番外編 祝福を受けし血族の令嬢は皆の”ほっこり”を誘う

 月の石の加護を授かるための儀式という事でイリューリアは一人で大神殿の祈りの間に入った。

 そこには、月の石が四方に設置されており、八人の神官がイリューリアを出迎えた。


 白亜の大神殿の祈りの間は、総てが白で統一されている。

 その中に、イリューリアが足を進めると、まるで月の石が喜んでいるかのように、きらきらと輝きだした。


 神官たちが「おぉ」と小さな声をもらす。


 血族とはいえ、このような現象は、月の石のあるじであるルミアーナ以来なのである。

 月の石のあるじを迎えたかのような月の石の反応に普段は冷静沈着な神官たちも静かに興奮した。


 イリューリアが、ふんわりと微笑むと四方の月の石から柔らかな白い輝きが、イリューリアに向かって集まりイリューリアを包んだ。


 イリューリアは、目を閉じて、その光を全身で受け止める。

 そして、月の石に宿りし精霊の声をきいた。


『穢れなき無垢なる魂の乙女よ。あるじにも劣らぬ清らなる姫よ』


「まぁ、心に声が!」


あるじは自ら以上の加護を其方にと望んでいる』


「まぁ、ルミアーナお姉様が?」


『主の願いでも、その資格のない者に精霊は加護を与える事は出来ない』


「はい、ご無理なさらないで下さいませ。私はお姉様がそんな風に心を砕いて下さっただけで感激しております」


『いや、そうではない。資格のない者に加護は与えられぬが、其方には資格がある。その魂の輝き…主に勝るとも劣らぬ輝き、我ら精霊は主の望み通り、其方に最大の加護を与えよう。心から願えば我らはいつなりとも加護の力を発動し其方の事をあらゆる事から守ろう』


「まぁ、なんと、光栄な事でしょう」


『なに、あるじは我らが守りたくても、自らが逞しいのであまり出番もなくてな…その点、其方は、じつにか弱そうだ。早速だが、其方、何か困っていることは無いか?』


「ございません」とイリューリアは即答した。


『其方、今のところ何も不自由は、感じておらぬようだが、恋人に全て心を読まれてしまうのは、嫌ではないか?』


「え?考えてもなかったです。そう言われれば、分かってしまうと恥ずかしい事も…あるかも???です?」


『ふふふ、ルークもまた血族の者、我ら精霊は其方達の事を祝福しておる。長続きするためにも其方の心、読まれぬようにしてやろう』


「え?でも…いいです。だって、ルークがびっくりしちゃいますので…きっと」


『なに!?よいのか?其方、自分の心が読まれ続けてもよいと?』と精霊が驚きの口調でイリューリアの心に語りかける。


「だって、精霊様!ルークは子供の頃から他人の心が見えてしまうのが当たり前のことだったのでございましょう?それがいきなり、全く見えなくなったら、まるで沢山の人の中、私だけが口を聞かなくなったも同然ではありませんか?私だけが彼から見えなくなるなんて…そんなの…です!」


『はっはっはっはっ!そうか、そうか、いや、か弱そうに見えてなかなか、心の方はもしかしたら、あるじにも引けをとらぬほど強いかもしれないの?』


「まぁ、光栄ですわ!」とイリューリアは素直に喜んだ。


『ほど良い加減で何も考えておらんところが良い感じであるの!其方とルーク魔導士に祝福あれ!』精霊がそう言うとイリューリアを包む光は祈りのいっぱいに広がり、神官達は驚き、その光に一斉に目を閉じた。


 そして光が落ち着くと、イリューリアはにこにこと微笑みながらその場に立っていた。


 神官達はその神々しいまでの光と、精霊の声を聞き語り合っていたその姿にひれ伏した。


 そして、その場にいた元神官長であり現在は大神殿長であるクムン・デュムラン老師は喜んでいた。


 精霊の言葉まではわからないもののイリューリアの受け答えだけは聞き取れたからである。

 ルークが、人の心が読めてしまう事を知るのはデュムラン老師だけなので、他の神官たちには何のことかわからなかったようだが、老師にはその意味がわかり感動した。


 クムン・デュムラン老師は神殿預かりとなっていたルーク王子を、我が子のように思っていたので、イリューリアが、ありのままの王子を受け入れてくれていると知って驚いたのだ。


 幼き頃からその能力故に悩み傷ついてきた愛弟子のすべてを苦も無く受け入れたこの姫の存在を神に精霊に感謝した。


 このイリューリアの迷いなき言葉を聞いたらルークはどれ程感激しただろう…そう考えると神殿では親代わりでもあった老師は嬉しくて仕方がなかった。


 そして、無事に月の石の精霊の祝福と加護を授かったイリューリアは、祈りの間から出て、迎えにきたルークに手を取られて神殿を後にした。


 その二人の様子は本当に幸せそうで、普段、感情をあまり見せない神官たちや大神殿長も皆、ほっこりとし、自然と優しい笑顔になるのだった。


 そして神殿から出るまでの間中、二人からは月の石からの祝福の光が纏わりついてキラキラと美しい光が舞っていた。

 月の石の精霊たちもこの初々しい二人の様子にほっこりとしたようだった。



 Fin

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