第13話 痕を残したい年下の子ぉと

〜痕を残したい年下の子ぉと〜


「あんなぁ、ゆみちゃん。噛みグセだけどうにかならへん?」

「噛みグセ、ですか?」


はてなと首を傾げるゆみちゃんは、まるで全然心当たりがあらへんみたいに無垢に見える。

せやけどよく見たら目尻が笑っとんねん。

ほんまにいい性格せぇかくしとるわぁこん子。


しゃあないからウチは渋々タートルネックをぐいっと引っ張って、肩よりは首っちゅう辺りについた歯型―――それも左右の! そいつを見せつけたる。

ゆみちゃんの視線がじろじろウチの傷跡を見て、めちゃ分かりやすく嬉しそうに笑いよる。

そないな顔されたらしゃあないなっちゅう気持ちにもなんねんけど、ここは心を鬼にせえへんといかん場面や。


きりり、と我ながら鬼の形相と呼ぶ他ない厳しいつらで睨みつけてやると、ゆみちゃんは白々しいことに首傾げる。


「それを、私が?」

「他に誰がおんねん。おかげでうちこんしばらくこないのしか着れへんのよ。うちカメやないんよ、わかる?」

「あはは」

「笑い事やあらへんのよ。いやマジで」


ゆみちゃんは笑いよるけど、ウチからしたら笑い事やあらへん。

なんせ年下の大学生の恋人とか会社の人らにはとても言えへんからとどうにかこうにか隠したいっちゅうのにコレやからね。

見られてみい。一発アウトやん。


そやって言うのに、ゆみちゃんはけらけら笑いよる。

酒飲んでんのかあんたはもう。


「いいじゃないですかぁ、バラしちゃいましょうよ。成年したての女の子と半同棲してます! って」

「簡単に言うてくれるやん……?」


そないな簡単なことやあらへんのに。

ゆみちゃん、高校んときより適当になっとらへん……?


呆れるウチに、ゆみちゃんはのっそり近づいてくる。

ぽすっ、と肩に寄りかかるようにして寄り添うてくる―――甘えるときに、ようするやつ。


「簡単ですよ。私がツトメさんを大好きで、ツトメさんも私が大好き。それだけじゃないですか」

「うむぅ……」


にっこり笑うゆみちゃんの言葉は、なんや妙に重い。

こん子はこの子なりに考えとるっちゅうことやろうけど……でもやっぱ、そないな簡単なことやないよ。


「と、い、う、かぁ……なぁんでクリスマスなのにお説教されなきゃダメなんですかぁ!」

「いやクリスマスゆうても特別なこといらへん言うたんはゆみちゃんやん」

「だからってお説教はおかしいじゃないですか! イチャイチャしろー!」


ごろりんりんっちゅうて押し倒される。

元気な子ぉやでほんま。


「イチャイチャすんのもええけど、その前にっちゅう話なんよ。噛みつき禁止な?」

「むぅ……じゃあキスマークならいいって言うんですか」

「外から見えそうなとこに跡付けんのなし」

「ぐぬぬ」


悔しそうに唸りよるけど、これは譲れへん。

そんな他人に見せつけるようなことせぇへんでもええやん。

そないウチって信用ないんやろか。


「―――別に、信用していないわけじゃないんですよ」


ゆみちゃんの言葉にどきりとさせられる。

たまにこういう見透かしたこと言いよるんよね。


じゃあなんでなん、と視線で問うたら、ゆみちゃんはむすっと口をとがらせる。


「分かってくださいよあんぽんたん」

今日日きょうび聞かへんなぁ」


あんぽんたん、ときたかぁ。

ちょいグサッときた。

……まあ、せやよな。

ゆみちゃん結構しっかりしとうけど、まだまだ学生やねんし。

大人になっても、そういうんあるのはしゃあないよな。


「ゆみちゃん」

「……分かってますよ。もうしません……ごめんなさい」

「ちゃうちゃう」


こないなことなら、変にもったいぶらんかったらよかったわ。

ほんとアホやなぁうち。


「ゆみちゃんはええっちゅうたけどな、社会人としてメンツが立たへんっちゅうか。まあそんな感じで」


確か引き出しん中しまっとったはずやけど……ああ、あったあった。


「ゆみちゃん痛いのキラい?」

「え。……まあ基本的に」

「せやよね」


まあそりゃ基本的には痛いのスキな人なんておらへんわな。

我ながらあほうなこと聞いたわ。


よっこいしょ。


「てなわけで、ほい」

「これは……」


手渡した箱の片割れをゆみちゃんが受け取る。


「べつに爆弾とか入っとらへんよ。開けてくれる?」


あかん、ちょおどきどきしてきた。

こないな緊張するとか就活の時以来や。


「あっ……これ……ピアス、ですか?」

「そそ。普段使いできるように結構シンプルなヤツにしてんけど、そこそこええやつなんよ」


……なんやしょぼそうな表現やな。

ピアスに対してそこそこええやつとか……もちょっと国語頑張るべきやったわ。おしゃれな語彙力ほしいわぁ


ま、ええわ。


「けっこ前なんやけど、ゆみちゃん酔うたときにな。おんなじようなこと言っててん」

「もしかして……」

「そそ。せやからさ。ピアスとかどうやろって。ウチ今までしたことあらへんし、ゆみちゃんもやろ?」

「はい。初めてです」

「ゆみちゃんの気持ちも、まあちょっとは分かるんよ。せやから、どうやろ。お揃いで、ピアス穴とか空けるんは」


ウチの方から提案するとなんやキモいかもしれへんけど、これでもせいっぱい考えてんよ。

これでどん引きされたら―――んや。どうもよさそうやね。


「お揃いで……ピアス……」


んぅ。

そこまで感動されるとそれはそれで困んな。

そない大げさなことやないと思うんやけど……ま、でもゆみちゃんが喜んでくれたらそれが一番やよね。


「ほならピアスしよか―――うん? しよかっちゅうならピアッシングっちゅうほうが正しいんやろか」

「えー、どうでしょう」


すっかり上機嫌になってくれたようでほっとしたわ。

ピアス(ピアッシング?)するやつもちゃんと用意してあんのよねぇー……んん?


「うわ。マジかぁ」

「どうしたんですか?」

「や、なんちゅうの。これこれ」

「どれどれ―――あー、へぇ……えっ。じゃあこのピアスはしばらくお預けっていうことですか?」

「そうなるみたいやね?」


どうやらピアスっちゅうんは、一度新しい穴を空けたら定着させなかん……らしいやん。

んで、それ用のファーストピアスとかゆうんが機械にセッティングしてあると。

最初の一か月はそれで過ごすと。


つまり、なんや。


「あー。しばらくはおあずけやね」

「やぁです」

「やぁなんや」

「やぁです」

「そかぁ」


ちゅうてもどうしようもないんやけど。

はあー。

なんやこう……どうしてウチってこう、しまらへんねやろ……


「ふふ。そんなところも好きですよ」

「ありがと」

「でもそれはそれとして痕は我慢してくださいね」

「……しゃあないかぁ……」


―――んん?


や、それとこれとは話違わへん?

穴自体は空けるんやで?


なんて。


思うた時にはもう遅く。

吸血鬼かいな、っちゅうくらいの速度でがっぷりいかれた。

もうそこには痕ついてんねんけども……ほんに、えろう甘えんぼさんやなぁ……

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クリスマス短編集~もしも性夜のクリスマス(仮)~ くしやき @skewers

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