暖炉にいくためだが?』

 疑問に思っているセツを沙夜が抱きかかえる。

「たぶん、土足で入っているから気になっているだけだよ」

「掃除は得意じゃないけど、きれい好きではあるからね」

 優良が少し不服そうな表情を浮かべる。

 沙夜はセツを抱えながら小走りで家の奥まで進んで行った。

 一人になった優良はゆっくりと家の床へと足を踏み入れる。

 目の前のドアの先には一体何があるんだろうか?

 横を振り向くとさっきセツを抱えていた沙夜がこちらにやってきた。

「タオルで手足拭いておいたから、これでいいでしょ?」

 沙夜はセツの手足を見せながら言った。

『これ、毎回外に出るたびにやるのか?』

 セツが不満そうに鼻をピクピクさせる。

「家庭にもよるんだろうけど、私たちの家はペットも土足厳禁だったよね?」

 そう言って沙夜が優良に聞く。

「そうね、お母さんが床を汚して欲しくなかったからね」

「その習慣からか、私も気になるようになったかも」

「普通、ペットは自分で手足を掃除しないからやってあげないといけなったけど、セツは会話できるし自分で泥を落としてくれればいいかな~」

 優良はセツに提案した。

 そこに沙夜が笑顔で言った。

「そうだね。セツ専用の玄関マットを置いておこう!」

 新生活最初の決まり事

 家に入る時は手足を綺麗に(セツ専用の)

 そう決まると

 セツは早く降ろして欲しそうに足をばたつかせた。

 沙夜はセツを降ろし、うさぎは家の奥へと跳んでいった。

「この目の前のドアの奥には何があるの?」

 優良が沙夜に問いかける。

「開けてみてよ」

 沙夜が笑みを浮かべながら答える。

 言われてドアを開けてみると、左の壁沿いに長いテーブルが一枚あるだけだった。

「テーブルがあるだけね」

 優良がちょっとだけ驚く。

「掃除した時は楽だったよ」

 沙夜なりのジョークで二人は笑った。

「じゃ、この後ろは?」

 優良は斜め後ろにあったドアに手をかけて開けようとするが開かなかった。

「あれ?」

 優良が不思議そうにドアノブを見つめ、何回かドアを引いたり押したりしたが開かなかった。

「そこのドアなんだけど、全然開かなかったんだよね。」

「鍵穴あるし、鍵がかかっているのかも」

「きっとどこかに鍵があると思うから、それも一緒に手伝ってほしくて……」

 沙夜は困ったような表情で頼んだ。

「いいよ! あとで一緒に探そう」

 快く同意すると後ろを振り向き、二つのドアに注目する。

「どっち開ける?」

 こんどは沙夜に聞いてみた。

「うーん、私は順番通り右かな?」

「じゃ、右のドア開けるね」

 扉の先は真っ暗でよく見えなかった。

「電気のスイッチはどこ?」

 優良は手探りをしながら聞いた。

「右の壁沿いのちょっと先にあるんだけど、つかなかったんだよね。」

「よく考えれば、無人島に電気なんて通っているはずないもんね」

 沙夜が頑張って探している優良の方を見ながら言った。

「もしかしたら、私だったらつくかもしれないよ?」

 優良が冗談交じりに沙夜をからかって、スイッチを押すと

 上の蛍光灯が何度かパチパチと音を鳴らしながら薄暗くついた。

「「えっ?!」」

 あり得るはずのない現象に二人は驚いていた。

 数秒間、沈黙が続いた。

「たっ、たぶん。電灯の調子が悪かっただけだよ~」

 優良は動揺を隠せないままおびえながら言った。

「私の時はソーラーパネルの発電ができていなかったじゃないかな?」

「この家ってソーラーパネルついていたっけ?」

 沙夜のフォローに対してつかさず疑問を抱く。

 二人は急いで外に出て屋根を確認した。

 よく見ると、木の茂みに隠れながらもソーラーパネルらしきものがそこにはあった。

「よかった~、幽霊とかじゃなくて」

 優良は安心したように一息ついた。

「さすがに、お化けはないと思うよ」

 沙夜はまだ驚きの表情が消えないながらも安心したように言った。

「そう言う割には沙夜も怖がっていたじゃない?」

 つかさず優良は言い返した。

 現時点では発電能力に支障があるもののある程度であれば使えることが判明した。

 電気はたくさん使いすぎないようにしよう。

「さっきの部屋に何があるか確かめに戻ろうよ」

 そう沙夜が提案し、二人はさっきの場所へと戻った。

 電気のついた部屋には大きな棚があり、たくさんの箱や段ボールが積まれていた。

「探せば何か使えそうなものとかありそうかも」

「ついでに開かない扉の鍵も見つかるといいな」

 まるで宝物を見つけるかのような感覚で優良は楽しみにしていた。

「ここの片付けもやらないと……」

 片付けの後処理に追われることを知っている沙夜は仕事が増える前に全力で食い止める。

「あっ、そういえばまだ隣の部屋見てなかったから。そっちを見よう」

 優良の段ボールを開けそうになった手が止まる。

「この片付けはいいの?」

「全部やるのは時間がかかりそうだし、一通り家を見てから一緒にやろうよ」

 沙夜は次の部屋の方を指して彼女を誘導する。

 優良は仕方なくそこの電気を消し、隣の部屋を開けた。

 その部屋はオフィスデスクとオフィスチェア、ベッドが置いてあった。

「勉強部屋って感じが凄いわね」

「よっぽど何かに集中したかったのかしら?」

 無人島で長時間自由な時間を過ごしていると、逆に制限された時間が恋しくなるのかもしれないと優良は思った。

「実は反対側に寝室があるんだよね」

「そうなの?」

 気になった優良は真っ先に向かった。

 その部屋は大きいベッドが一つあり、入口の横にクローゼットがあるだけだった。

「本当ね。二つあるってことは二人住んでいたのかしら?」

 姉妹はこの家の全貌を把握していない。

 この家は誰が住んでいたのか?

 どうやってこの家を建てたのか?

 いろいろ謎が深まるばかり。

 そんな疑問の渦の間に一つの大きな物音が現実へと引き戻す。

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