第3話 ワケわからんヤツと

~ワケわからんヤツと~


「めりーくりすまーす。わーわー」


おざなりな歓声とともにやかましいクラッカーなんぞ鳴らしやがる。

相変わらずユミカのやることは意味が分からねえ。

明日から冬休みだってんだから別に休日にやりゃあいいだろうに、なぜか当日にこだわりやがるせいでこんな寒空の下屋上に呼び出されてんだからたまらねえ。


まったく、オレだから付き合ってやってんだぞ。


だってのにこいつはワケわからんウザがらみしてきやがる。


「ほらほらサクラちゃんよぉ、もっとノリノリでいこうじゃないの」

「んだよさっきからそのアホみてえなノリは。っとおしい」

「だってせっかくのクリスマスだよ? 楽しまなきゃ損じゃない」


やれやれとでも言いたげみてえに首を振って「サクラちゃんだってほんとははしゃぎたいくせにぃ」だなんて言いやがる。

うぜぇ。


けっ、とそっぽを向いてやるのに、こいつは全く動じもしねえで用意したチキンでオレを釣ろうとしてきやがる。肉食のケモノかなんかと思ってんのかこいつ。誰がオオカミだコラ。


むかっ腹が立ってきやがった。

いっちょビビらせてやるか。


「ほら、おいしいお肉だよぉ。あつあつジューシー」

「―――ああ、たしかにウマそうじゃねえか」

「きゃっ」


きゃっ。だってよ。

ちっとはカワイイ声上げれんじゃねえか。

強引に押し倒して腕を拘束してやりながら見下ろすこいつは、なにが起きているのかもよく分かってねえみてえに目を白黒させてやがる。


「てめぇが誘ってんだ。喰っちまっていいんだよな、おい」


こうしてビビらせてやれば少しは口も減るだろ。


―――そう思うオレだったが、こいつは思ってもみねえことを言いやがる。


「……うん。いい、よ?」

「はぁ?」


なに言ってやがるんだこいつ。

正気を疑ってやると、まるでその疑いを晴らすみてぇに、するっと手をすり抜けてボタンを外していく。


「クリスマスに、ふたりきりで過ごしたいって……そう言った時点で、ほんとは―――分かってたんでしょ?」

「おい、ユミカ……冗談になってねえぞ」

「冗談なんかじゃないよ」


うっそりと笑うユミカ。

今まで見たこともねえその顔に、なんだ、イヤにのどが渇きやがる、牙が疼きやがる。


分かってた、だ?


なにをだよ。

てめぇがオレを好きだとか、そんなバカみてえなことをか?

んなわけねえだろ、だってこんなオレに、てめぇみてぇなヤツがよ。

ワルぶってるのに憧れてるみてぇなやつにコクられたことはある。

だけどてめぇはそうじゃねえ。

オレのことをよく分かってるはずだ、オレのくだらねえとこを、誰より知ってんだろ。


なのに、なんで。


―――離れなきゃいけねえ。


そう直感する。

逃げようとしてんだと、そう分かった。

だってのにこいつは、オレのほっぺに手を添えて、それだけでオレはもう逃げられやしねえ。


「私を、食べて……?」


視界が真っ赤に染まる。

こいつを喰っちまいてえとそう思う。

そんな野性に牙をむき出して―――


がぶっ。


あつあつじゅーしー。


……あ゙ぁん?


「―――ぷふっ」


オレの口にチキンを突っ込みやがったユミカが、こらえられねえって感じに噴き出しやがる。

舐めてんなこいつ。


「ふ、ふふっ、私を食べてって、ふっ、今時そんな……ぷはっ、ふ、おもしろぅむう!?」


笑い転げる間抜けの口をふさいでやる。

上等じゃねえかよ。


「んちゅっ……オレぁ『冗談になってねえ』っつったんだぞ、なあおい」

「さくら、ちゃ」

「オレがどんだけてめえの顔を見てきたと思ってんだ。―――てめぇがマジかどうかくらい、分かんだよ」

「……」


否定なんぞできるわけねえ。

あんな下らねえ逃げを、このオレが許すわけねえだろぉが。


「てめぇの望み通りにしてやるよ」


ったくよ。

オレがどんだけガマンしてやってたのかも知らねえで。

ああいや、だからプレゼントってか?


だったらよお、遠慮なんぞしなくてもいいわけだなぁ、ええおい。

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