12《首相官邸》――JST09時36分
中央指揮所からの連絡を受けた統合幕僚長が総理に報告する。
「北朝鮮の徳山空軍基地で戦闘状態が発生したことを、米軍が確認しました。監視衛星を移動させたようです。我が国からも最低限の情報提供はしてますが、『何が起きているのか』としつこく問い合わせてきています」
総理は考え込む。
モンゴルからも、拉致被害者たちを収容したホテルが過激派組織に襲われたという連絡が入っている。肝心の拉致被害者の行方も、まだ正確には確認されていない。
隣に座った官房長官は『想定されていた事態だ』と泰然と構えているが、どちらも国際問題に発展しかねない〝大事件〟だ。状況は、加速度的に混迷の度合いを増している。
官房長官が、穏やかな口調でつぶやいた。
「やはり、隠し通すことはできませんね……今まで気づかれなかっただけでも、良しとしましょう。作戦は着実に進んでいるはずですから」
統合幕僚長もうなずく。
「通信は遮断していますので実行部隊に確認は取れませんが、衛星や哨戒機からのデータではチームAが無事に飛行中であることが確認されています。党委員長に万一のことがあった場合のみ、一部無線封鎖が解除されますが、その段階には至っていません。作戦はまだ、破綻していません」
総理がつぶやく。その声には、苦渋と不安が滲み出している。
「だが、プランFが動き出してしまった……。あれは、最もリスクが高いプランだ……」
官房長官がうなずく。
「確かに、この先の状況次第ではさらに危険が高まるかもしれません。ですが逆に、最も得るものが大きい作戦でもあります。その作戦が、走り出しました。もはや止めることはできません。誰にも」
しばらくじっと考え込んでいた総理が、不意にニヤリと笑って背を伸ばす。
「君が言う通りだ。日本を救いたいなら、腹を括れということだな。厳しい決断を迫られることは、作戦を始めたときから覚悟していた。同胞を救出するためには他の選択肢はなかった。もはや退ける段階も過ぎた。ためらって時間を無駄にすれば、作戦全体を反故にしかねない。それなら、もはや米軍にも作戦を隠す必要はない。分かった。私も運命に従おう」
防衛大臣が問う。
「で、米軍には何と報告しましょうか?」
総理は言った。
「報告も説明も、私が直接行う。アメリカ大統領に繋ぐように」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます