第3話 召使達の想い(メイド、ルルー視点)

 私はお嬢様付きのメイドのルルー!

 メイド長のマーサさんと一緒にお嬢様の身の回りの事を主に任されている。


 私達のお嬢様、この国の宰相であり現国王陛下の従兄にあたられるカルム・エルキュラート様の一人娘イリューリア様は、純粋無垢で稀に見る美しいお嬢様だ。

 お嬢様の亡くなられたご生母様はなんととも呼ばれる大国ラフィリルの王家に連なるお血筋の姫君でそれはそれは美しい方だったと聞く。


 そのお血筋のせいか大国のお姫様にだって、全くもって引けをとらない美しさなのである。

 さらさらのプラチナ色の髪はそれはもう美しく輝き、瞳は精霊の住まうという湖畔の水面のように美しく透き通る水色をしている。


 唇はほんのり淡い桜色で肌は陶器のように滑らかで、女の私達から見てもため息が出るほどなのだ。


 しかも私達、召使たちにも優しい心遣いの出来る素晴らしい方なのである。


 それなのに!それなのにっ!

 そんなお嬢様が、すっかりご自分に自信を無くされてしまったのは三年前の事、この国の王子であり当時婚約者だったローディ王子殿下のせいなのだ。


 あろうことかあの王子殿下は、お嬢様に「おまえなんか大嫌いだ!」等と言い放ったのである。

 その現場に居合わせた私は、思わずあのクソ王子殿下をお手打ち覚悟で殴り倒そうと思ったものである。


 マーサさんや家令のジェームスさんが止めに入らなければ、あのクソ王子殿下をぶちのめし私は、王族への不敬罪により首が飛んでいたに違いない。


 その後、私はお嬢様には内緒で王子殿下のお嬢様への無礼を旦那様に泣きながら言いつけてやったわ!

 まぁ、私が言うより先に家令のジェームスさんが、(冷静に)旦那様に報告していたみたいだったけれどね…。


 いくら王子殿下でも、いくら見目麗しくても、あの王子は駄目だ!

 うちのお嬢様には相応しくない!

 うちのお嬢様が嫌いだなどと目も心も腐ってるに違いない!

 全くもって腹立たしい!


 王子殿下を慕っていたお嬢様は、それ以来屋敷に籠り一生懸命自分のいたらない所を探しては努力してこられた。

 お嬢様はそりゃあ、魔法に憧れたり精霊様が本当にいるとか信じていたり、そんな幼さはあったものの、至らない所なんて私達召使からみたら無いに等しかった!

 優しくて可愛くて、もしも貴族のお嬢様として足らないところがあるとするなら、召使にも優しすぎるとか、威張らなすぎるとか謙虚すぎるとか、裏を返せば美徳とも言えるような部分ばかりである!


 くそくそくそくそ!王子殿下めっ!


 こんな事、思ってる事がばれたら即、牢屋行きかもしれないが、うちの屋敷の者は内心、皆そう思っているに違いない!


 すっかり王子殿下に委縮してしまわれたお嬢様は、泣きはらし部屋に籠られていたっけ…。

 翌日、国王陛下に叱責でもされでもしたのか王子殿下が神妙な面持ちで失言を詫びに来たけれど、会おうとはなさらなかった。


 まぁ、これは当たり前だ。


 あんなにも美しく可愛らしく優しいお嬢様だもの!嫌いだなんて言われた事など生まれてからこのかた、一度だってなかっただろう。


 それをあろうことか、慕っていた自分の婚約者に言われたのだ。

 しかも、ただの『嫌い』ではない!『嫌い!』と言われたのである。


 あ~り~え~な~い~っっ!


 それ以来、お嬢様はいくら私やマーサさんが「お嬢様は美しい」「素晴らしい」と言っても聞きいれてはくださらない。

 受け入れられないのだ。


 単なる身内びいきか何かだと思ってらっしゃるようなのだ。

 そんなこと、ないのに。


 そしてご自分の至らないところところばかりを探すのである。


 ご自分の事を『醜い』とさえ思ってらっしゃるようだ。


 ほんっっとに、ありえないっっ!


 何が嫌われる原因だったのかと、いつもそんな事ばかりを考えていらっしゃるようだった。


 せっかくあんなにも美しくお生まれなのに…。

 お痛わしいにもほどがある。


 それもこれも、あの『王子』のせいだと私は思っている。

(もはや王子殿などと敬称をつけるのも忌々しいわっっ)


 いくら王子でもうちの姫君にあんな事を言って許されるべきではない。


 幸い旦那様は現国王の従兄で宰相でもあり国王陛下が相手でも対等な物言いが許されている。

 しかもイリューリア様の亡くなられたお母君は王妃様の学院時代のご親友だったとかで、お嬢様に対してとても心を砕いて下さっていたので自分の息子の愚かな発言にも大いに怒り悲しんでを認めて謝罪して下さったと聞く。


 当然、旦那様から『婚約破棄に…』とお話をされたようで、数日後、正式な婚約発表の前に婚約は白紙に戻された。


 召使い一同、この一件には怒りを覚え、旦那様の了承も得て、家令はもちろんメイド達も王子からの取次は最初の一回以来一切しなかった。


 ちなみに最初の一回は、取り次ぎはしたもののお嬢様は泣きはらした目を見られるのが嫌だからとベットに籠られていた。

 あの時は召使一同、お嬢様の悲しみを想いクソ王子への怒りと悔しさに涙をにじませたものである。


 それまでイケメン王子に憧れを感じていたメイド仲間も我らがお嬢様への仕打ちを聞いて幻滅し、お嬢様に同情したものだった。当然だ。

 たかがイケメン王子、かたや精霊のごとき美しさと優しさと気品を持つお嬢様となら断然お嬢様である!


 お嬢様の素晴らしさが分からない男などたとえ、この国の王子だろうが何だろうがお嬢様には相応しくないのである!


 あのクソ王子など罰が当たって廃嫡にでもなればいいのにと思う。


 おっと…話がそれたが、何はともあれお嬢様自身が何と思っていようともお嬢様は、本当に素晴らしく美しいのである!

 きっと社交界に出れば否が応でも周りからの賛辞がお嬢様の耳にも届くだろう。


 お嬢様に相応しい支度を整えなくては!

 ドレスに靴にアクセサリー。

 私とマーサさんの腕の見せ所である。


 女神のように美しいお嬢様を見て、逃した幸運の大きさを知るがいいわ!クソ王子!


 そう心で毒づきながらお嬢様の最高の社交界デビューを模索するマーサさんと私、いや、メイド達。いやいや!召使一同なのだった。

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