第62話 ルークの怒り!
そしてルークは言葉を続けた。
「身分がどーした!そんなもので、彼女の幸せは決まらない!そんなもので、他人を推しはかる其方らでは、彼女を不幸にするだけだ!」
「「なっ!」」ザッツ将軍とローディ王子はその言われ様に驚く。
王弟と王子である。
王以外の人間に、そんな言われ様はされたこともない二人は憤慨し、わなわなと言葉もでない。
「「ぶっ…無礼なっ!」」
そんな二人が反論しようとしてもルークは、それを許さず言葉を続けた。
「自分こそふさわしい?聞いて呆れる!そこに、彼女の意志は存在するのか?彼女の幸せは彼女の気持ちの上にこそあるはずなのに、貴公らときたら!ちゃんちゃら可笑しすぎて片腹痛いわ!」
と、どなり散らした。
まさか、穏やかなルークが、こんな、王候貴族集まる衆人環視の中、どなり散らすなど、誰も予測しようはずもない。
討伐に加わっていた時のルークを知る兵士達も驚きを隠せず、思わず目を見張った。
ルミアーナとダルタスは、内心ではあるが、愉快そうにパチパチと拍手喝采している。
そして、感動にうち震えるのは、イリューリアの父、カルムだった。
「おぉ!ルーク殿!よくぞ…よくぞ、言ってくださった!」
目には、うっすらと涙すら浮かべている。
そしてカルムは自信を持って思う。
たとえザッツが言うようにルークに爵位やらの身分がなかったとしても、娘を幸せにできるのは彼しかいないと確信する。
(呪縛から解けたカルムの直感は冴えている)
もし、彼が娘を望んでくれようものなら国を捨ててでも娘をこの国から逃がそうとまで思うカルムだった!
そんな、カルムの呟きをザッツは、聞き咎める。
「宰相!賢きカルム宰相との言葉とも思えぬ!いくら、イリューリア嬢の恩人とはいえ、今回の事はたまたまだろう?他国の魔導師などという不確かな身分の者を近づけるなど何かあったらどうするのだ!」
この無礼な物言いにカルムは反論する。
ザッツは王族にしては粗野な感じがするものの、そこがまた彼の魅力でもあったが、いくら何でもこれでは単なる無礼者だ。
普段の彼はこんなだったか?と思う。
「ザッツ将軍、何という事をいうのですか!私は人として彼を尊敬している!むしろ貴方が、その様な事を言う事が信じられない!身分などと!部下や庶民にも気さくな貴方を尊敬していたのに…」
「婚姻ともなれば話は別だろう!貴殿もイリューリア殿も、誑かされているのだ!目を覚ませ!」
この言葉は、彼を慕っていた兵達は聞きたくなかったであろう言葉である。
会場の警備に当たっていた兵達は、そんな将軍の発言に何か裏切られたよう気がした。
そして、その言葉を今度はラフィリルの英雄ダルタス将軍が、聞き咎め、言葉を放った。
「聞き捨てならんな、我が従兄弟を愚弄するか?ザッツ将軍、言葉には気をつけるがいい!」とダルタスが、ザッツを睨み付ける。
ザッツは、それでも引き下がらぬ様子でダルタスを睨み返す。
あり得ないような、園遊会の惨状に国王も王妃も顔をひきつらせる。
「いい加減にせよ!」国王が叫ぶ。
「そこの不埒ものを捕らえよ!」と国王が言うと衛兵たちはルークをぐるりと取り囲んだ。
ダルタスとルミアーナがさっと身構える。
(なぜか、三歳のジーンとリミアまで幼子とは思えないような俊敏で隙のない臨戦態勢をとる!)
兵達は、王のその命令に、不納得なのか表情は辛そうである。
それも当たり前だ。
デュロノワルの一派を取り押さえる時に助言をくれ、討伐後には、黒魔石についての講義を行い、その後のラフィリルからの支援物資の手配もあり得ないような、素晴らしいスピードと手腕で、自分達を助けてくれた恩人なのである。
偉ぶらず、相手の身分にかかわらず優しく丁寧な態度、その上、彼が練習場で見せてくれた剣技は達人と呼べるもので、同性ですら憧れずにはいられない存在だったのである。
だが、これは王命である。
兵達は苦しそうな申し訳なさそうな表情でルークに手をかけようとにじりよる。
そして、ザッツとローディが、そらみろと言わんばかりのドヤ顔でルークを見る。
「やめてください!ルークは、私を庇って下さっただけです!」とイリューリアが涙ぐみながら叫んだ。
次の瞬間、国王キリクアは、再び兵達に向かって叫んだ。
「愚か者ども!誰がルーク殿を捉えよと、申したかっ!そこな、不埒もの、
「「なっ!」」ローディ王子とザッツ将軍は驚き国王を振り返った。
その国王の顔は怒り、眉間には深い皺を寄せていた。
その言葉にダルタスは、ふっと笑い、「賢き王で、この国は命拾いしたな…」と、呟いた。
ルミアーナも笑顔で頷く。
(弟と息子は阿保だけどね…とルミアーナが思った事は内緒である)
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