第7話 戸惑うイリューリア
バルコニーに連れ出されたイリューリアは、心の内はざわざわと不安で今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
(ああ、どうしましょう…いくら親戚にあたる公爵様でも男の方と二人きりなんて…。でも、王弟であるクーガン公爵様に失礼な断り方は出来ないし、なんとか理由をつけて広間に戻らなければ…)
そんな事を思っているのが遠目に見ても明らかな、不安そうな表情のイリューリアにローディ王子は思った。
『ああ、やはり彼女は本当にイリューリアだ。無垢なまま、さらに美しく成長したイリューリアだ…』と!
最後に見たあの時より背が伸びている。
すらりと伸びた手足、長くなった髪は以前よりも輝きを増している。
怯えるアクアマリンの瞳はこの上なく儚げで美しい。
そして、イリューリアを強引にを連れ出したクーガン公爵から見ても、戸惑う彼女の反応は、とてつもなく可愛らしく新鮮だった。
クーガン公爵は地位もさることながら、各国に猛将と名を馳せるほどに強く逞しい。
貴族令嬢達だけでなく妙齢の女性達の憧れの的である。
野性味溢れる将軍と貴公子然とした優し気なローディ王子とは、全く違うタイプの魅力で世の女性達からの人気を二分していた。
しかし、瞳や顔の輪郭は血筋だろうか、やはりどこかお互いに面影がある。
ザッツは王族にしては粗野な感じがするものの、そこがまた彼の魅力でもあり漆黒の髪にローディと同じ深い深い藍色の瞳、背は高く誰が見てもため息が出るほどの
これまで知り合った令嬢達は、皆、我先にと自分と親しくなろうとしていたというのに、この令嬢は本気で戸惑っておろおろとしている。
王弟である自分に失礼にならないように何とかお断りして広間に戻りたそうにしているのが見て取れるのである。
なんて初々しい令嬢だろう。
(こんな清らかで可愛らしい姫君を隠していたなどと、カルム(エルキュラート公爵)め!確かローディ王子と幼少期には婚約していたらしいが既に解消しているのだから私に引き合わせてくれても良いものを!)
どのみち国内で結婚相手を見つけるのならばエルキュラート公爵家と釣り合う家など同じ爵位の公爵家かそれ以上の王家しかない。
ローディ王子との婚約破棄がどういう経緯でそんな事になったのかは知らないが、一度解消した婚約をむしかえすこともないだろう。
そうすれば、国内で身分的にも釣り合うのは自分くらいではないか。
この国では王家に次ぐ公爵家は四公在るが、姫と釣り合う年頃の男性となると、自分とローディ王子位である。
クーガン公爵とは若干、年が離れてはいるが、年齢的にも十一歳差位なら王候貴族間の婚姻においては普通だ。
つまりは、そういったこともあり王や王の側にいる
つまりイリューリア嬢次第…という事なに違いない。
ザッツはこの姫を我がものに!そう心に誓った。
まさにザッツ・クーガン公爵将軍、人生初の『一目ぼれ』というものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます