第5話
この世界の僕たちは、いつも誰かに頭を押さえつけられ、やりたいことも出来ず、我慢することが当たり前のようになっている。死ぬことすら、顔も見たことのない誰かに決められる。
ほんと、この狂った世界には怒りと絶望しかない。
出来ることなら、このくだらないゲームを放棄してボロ家に帰りたい。
「ルールは、とっても簡単ですよ。このガラス瓶から、交互に一個ずつチョコを取り出して食べるだけ」
「………………」
「ただ、毒入りのチョコも何個か混ぜたの。だからね」
「…………最後まで生き残れた奴が、勝ち。そして、どちらかは必ず死ぬ……」
「うんっ!! その通り。君は、使者との運試しに勝ったわけだし、良い勝負になると思うなぁ。私を楽しませてね~」
こうして、死のゲームが始まった。
毒入りのチョコか………。たぶん、混入しているのは数個程度だろう。
もちろん、見た目じゃ分からない。
ヤバイな。
吐きそう。
「あっ、1つ言い忘れてた! あまり選ぶのに時間使わない方がいいよ。お仲間の命が危なくなるからね」
「えっ、なに?」
女が手を叩くと前方の白壁が透き通り、映画のようにある映像が流れた。そこに映ったのは、大蛇。その蛇が、僕達が寝泊まりしているフロアを我が物顔で行き来している。
「あれはね、ボアちゃん。私のペット。今、とっーーてもお腹ペコペコなの。だから、動くモノは何でも食べちゃうの」
「もしかして……僕達は、あの蛇の餌だったんですか?」
「うん。痩せてガリガリの餌なんて、食べても仕方ない。だから、アナタ達を肥えさせたの。餌の確保も飼い主の大事な役目でしょ」
ダメだ。毒入りのチョコ。全く分からない。震える指先で、とりあえず手前のチョコを拾う。
ガリッ。
「………どうして、こんなことに。最悪だ」
「一人食べられちゃったよ~。ハハハ」
ガリッ。
「………………」
ガリッ。
「はい! また一人、消えたぁ」
ガリッ。
「………………」
ガリッ。
「あれれぇ、あの子。アナタの大事なお友達じゃない? あんなに必死に逃げちゃって。無駄なのになぁ………。ほんっと哀れ」
ガリッ。
「……………」
ガッッシャン!!!!
僕は、思い切り瓶を床に叩きつけた。そして、片っ端からチョコを口に入れる。割れたガラス片で口が切れ、それでも血を流しながらチョコを飲み込んだ。
その様子を見ていた筋肉ムキムキ兵士が、腰にさげたサーベルを抜き、僕の頭上からその刃を振り下ろそうとする。
「めっっ!!!」
部屋が揺れるほどの声。兵士だけでなく、画面の中。今まさにネムを襲おうとしていた蛇の動きも止まった。
僕は血だらけ、リスのように膨れた口を女にアピールした。足下には、まだ13個のチョコが残されている。
「ふ~ん………。毒入りのチョコ以外、全部食べたみたいねぇ。………………あなた、いったい何者?」
「僕は、ただの貧乏人だよ。今のは、未来の『運』を借金しただけ」
「へぇ~。運の前借りかぁ。特別な子ね、アナタ」
女は、綺麗なハンカチで血とチョコでべとべとになった僕の口を幼子を持つ母親のように優しく、丁寧に拭いた。
間近で見た時、そのゾクゾクするような女の色気と香りが白昼夢のように僕の心を惑わせた。
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