第1話 今年成人した妹と

~今年成人した妹と~


「「かんぱーい」」


ぃん、とグラスが軽快に鳴る。

妹のゆみはどこか興奮した様子でグラスに口をつけて、ぐぐとかわいらしく目を見開いた。


どうやら、初めてのお酒はお気に召したようね。

この子にいいところを見せたくて奮発したシャンパンの値段は秘密にしている。

それでもこんなに素敵なこの子を見られたのだから、この時点でいい買い物だったのだとそう確信できる。


ついついにこにこと頬が緩んでしまう私に、ゆみはほんの少し赤らんだ頬をむゃと目立たせて笑みを向けてくれる。

まだ酔いが回るには早いから、きっとそれは初めてのお酒への興奮と、そして自惚れでなければ―――私とこうして聖夜を過ごせることへの、幸福なのでしょう。


それが伝わるから、私はもっともっと、うれしくなってしまう。


「姉さん、お酒っておいしいね!」

「ふふ。飲みやすいものを選んだもの。でも、あまり飲みすぎてはいけないわよ?」

「はぁい♪」


言葉に音符を弾ませて、愛する妹はあっという間にグラスを空にしてしまう。

お代わりを注ぐ合間にあの子のお皿にピザとチキンを取り分けてあげると、飛び切りの笑顔でキスをせがんでくる。

こんな特別な夜に、デザートは後でだなんてもったい付けたりはしようと思えない。

それに私だって、今日はなんだか、いつもよりもあの子の熱を感じたい気分になっているの。


「―――大好きよ、ゆみ」


まるでキスに吸われるように、言葉は自然とこぼれていた。

ゆみはくすぐったがるように笑って、もう一度小さなキスをしてくれた後で、ささやくように同じ言葉をつぶやいてくれる。


それから私たちは、甘いお酒と豪勢な食事で、特別なひとときを過ごした。


そう、今夜は、いつもよりも、もっと特別な日。


それを確かめるように、食事のあと、ふたりで一緒にお風呂に入った。


「んぅ……なんか、ふわふわするかも」

「ゆみはいっぱい飲んでいたものね」


腕の中でお湯に溶け出しそうなゆみに私は笑う。

それからむくむくと芽を出すいたずら心を、私はどうやら止められないみたい。


「―――それなら今日は、止めておこうかしら」

「ダメッ!」


言葉が終わるのさえも待たずに、ゆみは泣きそうな顔で振り向く。

あ、という間もなく熱烈に口づけられて、歯にあたって切れた唇から血液がこぼれていくのが分かった。

そんなことにも気が付かないくらいに、息ができないほど、ゆみに愛される―――ああ、なんて幸福なのかしら。


結局ゆみが私を解放してくれたのは、唇の血がすっかりと止まってしまう頃。

浸っていたお湯が冷めているのか、それとも私たちの体が熱くなりすぎてしまったのかも分からない。


「きょう、するってやくそくしたっ」

「ふふ。ええ、そうね」


どこか焦点の合わないゆみの瞳。

随分と酔ってしまっているのね。


私は笑いながら、そんな彼女を浴室から攫ってしまう。

丁寧に身体を拭いてあげている間にも「するの、きょう、」なんてかわいらしいひとりごとが甘い吐息に紛れてこぼれていく姿はどんなに愛らしいことかしら。


もしも拒まれたとしても、私のほうがガマンできなさそうだわ。


―――そんなゆみも、いざ寝室にやってくると、随分と酔いも覚めてしまったようで。


私を見る瞳はどこかおびえているようで―――けれどそれ以上に、期待と、そして喜びが、きらきらと煌めいていて、とってもきれい。


「大丈夫よ。私が、優しく教えてあげる」


こんなときに、姉としてこの子よりも長く生きてきたことがうれしいとそう思える。

だってその分、この子に飛び切りの経験をさせてあげられるのだから―――

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