エピソード2:それはいきなり

 昨日はいろんなことがあった。

 沙夜さやを亡くしてしまったり夕食を食べれていなかったりして、ぐっすり寝れたものの休まった感じではなかった。

 そんな中、何かが聞こえてきた。

『お……』

 なんだろう?

『火が……けど~』

 よく聞こえない。

『起きて!』

 すると、鼻の先を何かがなめてくるような感覚が伝わってくる。

 彼女は飛び起きた。

「一体、なに?!」

 起きると、目の前にはウサギがいた。

「あ~、起こしてくれたのか」

 ウサギに向かって彼女はそう言った。

『火を起こして』

 ウサギは彼女の方を見てそう言った。

 ???

 ウサギが?

「え?」

 思考が停止した。

 どちらかというと困惑していた。

 しかし、よく考えるとウサギが喋ることは有り得ない。

 そもそも、ウサギは鳴くことはほとんどない。

「気のせいか」

 疲労のあまり幻聴が聴こえるようになってしまったのかと思い、気を取り直して寝ようとすると。

『いや、無視すんなよ!』

 ウサギの方から確かに聞こえてくる。

「嘘でしょ?!」

 あまりの驚きにそのまま口に出してしまった。

『いや、そのセリフこっちのセリフなんだが?』

 そう言ってウサギがじっとこっちを見てくる。

「もしかして私の言葉が分かる?」

 彼女は戸惑いながらもウサギに尋ねる。

『喋れるわけないでしょ。 声帯ないんだから』

「そうだよね~」

 彼女はウサギについて少し詳しくなった。

 しかし、確かに目の前とウサギと会話ができている。

「じゃあ、どうやって君と会話してるの?」

『テレパシー』

 ウサギの回答はアニメやゲームでよく聞く言葉であった。

「テレパシーってあの脳に直接語りかけるやつ?」

 ウサギは足を畳んで静かに座っている。

「ウサギさん、どこなら触っていい?」

 彼女はウサギを抱き、手足や耳をすでに触っていた。

『ちょっ、お前。 いきなり何すんだ!』

 ウサギは怒り、彼女の指を噛んだ。

「痛っ!」

 彼女は急いで、ウサギを地面に降ろす。

「いきなり噛まないでよ」

『まずは火を起すんだな』

 彼女は戸惑いながらも枝木を集めに行った。

 たき火に枝と枯葉を入れてライターの火を灯す。

 しかし、ライターの火を何度つけようとしても火花が散るだけで炎が出ない。

『なにもたもたしてるの?』

「ライターのオイル切れたかもしれない」

 二人(一人と一匹)が呆然と立ち尽くす。

『なにやってんだよ!』

 ウサギは激怒した。

「拾ったライターなんだからしょうがないでしょ!」

「っていうか、さっきからすごい生意気じゃない?」

 彼女は図々しいウサギに怒った。 

『僕はここの先輩なんだから、あたり前じゃん?』

 一匹はこう主張した。

「私はここに命からがら漂着しているんだよ?!」

「持っているものもほとんど失って……」

「そんなに火付けたいなら自分でやれば?」

『ウサギが火を起こすことができるわけないだろ。そんなことも分からんのかボケ』

「は? 今、ボケって言った?」

『言いましたけど、それがどうした?』

「あんた、痛い目合わないと分からないみたいだね」

 お互いににらみあう。

『昨日みたいに石でも投げます?』

 そう言って、ウサギは愉快そうに彼女の周りを飛び跳ねる。

『石投げてみろよ。それとも速すぎて諦めた?』

 調子に乗ったウサギはさらに彼女を煽った。

 すると、彼女の顔が鋭くなった。

 ポケットからサバイバルナイフを素早く投げた。

 そのナイフはウサギのすぐ目の前を突き刺した。

『うわっ!』

 ウサギは急ブレーキをかけてギリギリでナイフをかすめる。

 ナイフの刃がウサギの右頬の毛を剃っていた。

『えっと、どこからそんなナイフを………』

 ウサギは目の奥で汗をかいていた。

 彼女はウサギの方を睨みつける。

「あまり、私を怒らせるとお前をウサギの肉にして焼くからね?」

「分かった?」

 その言葉は重く、ウサギは微動だにできなかった。

「次は外さないから」

 そう言って、ナイフを抜き取り、彼女は森へと入っていった。

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