番外編 喜ぶ王妃と王太子妃
楽しく家族で晩餐を終えるとルークとイリューリアは、早々に下がっていった。
月明かりの奥庭を二人で散歩するのだそうだ。
もっともっと可愛いイリューリアと一緒にお喋りを楽しみかった王妃と王太子妃だが、さすがにそれは無粋だろうとぐっと堪えた。
何しろ身内以外、興味を全くもたなかったルークに春が、来たのである!
ここは、自分達の欲望はぐっと我慢である。
そして、国王と王太子をそっちのけで王妃の部屋に籠って二人でもりあがっていた!
「
「
「…王太子は、確かに節操なし…でしたよね」
少しだけ遠い目をして過去を振り帰るリゼラである。
王太子はリゼラと婚約する少し前までとんだ遊び人だった。
正確には、ルミアーナにこっぴどく振られる前までは…と言った方が良いだろうか…。
ルミアーナにこっぴどく振られたあと、一時、馬鹿な行いをしでかして王妃の命で幽閉された事もある。
なんと、その頃、ダルタスと婚約中だったルミアーナを拉致した上に無理矢理自分のものにしようと、しかけた事があったのだ。
むろん、ダルタスが助けにかけつけ無事だったが…。
幽閉までされて、さすがに猛省したアクルスは女遊びはしなくなったものの、ルミアーナの事を諦めきれない様子だった。
それを危険だと判断した、当時、ルミアーナの側近だった騎士リゼラは、アクルスを常に監視していたのである。
「ふっ…そうね、母の愛を持ってしても庇いきれない愚かさだったわ…」
母である王妃も遠い目をした。
「そんなあの子を、更生させてくれた貴女には頭が上がらなくてよ。リゼラ…貴女がいなければ、とうに廃嫡にしてルークを王太子に据えていたでしょうね…」
「まぁ、王妃様、もったいない!私は単に、アクルス王太子が、ルミアーナ様に良からぬ事をしないよう目を光らしていただけですわ!毎日、見張っているのが仕事みたいになっていましたし、何の間違いか、うっかり結婚することになっちゃいましたけど、まぁ、見張り続けるのには丁度、良かったと言いますか…でも、まぁ更生したと言えるくらい真面目にはなりましたよね」
「ええ、ええ、それはもう!貴女一筋で、今やルミィ(ルミアーナ)が、たとえ離婚して独り身になったとしても貴女からはなれないでしょうね」
「まぁ、王妃様!それは言い過ぎですわよ。ほんとに何でこんなことになったのやら…?思えば四年前の大災害の時の功績から伯爵位を賜った時から、何か変な方向に自分の人生が向かっている予感はしてたのですが…こほん…いや、まぁ、結婚していれば一日中、監視できますから良かったですわ!ルミアーナ様やイリューリア様には、指一本触れさせませんっ!」
「…っ、頼もしいわ!さすがは、私が見込んだこの国一番の女性騎士!女伯爵”紅い髪のリゼラ”は、健在ねっ!ルミィだけじゃなくイリューリア嬢の事も、私達がみまもらなくてはねっ!何しろ、イリューリア嬢はルミィほど逞しくはないでしょうし!」
「当然ですわ!王妃様!血族の穢れなき魂の姫君たちを守る事!それは、この国の礎を守るも同じ事と心得ておりますわっ!けどまぁ、ルミアーナ様の旦那様のダルタス様も、しっかりルミアーナ様一筋でしたけど、その点ではルーク王子も大丈夫そうですわね」
「ええ、もう、それは、そのようね!晩餐の時のあの幸せそうな顔ときたら…あんなにも幸せそうな、あの子の表情は初めて見たわ。私も嬉しくおもっているのよ」
「しかし、好きと思ったら即婚約、即結婚とは思いのほか、
「そうね!あの子は、やるときはやる子なのよ」
「ええ!ええ!素晴らしい!あんなにも可愛らしい血族の姫君が、ルミアーナ様以外にも存在するなんて!しかも、遠いデルアータに!よくぞ、見つけてよくぞ連れ帰ったものです!」
「ええ!ええ!本当にそうねっ!」
「ルミアーナ様とイリューリア様が並んだら、もう夢のようにでしょうね」
「それはもう!素敵よね…」
「「萌えますわっ!」」
こうして王妃と王太子妃の女子トークは夜更け…いや、夜明け近くまで続いたのだった。
ちなみに、随分な二人の言い様ではあるが、アクルス王太子は、確かに昔、ルミアーナに懸想していた頃、一時、ものすごい大馬鹿をさらしたものの、もともと文武両道、眉目秀麗、王の素質も充分な
今や心から反省して、リゼラ一筋なのだが、リゼラに通じているのかどうか…。
人間、信頼を失うのは一瞬だが、失った信頼を再び築き上げるのは、かなり大変なのである。
幸い、猛省したアクルスは、ちゃんと努力し続けている。
月の石も彼の事を『次代の王』と認めているので、おそらく立派な王になるだろう。
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