番外編 ようこそラフィリルへ-03
その夜は、王家の身内だけの晩餐会が行われた。
王と王妃、王太子アクルスとその妃リゼラ、そしてまだ七歳の第三王子ピシェ王子と、ルークとイリューリアという面々である。
まだ七歳のピシェ王子は生まれつき体が弱かったが、最近になって、ようやく体調の良い時は皆との晩餐に顔をだせるようになってきていた。
王家の晩餐といっても普段は、ばらばらである。
王太子は王太子宮にリゼラと共に住んでいるし、ピシェ王子は、体調が良いとき以外は自室で食事をとっている。
「今日は僕や、イリューリアの為に皆が集まってくれて嬉しい。ありがとう」ルークが言うと皆が笑顔でイリューリアを見た。
簡単に皆の紹介をした後は、給仕以外の召使いも下がらせ、家族だけの語らいである。
自然と口調もざっくばらんな家族だけの口調になる。
「まさか、黒魔石の流出調査にいって嫁を見つけてくるとは!いや、しかしめでたい!でかしたぞ!ルーク」と国王は、ご機嫌である。
「いや、しかし、何てことだ!ほんとにルミアーナ夫人によく似ている!」とアクルス王太子が何か忌々しそうにルークをみて呟く。
その、ちょっとばかり剣呑な雰囲気にイリューリアは王太子様は私がルークのお嫁さんになるのは反対なのかしら…と不安になった。
しゅんとしたイリューリアに王太子妃のリゼラが気づき、アクルス王太子の頭をなんと!げんこつで殴った。
「ぐあっ!痛っ!な、何するんだ」とアクルスは殴られた頭をおさえた。
「おだまりなさいませ!イリューリア様が、しゅんとなさってますわ!」とリゼラが夫であるアクルスを睨み付けた。
「「「えっ!」」」と、皆が慌てる。
イリューリアも慌てた!
(お!お!お!王太子殿下を殴った!?しかも、ぐーパンチで?えええええ~?)という感じである。
しかも、王太子アクルスは、別に妻を怒るでもなく、普通に弁解している。
(え?え?え?これって普通の会話なのですか???)とイリューリアは、ぷちパニックである。
「アクルス兄上、イリューリア様とルーク兄上のご結婚、反対なのですか?」と末の王子ピシェが心配そうに尋ねる。
「いや!いやいやいや!別にイリューリア嬢が気に入らないとかそういうのじゃないから!ルークってば、こんな美少女みつけちゃって、悔しいな~いいな~っていうだけだからっ!」と、王太子が、慌てていうと、王妃や国王までリゼラの味方をして王太子を「この馬鹿」とか、「愚息め」とか、けなし始めた。
王太子妃と国王様王妃様は仲良しのようである。
「イリューリア様!お気になさらず!アクルス様は、昔、ご自分が好きだったルミアーナ様そっくりの美少女のイリューリア様がお嫁さんになると聞いてうらやましいだけですから」とにこりと微笑んだ。
(えっ!王太子様、昔ルミアーナお姉様の事、お好きだったの?え!でも、そんな事、本人の前…というか、皆の前で私に言う?)と内心、ぎょっとするイリューリアである。
アクルスの面目など無きに等しい!これは、王太子妃として言って良かったのか?とリゼラの事が心配になる。
「まぁっ!アクルス!あなた!そんな態度はイリューリア嬢にも、妻であるリゼラにも失礼極まりないわよ!」と王妃も息子をけなしだす。
「まったくだ!」と国王も王妃に同意した。
「勘弁してくれ!もちろん、イリューリア嬢に何の不満もありませんよ!こんなに可愛らしい義妹ができるなんて夢のようですとも!それに、何より、わたしは今や妻のリゼラを心から愛していますからね!」と王太子は苦笑いした。
「ふふふ、うらやましいでしょう?」とルークが笑う。
「ああ、全くだね!まぁ、しかし、よかったよ。人嫌いだと思っていたお前にも、運命の人がちゃんといて!思いがけず、お前の婚約者が素敵すぎて意地悪の一つでも言ってやろうかと、思っただけで家族一丸となっての、この攻撃?いやはや参った!」
「まぁ」と、イリューリアは、心底驚いた。
いくら身内だけとはいえ、この国の王太子を拳で殴った王太子妃リゼラ様にも驚きだが、それを国王も王妃も咎めないことに驚きである。
リゼラ様が、責められることがなかった事にイリューリアは内心ほっとする。
普通の王族ならあり得ないんじゃないかとイリューリアは思った。
国王様も王妃様も、もの凄くお嫁さんに優しい?と、嬉しく思った。
「ははは、イリューリア嬢、誤解させたなら申し訳ない!貴女のことは大歓迎ですよ。弟との婚約おめでとう!ようこそラフィリルへ!私のことは、兄上とか、お兄様と呼んでいただけると嬉しいな」とアクルス王太子は、柔らかく微笑んだ。
その笑顔は心底、優しそうでイリューリアは、ほっとした。
末の王子ピシェも、その様子にほっとして笑顔をみせる。
末の王子のその幼い笑顔は人懐っこくて、物凄くかわいらしい。
黒髪、黒目の王子は、とても色白で綺麗な可愛い王子である。
イリューリアはピシェ王子に、にっこりと笑顔を返した。
(私、この方たち、大好きだわ)と心から思う。
そして兄嫁のリゼラが、イリューリアに極上の笑顔を向ける。
「イリューリア様!困った事や悩むような事があれば、何でも相談してくださりませ!私、全力でお助けいたします!」と力いっぱい言われイリューリアは、驚きつつもうれしく思った。
「さすがは、リゼラです!貴女を誇りに思うわ!さすがは元、我が国一の女性騎士です!」なぜか、王妃様のテンションもかなり高い。
「あら、お義母様!当然ですわ!イリューリア様とて、いくらお祖母様の祖国とはいえ見知らぬ国に嫁ぐのは不安な事もおありでしょう?」
「全くだわ!リゼラのいう通り!イリューリア嬢!ここにいるリゼラを姉、私のことは母と思って何でも相談してちょうだいね!私の事もお母さまとか、呼んでもらえると嬉しいわ!」と王妃も両手を組んで瞳を爛々と輝かせながら、まるでお願いするようにイリューリアに声がける。
「まぁっ、なんて光栄なことでしょう。お母様、リゼラお姉様、宜しくお願いいたします」と満面の人懐っこい笑顔を向けた。
王妃と王太子妃は、「「はうっ!」」と、真っ赤になり胸に手をきゅっと結んで悶えていた。
ルークもその様子にくすくすと声をあげて笑っている。
国王と王太子は、妻たちの暴走っぷりに苦笑いである。
思いがけず、熱烈歓迎されてうれしいイリューリアだった。
誰か一人くらいには、相応しくないと嫌われたり意地悪を言われたるするかも?と覚悟をしていたのである。
そして王太子妃リゼラは元、この国一番の女性騎士様だったのか…と何となく納得した。
リゼラお姉さまは燃えるような真っ赤な紅い髪とエメラルドの瞳が印象的な細身の美女である。
なんだかとても頼もしい。
しかし、ここまで熱烈歓迎なのは、やはり、自分が月の石の主であるルミアーナお姉さまに似ているせいかしら?と思うイリューリアだった。
(正直、それも無きにしも非ず!なラフィリル王家の面々である。)
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