エピソード3:森へ探索

 彼女は山の中をかき分け周りを見ながら、ちょっとずつ進んでいた。

 何かを探しているかのような眼差しであった。

「あ~、最近本当についてないな~」

「せめて、何か食べれそうな木の実があれば」

 彼女の体力はすでに限界を迎えていた。

「朝からこんなことになるなんて、本当に有り得ない」

 早朝からびっくりすることで未だに理解が追いつかない。

「そもそも、なんでウサギと会話できるの? 私…」

 テレパシーという存在がこの世にあるとはとても考えにくい。

 ウサギが人間の言葉を話すのもかなり怪しい。

 そんなことを考えながら、獣道を歩いていると赤くて丸い果実を見つける。

「これって、リンゴかな?」

 いろんな角度から確認をし、食べてみる。

「うっ、酸っぱい……」

 少し腐りかけではあったがどうにか食べられそうであった。

 どうやらこの辺りはリンゴの木が生えているらしい。

 ここまでの道のりを手持ちの手帳に書き込み、採りに行けるようにした。

 道のりが分かるように、通った木の幹にナイフの切り込みを入れてあるが、よく見ないと分からなかった。

「ここまで目印とか地図を描いて見たけど、正直帰れるかな…」

 釣り道具などあれば、海辺で魚を釣ることができたのだが糸や釣鐘がないため難しそうであった。

 自作の槍でトライもしてみたが、素早い動きのため何度も逃げられてしまった。

 食材の確保し続けることの難しさは始めから問題であったが、どうすればいいのか糸口がイマイチ掴めていない状況。

「どうすればいいんだろう…」

 先の見えない課題に不安がつのる。

 どんどん足場が悪くなり、足首に負担が蓄積されていた。

「疲れたし、もう体力の限界だよ~」

 進むペースも先ほどと比べて明らかに落ちてきていた。

既に時刻は昼を過ぎていた。

 力を振り絞りながら歩いていると、道の先に少し拓けたスペースがあった。

「ひとまず、あそこで休憩しようかな」

 そう言って、ポケットの中に入っていたリンゴを一つ取り出して、近くの倒れた木に腰を掛ける。

 そして、そのままりんごを丸ごと口にほおばる。

 食べながら、次のことを考えていた。

 一番気になるのはこの島がどれくらいの大きさなのかということ。

 あまりずっと進んでしまっても、元に戻ることができなくなってしまう。

 「今日はこの場所で一泊することになるかも」

周辺を確認しバツ印のマークを木に彫刻したり、地面にも目印を掘ったりして他にもいろんな対策を施しておいた。

「結構、時間かけちゃったけどやりすぎるぐらいがちょうどいいよね!」

 こうして、キャンプ地候補を後にした。

 先ほどは坂が多かったが、今度はそこまで山はなく平坦な道が続いていた。

 しかし見たところ食べられそうな木の実はなく、彼女はただ前に進んでいた。

 それよりも先ほどとは打って変わって、ちゃんとした地面が固められている道があった。

 歩きやすい道を歩いているとどこからか声が聞こえてきた。

「こっちだよ~」

 はっきりとは聞こえなかったが、沙夜さやの声が聞こえた気がした。

 ついに空から沙夜さやの幻聴まで聞こえるようになってしまい不安になる。

「もうちょっとでそっちに行くからね~!」

 天国にいる妹に届ける気持ちで叫んだ。

 沙夜さやかもしれない声に元気をもらい、歩くスピードが速くなった。

 またすぐ目の前に木がたくさん生えており森林の中へと入っていく。

 木の根っこが舗装されている道を壊してしまっていた。

 足場が不安定で、体がふらついてしまう。

 長く険しい道をずっと進んでいく。

 しかし、あまりの長時間移動に徒労の声が漏れる。

「どこまであるの? この森は…」

 諦めて戻ろうとした時、あることに気付く。

「道、どっちだっけ?」

 足元に気を取られていたばかりに、進むときに目印をつけることを忘れていた。

「せめて今いる場所だけでも分かるようにしておかないと」

 今さらのように跡を書き残す。

 どこから来たのかわかない状態で前に進む。

 しかし、どこに進んでも同じような光景が広がっていた。

「まずい、戻れない!」

 迷う前の場所に戻ろうとした時、何かにつまづいてしまった。

「きゃー!」

 地面に手をつき、立ち上がろうとすると足首にザラザラした感触が伝わってくる。

 最初は木が絡まったのかと思っていたが、その感触が明らかに足にまとわりついていた。

 足の方を見ると蛇が絡まっていた。

「ひぃ!」

 あまり虫類や爬虫類が好きではなかった。

 こちらが怯えていることなど蛇にとっては関係ない。

 捕食する気満々の蛇は徐々に彼女の首元を狙って近づいてくる。

「あっち行って!」

 勇気を振り絞って蛇を掴み、放り投げる。

 しかし、投げられた蛇はすかさず首を狙って飛び跳ねて襲ってきた。

 この瞬間だけ、時が遅く感じた。

 蛇の牙が徐々にこちらに向いてきており、目はこちらの方を睨みつけている。

 しかし、その顔は私の方から逸れていき頭部が歪んでいく。

 そして、白い物体が蛇の頭に蹴りを入れて横を通り過ぎた。

 瞬きをした時、前には何もいなくなっていた。

「一体、何が起こったの?」

 周りを確認すると、話せるウサギがそこにはいた。

「あっ、またあのウサギ……」

 そして、ウサギの反対側には蛇がいて、お互いににらみ合っていた。

 本当ににらみ合っているかは分からない。

 少し不自然なのは蛇がウサギを襲わずに、ウサギは蛇から逃げていないこと。

 しばらくすると、蛇は茂みの中へと戻っていき、ウサギがこちらの方へ来た。

『危なかったね~。 もう少し遅かったら死んでたよ』

『あいつ(蛇)とは知り合いだったから、まだ話が通じたわ』

 ウサギはヘラヘラしながらそう答えた。

「助けてくれてありがとう」

 別れる直前にあんなことがあったのにここまで助けにきたことに驚きもあった。

 最初は生意気なウサギだと思っていたが、それは間違いだったのかもしれない。

 そう思い、考えを改めた。

『いや、別にいいよ』

『早朝の事もあるし』

 彼女はウサギのことを少し見直した。

「私も朝は少し機嫌が悪かったかもしれない。」

「この島のことまだよく知らないから教えて欲しい」

 こうして一匹のウサギと一人の優良という少女は夕焼けの空を背景にキャンプ地候補へと帰っていった。

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