第2話 初クリスマスの恋人と
~初クリスマスの恋人と~
恋人のユミカさんは、いつも待ち合わせの10分前にやってきます。
早すぎず遅すぎず、私に気を使わせないように―――そんな彼女らしい気遣いがしみ込むみたい伝わってきて、待っているときも、待たせてしまったときも、たまらなく彼女のことを好きなのだと、そう実感できます。
だけど今日だけは、違っていました。
今が待ち合わせの30分前だと、腕時計は教えてくれます。
恋人と迎える初めてのクリスマスだからと浮かれてはしゃいで子供みたい。
そんな自嘲の笑みを浮かべると、もこもこのマフラーに籠った吐息が眼鏡を曇らせます。
そして顔を上げて眼鏡を拭いてみると、そこには同じように彼女がいました。
子供みたいだなんてあざ笑った私はあっさり手のひらを返して、照れ笑う恋人の姿をいとおしいと思います。
「こんばんは、トウイ」
「こんばんは、ユミカさん」
ふたりであいさつを交わして、当たり前みたいに手をつなぎます。
春には指先が触れるだけで恥ずかしかったのに、今は手をつないでいないだけで寂しいと感じるようになっていました。どうやら私は、自分で思っていたよりも寂しがりやだったようです。
「予定よりゆっくり見て回れそうだね」
「はい。ふふ。そうですね」
示し合わせたわけではなく、惹かれあうように生まれた30分。
その分私と長くいられるのだと、彼女はそう考えているようでした。
彼女はいつもそうやって、私への好きを隠そうともしません。
私はまだそれを面と向かって伝えるのは少し気恥ずかしくて、だからその分、手を少しだけ強く握ります。もちろん彼女は、それを握り返してくれるのでした。えへへ。
彼女とたわいもない話をしながら、人気のデートスポットだというイルミネーションの奇麗な公園をめぐります。
以前までの私は、人気ということは
現にそこにはたくさんの人がいて、すれ違う時に肩がぶつかってしまいそうにもなります。
だけど、今はそうじゃないんだと分かります。
ぶつからないようにと肩を抱き寄せてくれる彼女が、時折イルミネーションの幻想的な光景に見惚れる彼女が、そばにいる―――それだけで、世界は簡単にふたりっきりになってしまいます。
どんなに人がいても、彼女だけしか目に入らない。
だから、なるほど人気にもなるだろうって、そう思えるこのとてもきれいな場所を、彼女となら心置きなく、心の底から楽しめる。
彼女と恋人になって、それは初めて知ったことでした。
―――そして。
もっと彼女に触れてみたいという胸の奥の甘いうずきもまた、彼女と恋人になって、初めて知ったものでした。
「ユミカ、さん」
「―――ぁ、うん。キレイだね」
呼びかければ、奇麗なものに見とれていた彼女が振り向いて笑みを浮かべます。
この特別な日に、その視線を独り占めしたいと―――そう思うことは、わがままでしょうか。
私は、自分で言うのもなんですが、今までいい子に過ごしていたつもりです。
彼女とだって、ともすれば年齢不相応なくらいに、プラトニックな関係を続けてきました。
だから。
だから今日、この日くらい、プレゼントをもらっても……いい、ですよね?
「んっ」
「ちゅ、」
ああ。
自分がこんなに、積極的なことができるとは思いませんでした。
彼女といると、やっぱり、いつもいつも、知らない感情を、気持ちを、自分を、知ることができます。
それにもうひとつ、とっても素敵な発見がありました。
彼女は、うふふ。
キスをすると、こんなかわいらしい顔をするんですね。
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