遊びの国

星磨よった

遊びの国

「遊びの国」


 この時代そう日本は呼ばれるようになっていた。これは別に日本を蔑んだ表現ではない。むしろ評価したものであり、実際日本は誰の目にもそう見えた。



 今や日本は、世界一エンターテイメント産業が盛んな国だ。もともと、世界から人気だったアニメや漫画は、より様々な国で親しまれるようになった。ジャンプやマガジン、サンデーの他に、同等の人気を誇る週刊誌や月刊誌がいくつも生まれた。



 今までなら、連載のチャンスすら与えられずに埋もれていたであろう名作が数多く生まれたのだ。また、少年漫画であろうと少女漫画であろうと作者の性別など関係なくなり、LGBTなどの性的少数者を公表する漫画家も増え、作品の幅は一段と広がった。



 また、今までならアンケートで打ち切りとなったかもしれない、他とは一線を画すような作品が、日本で人気が出なくとも海外で大人気となり、その後日本で人気となって行った。こうして、今まで無かった作品がたくさん生まれた。



 アニメの分野では、エンターテイメント産業を重要視する政府により、表現の規制が解かれ、名作と呼ばれる作品が沢山生まれた。アニメを制作する、アニメーターと呼ばれる職業を目指す人も増え、アニメーター達の負担も徐々に減って行った。それによって、より作り込まれ完成されたアニメーションが生まれて行った。



 こうして日本で生まれたアニメや漫画を見た事で、日本に来る外国人観光客は一層増えた。また、大人気のアニメや漫画とコラボしたアトラクションを出すテーマパークが多くでき、日本人だけで無く、外国人観光客にも大人気となった。



 子供達の教育では、今までのようなただ椅子に座ってノートを取る事が多く、受験では暗記が重要視された教育方針が一新された。

アクティブラーニングと呼ばれる子供達が能動的に授業を行う学習方法が積極的に導入され、試験や受験の問題では完璧な一つの正解が無い、子供達が自分で考えて答える問題が増えた。



 また、ホームスクーリングが制度化された事でトラブルや他とは違った個性に悩み、学校に馴染めずに、多くの可能性を秘めた子供達が自殺を選んでしまう社会問題も解消された。



 受験では個人の自由な能力を評価する方式も取り入れられ、ある子供は自分のこれまで行って来た研究成果、またある子は自分が開発したゲーム、ある子は自分の描いた漫画など、様々な能力をアピールすることが出来るようになった。そのため多くの親が子供に対して何かを強要したりせず、好きなことをやらせる教育方針を取った。



 また子供の習い事では、多くの子供が親が決めた習い事をしていたのは過去の物となり、様々な習い事を子供にやらせて見て、子供が選んだ好きな習い事を親はさせた。お金の事情などにより、習い事を受けられない子供には、自治体が行っている無料の習い事を受ける事が出来た。



 子供が好きな習い事を選べた事で、まさに好きこそ者の上手なれというやつで、多くの分野で才能を開花させる子供が現れた。



 環境の面では、環境問題に対応した研究成果を上げた子供には高い評価が与えられられ、受験や就職で有利になったため、多くの子供から環境問題の解決につながる成果が生まれた。子供達の方が、これは無理とは決めつけずに無邪気に様々な発想から研究を進めたため、今までにない技術が多く開発された。



 医療の分野では、様々な手術をまさに現実のように行うことができるシミュレーションゲームが日本で開発され、多くの子供がこれにのめり込んだ。そして、ゲームにのめり込んだ子供達からやがて天才と呼ばれる事になる外科医が何人も誕生した。



 大学の医学部受験ではそれまでの筆記試験だけでなく、独自のリアルに様々な手術を再現することのできるオペレーションシミュレーターと呼ばれるものを使った試験も、希望者は受けることが出来た。



 この頃、過去の日本で問題とされていた少子高齢化は大幅に改善されていた。大人達が子供を遊び相手と考えるようになり、子供を欲しがる人が増えたからだ。子供と一緒に遊ぶことのできるおもちゃやゲームが日本でたくさん作られ、どれも大人気となった。



 また、母親が外に出て行かなくても働ける仕事が増えた。オンラインに様々な職種が対応したからだ。特に子を持つ母親は、家でオンラインで仕事が行えるよう、政府が積極的に整備を進めた。家でオンラインで仕事を行う母親を多く抱える会社は、国から給付金が支給されたため、多くの会社が積極的にこの方法を導入した。



 高齢者の介護の問題も改善がなされていた。まず、認知症患者が大幅に減ったのだ。高齢者でも遊ぶことのできるゲームが、日本にたくさん生まれた。どのゲームも手や足を動かしたり、少し頭を使うゲームであったため、認知症や寝たきりなどの予防に大いに貢献した。



 外ではお年寄りや子供、大人など、使用者の年齢別に使える公園ができ、使用者同士で揉めるトラブルやボールなどを使った遊びが制限されるなどの問題は改善され、みな伸び伸び外での遊びを楽しんだ。



 政治家達はこれまでのような世襲ばかりで無くなり、著名な映画監督やアニメ監督、大人気ゲームを開発した会社の社長など、エンターテイメント業界から大臣や要職を歴任する政治家が現れた。彼らの政策は先駆的で、彼らがいなければ日本がこうして発展することも無かっただろう。



 こうして、日本は世界から見ても豊かな国となった。日本のアニメや漫画制作、ゲーム開発や教育制度を真似しようとする国が数多現れたが、どの国でも上手く行かなかった。日本人の遊びや娯楽を作る能力は、他の国には真似のできない力だったのだ。

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遊びの国 星磨よった @hosimayotta

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