第4話 ローディ王子の後悔(ローディ王子視点)
三年前のあの日…わたしは心無い言葉で婚約者だった少女を傷つけた…。
あの時のあの少女…イリューリアの悲しく凍り付いた様な表情はいまだに忘れられない。
愛らしいあの淡い水色の美しい瞳は涙でうるみバラ色の頬からは血の気が失せ、真っ青になり震えていた。
彼女の事が嫌いになった訳ではない。
むしろ逆だ…。
彼女は小さい頃から驚くほど可愛らしかった。
華奢で小柄な様子も守ってやりたいという男の庇護欲をそそられたし、
当時、まだ十五歳だった私は彼女が自分を慕ってくるあまり、その愛らしさに自制が利かなくなりそうだったのだ。
くったくなく懐いて「ローディ様」「ローディ様」と愛らしくじゃれついてくる彼女を私は抱きしめて連れ帰って自室に閉じ込めてしまいたくなる衝動にかられていた。
そんな黒く浅ましい自分に恐れおののき、あの日、僕に駆け寄ってきたあの愛らしすぎる無垢な存在を傷つけない為に出た言葉がアレだったのだ!
「わたしに近づくな!お前なんか大嫌いだ!」と…。
慌ててしまっていたとはいえ、あれは人生最大の失言だった。
傷つけたくなくて発した言葉で盛大に傷つけてしまったのだ…。
その後、あの失言を詫びようとしたが彼女が私の顔をまともに見る事はなかった。
私が話しかけようとするとびくっとして、肩をすくめ俯き真っ青になって震えていた。
そんな哀れな様子を目にした
(全く、余計なことをしてくれたものだ…。私の本当の想いも知らないで…)と自分の事を棚に上げて恨み言すら言いたくなる。
生まれながらの婚約…といってもこの国では正式な発表は社交界に出てからの事になる。
正式な婚約発表前の婚約破棄ならば、イリューリアにとっても不名誉にはならない。
無かった事になるだけだ。
国王夫妻も娘同様に可愛がっていたイリューリアに、万が一にも婚約発表後の婚約破棄などと、そんな不名誉は与えたくはないと考えたのだろう。
私とは上手くいかない
それも考慮しての
国王夫妻も公爵もイリューリアの気持ちを大事に考えたのだ。
重ねて言うが自業自得とはいえ、私も本当に辛かった。
私は自分の至らなさから彼女を傷つけ、そして嫌われてしまったという事はわかっているのだ。
彼女の震える肩に目を落とし、彼女の心を取り戻すことは無理なのだと絶望したあの日…父である国王の勧めに従い隣国に二年間の留学に出た。
この二年間は彼女を忘れる為に、あらゆる新しい事に目をむけようと頑張った。
時には、彼女の事を忘れるべく幾人かの女性とも付き合ってみたがイリューリアほど無垢で愛らしく愛しいと思える女性にはついぞ出会う事などなかった。
そして留学を終え去年の社交界で十四歳を迎えた筈の彼女に、出会えるかと密かに夢見ていたが彼女は去年の社交界にはいなかった。
考えたくはない…。
認めたくはないが、彼女は私に会いたくないが為に社交界に出てこなかったのだろうか?
そんな未練がましい考えを巡らす自分にほとほと呆れながらも再び出会えることを期待してしまう。
もう嫌われてしまったというのに…。
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